第147話 隠される真実と裏側 その1


 何でもない朝だった。綺姫が弁当を作っている間に俺は朝食用のトーストを二枚焼いて待っていたらスマホに通知が有った。


「だって、昨日の咲夜の話じゃ逮捕って」


「俺もそう聞いた……でも、この通知じゃ」


 実は昨日の時点で作戦の成功は聞いていて須佐井照陽を大学から追放したと報告を受けていた。具体的に言えば彼女は警察に逮捕された……はずだった。


「で、でも……」


 写真でしか知らない相手だが須佐井の姉だ。顔も似ているし何か思う所が有ったに違いない。


「綺姫が気にする事じゃないさ」


「分かってるけど……なんか複雑なんだ」


 そして俺達は複雑な心境のまま学校へ向かった。朝の合流場所で海上も浅間も無言だった。二人にも連絡が来たのだろう。


「なあ、浅間……聡思さんは?」


「荒れてた、昨日さ……私、ファーストキスだったのに、それなのに今朝は……」


 いきなりカミングアウトされたが俺はもとより綺姫や海上ですら沈黙が先に立ってしまった。今回の騒動は最初から最後まで俺達には遠くて何かアッサリと終わってしまった感じがして現実感が無いんだ。


「これで終わり……なの星明?」


「ああ、少なくとも聡思さんの戦いは終わったと思う」


 綺姫の言葉に答えたが腑に落ちないのは俺も一緒だ。そして、それは海上と浅間も同じようで今日は姫星祭の実行委員を他の委員に任せ聡思さんと瑞景さんに話を聞こうという話になった。


 そして放課後、瑞景さんは忙しいらしく聡思さんのみ合流になって毎回恒例になりつつある俺のマンションに五人で集まった。


「じゃあ照陽を追放する所から話を、お願いします」


「あ、ああ……分かった」



――――聡思視点


 星明や咲夜に促される形で俺は追放当日の状況を思い出して行く。俺は瑞景さんの協力で他の元サークルメンバーらと一緒に照陽や取り巻き達を追い詰めていた。


「はぁ? だから……笑わせないでよ、そんな出所の怪しい証拠で私をパクれると思ってんの、これだから童貞は」


 こんな感じで初手から煽り散らかす化粧の濃いギャルっぽい女が須佐井 照陽だ。たしかに今なら弟に顔が似ているというのも分かる。


「それにアンタ達の行動なんて丸分かりなのよ、バカね!!」


「なにっ!?」


 そして照陽は勝利を確信したような顔で指をパチンと鳴らした。だが指を鳴らしたポーズのまま特に何も起こらなかった。


「え? アンタ達なにやってんのよ早く出て来なさい!!」


 それからガタガタ音がして扉が開くと三人のチンピラ風の男が血まみれになって放り込まれた。俺や他のメンバーが固まり照陽の取り巻きも騒ぎ出す。


「ちょっ、ちょっと、照陽ぃ~」


「須佐井さ~ん」


 照陽に協力して俺達を裏切った白幡しらはた先輩らが照陽に助けを求めるが肝心の照陽も固まっていた。これが瑞景さんが言っていた仕込みか。


「君の頼みの綱の半グレ集団『真・デス手弐位テニィー』は既に拘束済みで学内の子飼いの雑魚はご覧の通り僕の友人が仕留めた」


 その言葉の後に背広にサングラス姿の二名の男が狭いサークルの部屋に入って来た。その動きは洗練されていて俺も息を飲んだ。


「あんた一体何者、なの……」


「僕は、いや……俺はただの大学生さ」


 俺? 瑞景さんの顔付きがいつもと違う。それに一人称まで違う。須佐井を取り押さえた時や夏のバイト中もスポーツや武道はやってると思っていたが明らかに訓練された動きだ。


「瑞景……さん?」


「大丈夫だ聡思くん。こちら俺が内定をもらった秋山警備保障の先輩方さ」


 警備会社? そういえば言ってたな護衛の練習って……じゃあ星明たちを見張ってたのは本当に練習のためだったのか。


「す、凄いよ八上くん、そんな知り合いが!!」


「助かったぜ八上!!」


 元サークルメンバーの二人が言ってくるが俺は曖昧に返事をして急に目の前の友人が恐ろしく見えて来た。


「ま、まあな……」


「さて、最後だよ聡思くん決めてくれ」


 そう言われて俺は一歩前に出た。例え瑞景さんに何か裏が有っても今は復讐に協力してもらって実行中なんだ。ならばチャンスを逃す訳には行かない。


「あ、ああ……須佐井照陽!! お前の今までの悪事は全て警察に通報済みだ!! もう、お終いだ!!」


「ちっ、警察なんて私を一時的に拘束できるだけよ、必ず復讐してやる!!」


 なおも吠える照陽だが口だけで瑞景さんが連れて来たグラサン達に睨まれ腰が抜けて立てないようだ。そこでタイミングよく後ろから声がかけられる。


「はいはい、そういうのは署で聞こうかな須佐井照陽さん?」


「え? あ、あんた……なんで?」


 更に驚いたのは俺も一度だけ会った刑事が来た事だ。工藤優人警視、星明が世話になってるし俺も例の須佐井を捕まえる際に世話になった刑事さんが来た。


「そりゃ通報が有ったからね、須佐井照陽さん来てもらおうか弟さんと同じくね?」


「は? それって……ま、まさか、嫌よ!! 止めて!!」


 工藤警視が警察手帳を見せ名を告げた瞬間、照陽は露骨に慌て出し半狂乱になっていた。終いには俺に助けを求めて来て明らかに狼狽していた。


「何を言ってるんだい? ただ警察に来てもらうだけさ……どこよりも安全だよ?」


「その通り合法的に裁かれるよ?」


 瑞景さんがそう言うと背広の刑事らに囲まれ連れて行かれる照陽一派だが他の二人と違い最後まで照陽だけは抵抗していた。


「悪かったぁ!! 八上、お願い、私が悪かったから!!」


「い、いや、ここはキチンとざまぁをするって……」


 今は嫌悪感しか無いが、それでも俺は迷った。まるで殺される前の人間みたいな必死の形相でさすがに戸惑っていた。


「お願い、コイツらはせんっ――――「連れて行け、丁寧にな?」


 だが何かを言う前に工藤警視が口を塞ぎ照陽は殴られ気絶させられた。それは警察というより別なもっと恐ろしい何かに俺には見えた。

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