第145話 もう一つの悪意 その2


「それは?」


 浅間の問に答えるのは簡単だが下校時刻だし、この場を教師に見つかるリスクも有る。ただでさえ今の俺たちは校内で目立つ存在で慎重に行動すべきだと思う。


「残りは……俺たちのマンションで話そう」


「そうね、これ以上は人が居なくても危険か……」


 俺の言葉に海上が頷くが浅間は先が気になっているようで俺を睨んだ。お預けを食らった形になるから当然だろう。どう納得させるかと頭の中で考えているとパンと手を叩く音が聞こえた。


「うんうん、じゃあ二人も夕ご飯食べてってよアタシ作るから!!」


「いやアヤ、今は話の続き……」


「咲夜も落ち着きなって、葦原、計画は聞いてるんでしょ?」


 海上の言葉に頷いて俺の口から咄嗟に思い付いたのは今日の今後の予定だった。


「ああ、まだ時間は有るし、今から聡思さんと瑞景さんもマンションに呼ぶから全員で話したい、どうだ?」


「それは……そうね、分かった」


「六人分か~!! ちょっと帰りにスーパー寄るからね星明!!」


 そんな感じで今日も俺のマンションで集まるのが決定した。最近は本当に俺の部屋は人の出入りが激しく一人の時が少しだけ懐かしい。でも、あの家で一人でパソコンと睨めっこしていた時よりも今の騒がしい方が楽しいのは内緒だ。




「――――というのが俺らの考えた作戦なんだ」


「さて、皆はどう思う?」


 自信満々に言う聡思さんと困惑した様子で俺達に問い掛ける瑞景さん。ちなみに聡思さんの言う俺らとは、大学の元サークル仲間たちで瑞景さんや俺達は含まれて無いとだけ言っておこう。


「無理ですね」

「無理だね」

「ダメダメでしょ」

「聡思兄ぃ……バカなの?」


 上から順に俺、綺姫、海上で最後の浅間の言葉が容赦無く聡思さんのプランを否定した。割と無理な事やろうとしてたんだな聡思さん。


「いや、完璧だろ……」


「聡思兄ぃ、ヒーローショーじゃないんだから、好きなの知ってるけど」


 そして肝心のプランだが、まず復讐の方法だが衆目に彼女つまり須佐井姉こと照陽の悪事を晒す方法で行うそうだ。それは問題無いのだが行程に問題が有った。


「まず、何でスモーク焚いて登場するのよ、しかも名乗り口上って……」


「いや大事だろ!!」


 その言葉に浅間は絶句していた。どうやら聡思さんのヒーロー願望が強過ぎるのは昔からのようで合流前に聞かされていた瑞景さんは俺達に丸投げしたようだ。


「聡思さん……俺の持論なんですけど良いっすか?」


「ああ、星明、お前なら――――「内部告発する時に会社とか上司に堂々と名乗りを上げてから行動を起こす人は居ないと思います」


「お前……学生だよな?」


 頷くと俺の過去の経歴、俺の過去は真っ黒だが学んで来た物は意外と自分のためになっている。その中にはジローさんや四門さんから聞いた話も有って、その中には企業の脅し方、邪魔者の始末の仕方なども有った。


「で、俺の聞いた話の中に今みたいな告発系で聡思さんの作戦の劇場型はほとんど成功しません、そういうの成功するのはテレビの中だけです」


「それって倍返しだ!! とかスカッと? みたいな?」


「そうだね、さすが綺姫は詳しいね……だから聡思さん、狡猾な相手に正義の味方は弱いという話です」


 この手の派手なパフォーマンスは見てる側は良いが実際にやるのは厳しいのだと話し、言葉を切って聡思さんを見た。


「だけど、それアンタが言うの葦原?」


「どういう意味だ海上?」


「あんたとアヤの件って凄まじくド派手なパフォーマンスだったけど?」


 それを言われて思い出すのは須佐井を追放する際、計画が狂って学校内で暴力騒動に須佐井の犯罪行為などが明るみに出て、最後は全校を巻き込んだ大事件に発展した大騒動の話だ。


「そ、それは……」


「あれはアタシも悪いんだよ小野っちや皆で大事件にしたようなもんだし」


 本来ならクラス内の揉め事だけで済ませるはずだった。それを須佐井の暴走と俺の計算ミスそしてコッソリ動いていた綺姫の働きかけの三つが合わさり須佐井を海外追放する事件に発展した。




「いや綺姫は悪く無い、俺が迂闊だった……それに計算ミスだったのは海上も分かってるだろ?」


 そもそも俺と須佐井を抑える計画を立てたのは海上だ。綺姫と浅間は横で聞いていただけでメインは俺たち二人と先ほどから座ってニコニコしている瑞景さんだ。


「まあね、でもウチの勘だとアレが原因でしょ聡思さん?」


「うっ……実は、そうなんだ」


 海上の言葉に頷く聡思さんはバツが悪そうな顔をしている。


「どういうこと聡思兄ぃ?」


 そこで聡思さんは須佐井を追放した時の俺たちを見て自分も動き出そうと思って計画したらしい。


「だから、あの女を大学から派手に追放してやろうと思ったんだ……居なくなった皆のためにも……サークルのためにも」


 気持ちは分かるけど俺と綺姫の時は偶然がいくつも重なって上手く行った。幸運なだけだったとも言える。そして更に別の問題も有った。それを指摘したのは今まで黙って聞いていた瑞景さんだった。


「だけど実際問題それは難しいよ、だって一部の計画が漏れてるんだから」


「そ、それは……」


 そう、問題は元サークルの仲間の一人が向こうの照陽と通じている事が判明している事で恐らくは今の計画は向こうに筒抜けになっているだろう。


「ですから、これの出番ですよ、何のために高い金出したんすか聡思さん?」


「それが、八岐金融の情報なのか」


 だから俺たちは更に逆転を狙い事態を打開する一手を打つ必要が有る。それが封筒の残りの中身だ。

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