第119話 綺姫の決意 その1
◆
――――星明視点
「わぁ~!? すご~いアタシこんなの初めてです!!」
家の奥から恋人の弾む声が聞こえ続いてパタパタ足音が耳に入る。ドアが開いて後ろを見ると白がベースで薄い水色の花柄の浴衣を着た美少女が微笑んでいた。
「きれいだよ、綺姫……似合ってる」
「う、うん……ありがと星明!!」
浴衣は白だが顔は真っ赤で照れているのが丸分かりだ。恥ずかしそうに一回くるりと回って見せてくれて俺も嬉しくなる。そんな俺達に後ろから声をかけて来たのは俺の義母だった。
「昔の私のだけどサイズも少し小さいだけで他は良い感じね、大丈夫?」
「す、少し胸が苦しいけど大丈夫でっす」
「ああ、大きいものねアヤちゃん」
それはその通りだ綺姫は制服の上からでも分かるくらいには大きい。それに毎晩、おっといけない今日は健全なお祭デートで綺姫と俺にとってはご褒美デートになる。
「気付けば、そのぉ、大きく……あはは」
「静葉さん、それくらいで今日は打ち上げみたいなものですから」
「娘がいたこと無いからつい嬉しくて、そうよね今日は二人とも大変だったからね」
その言葉で俺は数時間前の須佐井家との示談での出来事を思い出していた。
◆
時間は戻って日曜の午前十時過ぎ、そこで我が家と須佐井家との最後の示談交渉の場が始まろうとしていた。本日は交渉と言うよりは最後の確認と挨拶のような場だ。ちなみに綺姫は既に我が家の一員扱いで静葉さんが父を黙らせたらしい。
「アタシ、イニシャル変わらないんだ……えへへ」
「ああ、そうか天原も葦原もAだね」
「もう結婚した気でいるの二人とも? 是非お願いね!!」
まだ須佐井家が来ないとはいえ喫茶店で不用意にはしゃぐ静葉さんは真面目な顔して俺の嫁取りに必死だった。検査結果で俺の治療は綺姫依存と出ている上に昨日も手料理を実家で振る舞われ大満足なのも理由の一つらしい。
「え? それマジです? 静葉さん」
「ええ、割と大マジよ本当に星明くんにとってあなたは生命維持装置並みよ、むしろくっ付いてもらわないと困るわ!!」
そんな感じで我が家の将来が決まりそうな話をしていると須佐井家の面々もやって来た。今回は須佐井の両親と詩月さんの予定で他にも姉がいるらしいが基本的に交渉にはノータッチで欠席だと竹之内先生から聞いている。
「お待たせいたしました竹之内先生それに葦原さん」
「いえ五分以内は許容範囲内ですので、ねえ奥様?」
「はい、須佐井さん、その節はどうも」
「いえいえ、奥様とお二人もご健勝なようで……」
今日は向こうも弁護士を連れて来ていて竹之内先生とは何度も顔合わせをして誠意の有る人らしいから交渉で気にすべき相手は須佐井母だけらしい。
(ここまで昨日の打ち合わせで話したけど覚えてる綺姫?)
(うん、大丈夫だよ竹之内先生に叩き込まれたし)
小声で俺達が確認している間にも竹之内先生と相手の弁護士が書類を出して改めて事実確認をしている。心なしか相手の弁護士と須佐井社長は緊張して見えたのが不思議だった。
「どうかなさいました社長?」
「いえ奥様、場所がこことは聞いておらず……その」
場所? どういう意味だろうか……確かに俺も別な意味で驚いた。場所は実家の隣の市の喫茶店で以前にも一回、工藤警視に連れて来てもらった場所だ。だが警視の義理のお姉さんがいる喫茶店という印象しか俺には無かった。
「当家にとっても因縁深い場所ですので……」
「なるほど……では改めて葦原の御曹司いえ星明さん、それと天原さんもこの度は家の息子が本当に申し訳ございませんでした」
立ち上がって須佐井社長いや
「いえ、十分な謝罪と賠償それに彼への処分も聞けたので、ね? 綺姫」
「は、はい……安心、です」
「そう言って頂けるとありがたい」
まず尊男だが南米のとある国の日本人学校に語学留学となっているが実際は向こうで監視付きで、そのまま就職させ日本の地を二度と踏ませる気は無いと話された。須佐井家側としては資金援助は行わず金銭面などは監視者が徹底的に管理し十年はそのままになると話された。
「まあ、あいつが更生すれば十年で日本には戻れることになるね……」
「なるほど……そうですか十年」
尊男が向こうで信頼されればパスポートを自分で管理させることも有るかもしれないと詩月さんは話した。だが続けて彼が言ったのは兄としては冷たい一言だった。
「もっとも、あのバカが更生するとは思えないので……永遠だから安心してくれて良いと思うよ二人とも?」
「あっ、そう……ですね」
「うん!! ありがとうございます詩月さん!!」
俺が何とも複雑な表情で言うが綺姫は逆に元気になって詩月さんの言葉に首を縦にブンブン振っていた。やはり尊男が日本に永遠に居なくなるのが心底嬉しいようだ。俺も苦笑しながら見ていたら詩月さんが手を出して来た。
「では和解成立の握手ということで……」
「んっ!? は、はい……そう、ですね」
やはり和解しても須佐井家の人間には拒絶反応でも有るようで体が反応する。咄嗟に俺の変化に気付いた綺姫が反対の手を握ってくれ無ければ危なかった。
「えっと、何か嫌だったかな?」
「いえ……やっと全てが終わったと安堵してて、失礼」
そうですかと詩月さんもホッとした笑みを浮かべ今度こそ全てが終わったかに思えた時だった。
「こんなの、こんなの認められませんのおおおおおおおお!!」
まだバカが一人残っていた。
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