第146話 もう一つの悪意 その3


「はい、先ほど四人で見てたんですけど聡思さんのサークルの騒動が奴の遊びだったのが分かる内容でした」


「……えっ!? ストフリ事件にも関わってんかよあの女。俺ら中学だったぞ」


 報告書には色々と照陽の悪事は載っていたが、やはり注目されたのは三大イベサー事件と呼ばれる八年前の件だった。


「そんなに有名だったんですか?」


 綺姫の質問に俺も気になった。俺自身も小さく当時の記憶が曖昧なのも有って良く覚えていないからだ。


「ああ、連日ワイドショーでやってたし、ですよね瑞景さん?」


「当時は現役の学生が薬物の売買と集団強姦事件を起こしたって話題だった、学校でも怪しいイベサーに関わるなとアナウンスされたね」


 それを聞いて思い出すのはやはり須佐井だった。あまりにも須佐井の起した事件に似過ぎている。いや違う、むしろ模倣したのは須佐井の方と見るべきで、なら問題は須佐井に方法を教えた人間だ。


「これは、やはり……」


「そう、そして彼女は今年、かつての首謀者と同じように大学を留年している事から同じ方法で事件を模倣していると思うんだ」


 資料を見ながら瑞景さんが言う。当時の首謀者らの一部は有名大学の学生というブランドイメージを利用するため留年を繰り返していたらしい。


「そういえば詩月さんって社会人だったもんね、普通に考えて変だよ!!」


「そういえば背広着てたっけ」


 綺姫の言葉に海上が反応するが俺も今さら気付いた。そもそも須佐井は三姉弟で詩月さんの話が真実なら二番目なはずで矛盾に気が付いていなかった。


「でさ、結局どうすりゃ良いんだよ……」


 そこで観念して呟いたのは聡思さんで今まで俺達は聡思さんの立てた計画を全否定していたから落ち込むのは当然の結果と言えるだろう。


「星明くんには何か案が?」


「瑞景さんこそ有るんじゃないんですか?」


「おいおい、仲間同士で探り合いはやめないか?」


 そうは言うが俺は一連の出来事から瑞景さんを信用出来ずにいた。海上も同様だったらしく家に来る前にも軽く警告されていた。


「ミカ兄は前科有るから……何かウチらに隠してないよね?」


 恋人である海上に疑われるのだから相当な事態だ。だが瑞景さんは笑って流すだけだった。


「それより聡思兄ぃのポンコツ計画の改善案は有るの? それが問題だし」


 そして海上が探りを入れている中で浅間は今の話題は全無視だった。本当に聡思さんの事しか今は頭に無いのが良く分かる。


「もちろん有る、そうですよね瑞景さん?」


 俺の言葉に頷くと瑞景さんが口を開いた。



――――瑞景視点


「――――というのが僕の考えだ、どうかな?」


「完璧ですね、しかも聡思さんの第一目標は達成される」


 俺の提案に星明くんは同意してくれた。さすがに頭はキレるようで安心したし聡思くんとは違って状況は冷静に見えてるようだ。前は金持ちのボンボンだと思っていたが考えを改める必要が有りそうだ。


「う~ん、でも……」


「実際、照陽を排除するという点では成立してますし……」


 さらに説得を続けているが聡思くんは嫌なようだ。しかし個人的な情は捨ててもらわないと計画に支障が出る。須佐井照陽を排除するのは必要だが大事の前の小事で全ては不安要素の排除が目的なのだから。


「ああ、でも……どうせなら」


「この女を皆の前で叩き潰したいんでしょ聡思兄ぃは……でも難しいんでしょ?」


 これだけの証拠が有れば派手に照陽を大学から追放するのも不可能では無い。それに皆は知らないが裏から千堂グループのバックアップも有るから余裕ですらある。これはもちろん皆には内緒で、だから俺が誘導する。


「聡思くんは照陽を追放したいだけなのか? それとも全てにケジメを付けて咲夜ちゃんとキチンと付き合いたい……どっちなのかな?」


「それは……俺は、全部を清算して、いや違う……俺は」


 これで決まった。何だかんだ言っても聡思くんは青い。何より咲夜ちゃんを大事にしているから最後は彼女を出せば簡単に落ちる。かつての俺のようにな。


「では聡思さん……良いんですね?」


「ああ、分かったよ星明。ま、俺もワガママ言ってられないしな」


 そう言って咲夜ちゃんを見る目は優しい。君はそれで良いんだよ聡思くん。俺みたいになってはいけない。


「ミカ兄……やっぱり何か」


「なんだい珠依?」


 そんな目で見ないでくれ……全てはお前を守るためなんだ。だから俺は、あのグループに魂を売った……どうか許してくれ。


「いつか、話してよね?」


「…………何をかな?」


 俺は偽りの面を被って笑いながら好きな女を騙してでも目的を遂行する。だからね葦原星明くん、まだ君を利用させてもらう。俺とグループのためにも……。



――――星明視点


「じゃあ、サークルの部室に呼び出し奴を追放する流れで行こうと思う!!」


「当日は僕が立ち会うね、君らは学校だし」


 聡思さんの言葉に瑞景さんが言うと俺たちは納得するしか無かった。ちょうど向こうも文化祭のタイミングで決着を付けるそうだ。


「じゃあ当日は二人に一任で、それで良いな?」


 俺が残りの三人に聞くと綺姫は「了解!!」とビシッと敬礼すると夕ご飯を作りに行ってしまった。今夜はカツ丼らしい。他の二人も渋々と頷いた。


「ウチも構わない……けど」


「まだ何か有るのか珠依?」


 海上はまだ含みが有ったが最後は納得して折れてくれた。俺も思う所が有るけど今は二人に任すしか無いと思う。そして数日後、俺たちの元に意外な結果が届いた。


「えっ……嘘、今の本当なの星明?」


「ああ、須佐井照陽が自殺したみたいだ……」

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