第118話 世界の表と裏 その4


 優しく、そして力強い声は星明のいつもの感じと違ってたくましくて私の心の不安を一瞬で溶かしてくれた。


「綺姫、心配かけてごめん、でも俺、ぜんぜん大変じゃないよ」


「う、うん。アタシも勝手に先走って、実際ただ嫉妬してるだけで……子供で、だ、だから、その……んんっ!?」


 恥ずかしくて苦しくて何を言って良いか分からない。そんな私から星明はそっと離れて振り返ると同時に目の前に星明の顔が有った。そして唇に熱い感じが伝わる。


「ふぅ、綺姫、俺も君を絶対に失いたくない、だから態度で示すよ」


「んっ、ふぅ……分かった」


「じゃあ帰ろう、仕事より綺姫が大事だからね」


 何か忘れてる気がするけど星明の腕に抱き着いて幸せオーラ全開の私には他はどうでも良かった。だから振り返った星明がタマと咲夜に「今度埋め合わせする」なんて言ってるのにも気付けなかった。


「ま、ウチら今回は完全にサポーターだし帰ろっか、お~い咲夜~?」


「いいなぁ……私も聡思兄ぃに言われたい、キスしたい」


 後日、私は埋め合わせに二人にケーキバイキングを奢ることになる。あの夏のバイト代の初出費が女子会費になるとは思ってなかった。もう秋なのに今日も私と星明の熱い夜が続く裏では色々なことが有るみたいだけど私達には関係なかった。



――――???視点


「ぐあっ……ちきしょう、何しやがるっ!?」


「○×※●□▲◇#△!!」


 何言ってるかサッパリ分かんねえし周りは外人だらけだ。あれから何日経ったか分からねえが俺は薄暗い洞窟の中に放置されて今は穴掘りをさせられていた。


「うっせえな、分かって――――ぐえっ!?」


「ハヤク、ヤレ!!」


 言葉が通じそうな相手もいるが片言ばっかだ意味不明だ。目の前では俺を殴った男が今度は別な男に殴られていた。


「●▽※△☆▲※◎!!」


「なんなんだよぉ……」


 しかも銃を持った見張りの男がやって来てそいつらを撃ちやがった。目の前でビクンと跳ねた後は二人とも動かなくなる。ここに来て何度も見た光景だ。


「何だよぉ…… お、俺が何したってんだ!?」


「ハヤク、ヤレ!!」


 銃を付きつけられた後にケツを蹴られると俺は痛みで飛び跳ねて死体からスコップを奪い作業を始める。


「分かったぁ!! 分かったから!!」


 昔、父さんや詩月に教えられた土方の仕事を思い出す。下っ端の仕事はしたくないから俺はやらなかったが詩月みたいなクズは喜んで手伝って父さんに褒められててウザかった記憶だ。だが今はやるしかない。


「〇▲✕▽☆●※◎!!」


「なっ、なんだ? 今度は……」


 周りの連中に付いて行くと何かの匂いがしてくる。今日の飯の場所だと分かりゴミみたいな飯が配られる。こんな貧相なもんを食わされるならアヤの弁当の方が百倍マシだ。


「ママのご飯が食いてえ……」


「おまえ日本人か?」


 俺が呟いていると何日振りかの日本語が聞こえる。振り返るとそこには白髪のおっさんがいた。見た感じ父さんと同じくらいだ。


「お、お前も日本人か!! ここは何なんだ!?」


「ここが何かも知らないのかよ、ここは千堂グループ所有の鉱山だ」


 何だそりゃ? 俺は今までの疑問と気付けば日本で気絶させられ起きたらこの洞窟だったと一気に話していた。


「俺は須佐井 尊男だ、実家は会社をやってる金持ちだ俺に協力すれば……」


「どんな金持ちでも千堂にゃ勝てねえ、俺は十年以上ここにいるんだ」


 既に諦め切ったオッサンの目は生気が無く。飯も最低限だけ食べるとゴミ箱に捨てていた。もったいねえな後でゴミ箱漁るか。


「は? 十年ってマジかよ……どうしてここに?」


「あのカスと金髪女のせいで俺らはガキの時ここに入れられた……」


「俺らって仲間いんのか!?」


 そいつらも日本人なら何とか集まって脱走できると考えたが次の言葉で俺は更に絶望することになる。


「もう二人とも事故でくたばった。生き残りは俺だけ……」


「ま、マジかよ……てかあんた名前は?」


「名前? ケンジだ」


 あれから数日が経ったが俺はオッサンいやケンジと一緒に行動していた。そんなある日ムキムキの黒人連中と作業している時、いきなり話しかけられた。


「△◎※✕●☆▼□〇!!」


「なんだ?」


「えっ、いや……〇□✕☆▲◇※!!」


 ここが長いケンジは言葉も少し分かってて俺に翻訳をしている。こいつは使えると思って翻訳機代わりに俺が使ってやることにしていた。


「なんだって?」


「今夜ここに集合だってよ、脱走するそうだ」


「マジかよ!! あんたも来るだろ!?」


「ああ……」


 そして俺は洞窟内の寝床から周りの奴らを起こさないように抜け出すと指定された場所に来た。だが、そこには黒人野郎が三人しかおらず他は俺だけだった。


「おい、オッサンは? それより脱走、えっと……Dassouだっそう?」


 俺が身振り手振りで言うと向こうが頷いた。さすが俺の英語力だと思っていたら手招きされ近付いた瞬間いきなり二人に囲まれた。


「ザパニーズ、△◎※✕●☆、FOO~!!」


「な、何すんだよ!! 止めろてめえ、服を破くんなっ!! おい、どこ触ってんだ!! やめっ――――ぐえっ!?」


 抵抗したら殴られて倒れると俺は後ろを向いた。するとケンジがいた。


「お、おっさん、たすけ――――「わりいな、俺も自分のケツ穴が大事でよ、新人歓迎みたいなもんだ可愛がってもらえ」


「は? どういう意味だ、止めろ!! おまえらどこに手を!? ま、まさか!?」


「FOOOOOOO!!」


 黒人が俺のズボンにまで手をかけられた時点で俺はやっと奴らの行動の意味を理解した。


「お前みたいなキレーな顔は、そそるってよ、あばよ新人」


「えっ!? おい、まっ、待てよ、うわっ、アッーーーーーー!!」


 俺はそれから何ヶ月も地獄を味わった。

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