第170話 残っていた思い出 その2


「二人とも、もう良いわよ。次は星明くんの番だから入って」


 俺も軽い検診を受けたが、そもそも病院内では静葉さんと父しか俺の詳しい病状を知らないから形だけ診てもらう関係上すぐ終わった。


「という話を香紀としてたんだ」


「そこにも何か有るのかな星明?」


「もしかしたら俺が何か隠したのかもしれない」


 実は俺の中で一つ気になっていることが有った。それが先ほどのガラケーに残されていたフォルダ名と画像のファイル名だ。


「ファイルとフォルダ名? え~っとフォルダ名が『秘密』それと画像の方がoboetero01と02ってなってる」


 綺姫が読み上げた通りでフォルダ名は『秘密』で画像ファイルが”おぼえてろ”のローマ字表記だ。そこから俺は一つの推論を立てていた。


「これは過去の俺からのメッセージかも知れない。だから香紀が見つけたダンボール箱も意図的に隠した可能性が有ると思う」


「なるほど、じゃあ香紀ひとっ走りして持って来なさい」


 そして俺の話を聞いた静葉さんは即断して言った。現状で動けるのは香紀だけだし妥当な判断だと思う。


「えっ!? 何で俺が!? てか母さんが車で戻れば」


「私この後も仕事なの、あんた今日は土曜だから暇でしょ、行きなさい」


 その無慈悲な一言で香紀は家に走って帰り一時間後に台車を引きずって戻った。なお待ってる間は俺と綺姫と静葉さんの三人で普通にお茶を飲んで雑談していたから香紀がキレたのは言うまでもない。



――――綺姫視点


「大人は汚い……」


「ごめんなさいって、今度何か買ってあげるから、ね?」


「俺も悪かった香紀、な?」


 二人が香紀くんに謝ってるけど私はダンボールの中身が気になって三人を無視して開けようとしていた。今の私は自分の過去が気になって仕方ないのだ。


「じゃあ開けるからね?」


「綺姫、うん……分かった。開けてみよう」


 最後の理性でガムテープを剥がす前に星明に声をかけると私は我慢出来ず開封していた。だって私たちの記憶のヒントが有るんだから限界だ。


「えいやっ!!」


「そんな気合入れないでも綺姫ちゃん……」


 静葉さんの声もガン無視で私は中身をあらためると中からビニール袋に本やノートが出て来た。どうやら小学校時代の星明の物みたいだ。


「こんな物を俺は隠したのか?」


「そもそも星明くんが隠したのかも定かじゃないから……とにかく見てみましょ」


 静葉さんと星明にも手伝ってもらい中身を取り出すと、まず袋の中から出て来たのは星明の通知表だ。体育と音楽以外は全部よくできましたの評価で星明は昔から優秀だった。


「さっすが兄さん!!」


「そう言えば体育は嫌だった……何となく思い出しそうな……え?これって」


 通知表を見ていると最後に担任の評価が有ったが見るとそこに意外な文言が有って私たちは驚いた。


『隣の席のヒメちゃんに分数の足し算を教えてあげて頑張ってました。二学期もこの調子で頑張りましょう』


「このヒメちゃんって……」


「アタシだよね? これ絶対にアタシだよ!!」


 これで違ったら恥ずかしいけど確定だと思う。そして私達がクラスメイトだと決定付ける証拠が次々と出て来る事になった。


「この班員の名前……完全に”あやき”って書いてあるね」


「アタシ達この時も3-1だったんだ」


 同じ班内での手紙や提出物それに様々な場所で星明とあやきの二人は一緒に居たのが確認された。そしてノートをパラパラめくっていた香紀くんが落とした拍子に手紙サイズの封筒が出て来た。


「何だこれ? 兄さん見る?」


「封筒だな……手紙でも入ってるのか?」


 それは丁寧にのり付けされてしめという印もされている。星明が慎重に開封すると中に入っていたのは私達の望んだ物だった。


「「あっ……」」


 中から出て来たのは写真だった。封筒にしまわれていたから色褪せて無いが少し角は折れて古さは感じる。一番上は家族写真、小さい頃の星明と本当のご両親が映っている。星明も笑顔で幸せそうだ。そして問題は二枚目からだった。


『ヒメちゃんと一緒』


 その文言が書き込まれた写真で小さい頃の私と星明が並んでいる写真だった。その次のは遠足らしき写真で星明が私をおんぶしてるのやら給食を二人で食べている写真で私は自然と当時の記憶が少しだけ蘇って来た。


「そうだ、アタシ遠足で転んで泣いてたから星明におんぶしてもらったんだ!!」


「そう、だったの? 俺は思い出せないけど」


 写真を見て少し思い出した。二年生の時の遠足で調子に乗って走って転んだ。そこで星明が言ったんだ。


「僕がヒメちゃん連れて行きますって!! でも何で急に思い出したの?」


 私が言うと静葉さんが春日井さんからもらった資料を見ながら話し出したのは私と星明の違いだった。


「たぶんⅠ因子が特殊な症例でも記憶喪失なり記憶の欠如は、きっかけが有れば蘇ることも多い、そして綺姫ちゃんの方が症状は軽いって話だからね」


「だから綺姫にだけ記憶が戻った?」


 私は嬉しかった。あの須佐井という偽物の幼馴染に私は、どこか違和感を感じていた。でも本当の幼馴染が星明なら全ての違和感が解消されるし気持ち悪さも消えて嬉しさしか残らなかった。


「星明!! やっぱりアタシ達は本当の幼馴染だったんだ!!」


「ああ、昔の俺は有能だったらしい」


 今でも私の恋人は有能でカッコいいと言うと星明もやっと笑顔になってくれて私たちは過去の思い出を少しだけ取り返した。それから私たちの入院生活は三日目までは落ち着いていた。そして事件が起きたのは四日目の昼だった。

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