第十八章「因縁と二人の関係」
第171話 過去と未来と その1
◆
――――星明視点
入院生活四日目、俺は世界を脅かすような奇病にかかったけど偶然にも首の皮一枚で助かっている状況だ。あと三日もすれば普通の生活に戻れる。とは言っても完全な自由じゃない飼い殺しの未来は確定だ。
「首輪付きの自由か……ふっ」
「星明……アタシ、そういうアブノーマルなのはちょっと……」
そして病室のベッドで俺と綺姫は並んで座っていたが俺の呟きに変な勘違いをしていた。そもそも今まで俺たちはそんな危険なことはしていない。
「綺姫?」
「分かってる、星明だって刺激が欲しいんだよね? アタシ分かってる」
ドヤ顔してるけど完全に勘違いしてる俺の恋人は今日も可愛かった。そして今日の俺たちは私服だった。昨日までは入院中だったから病院側が用意していたパジャマだったが今日は来客が有るから着替えていた。
「兄さん入るよ……それと天原さんも」
「あ、いらっしゃい香紀くん、お茶入れるって……どしたの皆?」
だが入って来たのは義弟の香紀だけではなく春日井さんと意外な人だった。
「やあ二人ともお邪魔するよ。それと、この人は知ってるよね?」
「あの祭で会って以来だな二人とも」
春日井さんが連れて来た人は空見澤の祭で俺たちを説教した高校教師の工藤彰人さん。俺と綺姫が何回かお世話になっている工藤警視のお兄さんだ。
「工藤さん、お久しぶりです」
「で~す」
俺に続いて綺姫もペコリと頭を下げると苦笑している。そして工藤さんは俺たちを見て言った。
「本当に昔の信矢と狭霧に似ているな、二人は」
「それは言わないで下さい先生」
俺たち二人が似ているのかと疑問に思っていたらコンコンと再度ノックの音がして入って来たのは父と静葉さんだった。
「揃ってるわね……じゃあ香紀は外でお願いね」
「分かったよ……じゃあね兄さん!! 失礼します
俺と父では態度が違うが不思議と父は何も言わず苦笑しているから不思議だ。そもそも父は香紀に対して家でも遠慮とは違う不思議な態度を取っていた。
「似て来たな、アイツに」
「ええ……本当に」
少し気になったが次に俺と綺姫を見ると父は深々と溜息を付いた後に睨み付けるような表情に変わると前回の続きと今後の話になった。
◆
「まさか、こんなものを隠していたとはな……
「隠蔽工作するような人間が家に居たのだから防衛するのは当然では?」
俺が言うと父は鼻息も荒く「生意気な」と言って黙り込んだ。春日井さんや父に見せたのは俺たちの失われた過去を示す品の数々だ。そして父は当時の隠蔽の際に口封じした関係者の名前をやっと白状した。
「これで二人の過去を更に調べられる」
「お願いします春日井さん」
俺が言うと任せて欲しいと春日井さんは笑顔で言った。そして次に口を開いたのは工藤さんだった。
「二人の過去については一応ここまで、次はこれからだ。まず最初に俺は高校教師をしてるが裏で千堂グループのエージェントも任されている立場だ」
その言葉に俺と綺姫は警戒した。そして春日井さんを見ると「大丈夫だ」と言ったが大丈夫な訳は無い。千堂グループは俺たちを利用する気で何をしてくるか分からない相手だ。
「春日井くん、工藤くん、君達には過去に迷惑をかけたが今回は……」
「大丈夫です院長それに皆さん、先生は、いえ工藤さんは味方です」
春日井さんが言うが父は断固として譲らない。これに関しては俺も同意見だ。いきなり味方なんて言われても信用は出来ないし数日前に春日井さん自身が千堂グループは危険だと言ったばかりだ。
「君のように裏切ると? あの動乱で特に恩恵を受けた彼がかね?」
「ご指摘の通り俺が千堂を裏切るのは難しいですが二日前、千堂と”彼”との間で形だけの和解はされました。その証として私が派遣されます。ちなみに信矢は減給&降格それに千堂のデータベースのアクセスも全て禁止になりました」
そんな酷いことになってたのか春日井さん。見ると苦笑して「七海先輩に死ぬほど絞られてクビ寸前だった」と言っていたが割と余裕そうだ。
「勝手に動くからだ信矢、今回は結果的に良い方向に動いたが、お前も今は子供が三人も居るんだから先を見据えてだな……」
「すいません、先生……」
また工藤さんの説教が始まると春日井さんは俺たちと話している時とは違って子供に見えた。どこか不思議な雰囲気だから俺は思わず尋ねていた。
「二人の関係は一体……どのような?」
「ああ、工藤先生は俺の高校の担任でね、だから頭が上がらないんだ」
恩師だから信用できるって言い切っていたのかと納得した俺と綺姫の目の前で工藤さんは振り向いて言った。
「そして来週からは君達の担任にもなるから、よろしくな?」
「「へ?」」
二人揃って工藤さんの言ってる意味が理解出来なかった。だが俺たちを無視して工藤さんは続きが有ると言って話し出す。
「今後は君達の安全面やその他の健康状態を見るために学校では俺が、あと君らのマンションの下の階に信矢と狭霧たち一家が住むからよろしくな?」
「「えええええええええええ!?」」
どうやら俺と綺姫への監視体制が一段と厳しくなって卒業まで気が抜けない状況が確定してしまったようだ。
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