第169話 残っていた思い出 その1
◆
――――星明視点
あの後、緊急の会議で父が完全に不在となり春日井さんは改めて話をすべきだと言って病室を後にした。一方の俺達は静葉さんの指示で一週間は入院しろと言われ綺姫も隣の病室に入院する事になって今日で二日目だ。
「実際は元気なのにね~」
「でも俺は危険人物だから……」
「そのためのアタシだし大丈夫だよ~」
ちなみに消灯時間後も一緒にいることが多い俺達だが今いる特別棟から出るのを禁止されていた。しかし、それ以外は制限が無く自由だった。
「一週間だけだし快適な入院生活と言えば複雑だ」
「うん、それより星明とアタシの記憶って治れば元に戻るのかな?」
それは俺も疑問に思っていた。俺達の記憶障害を引き起こしているのがⅠ因子なら俺達の体から除去されれば自動的に記憶は戻るはずだ。
「あくまで一般論なら戻るとは思うけど」
「ま、アタシらは卒業まで頑張れば良いんだよね……でも……」
言葉を区切った綺姫が気になり抱き寄せると少し迷った様子の後に微笑んで呟くように言った。
「アタシと星明の思い出が何も無いの辛いなって」
「そうだね、でも俺達には出会って、いや再会してすぐの思い出もたくさん有る」
「うん、うんっ!! だよね~!! ちょっとナーバスになってたかも!!」
そう言うと抱き着いて来たから俺も抱き締め返すとノックの音がして俺達は慌てて離れた。そして入室して来たのは静葉さんだった。
「はぁ、二人とも……ここ病院よ家でも、ましてやホテルでも無いからね?」
「「すいません……」」
いつもの静葉さんのお小言に素直に謝っていると入室して来たのは静葉さん以外にもう一人いた。
「兄さん!! それとついでに天原さんも元気そうですね……お見舞い来たのに」
「
入って来たのは俺の義弟の香紀だった。どうしても連れて来て欲しいと本人が静葉さんに頼んだそうで半ば強引に付いて来たらしい。
「実は俺さ思い出したんだ、これ見てよ!!」
そう言って香紀は電話、それも古いタイプの俗に言うガラケーと呼ばれる携帯電話を俺達の前に出した。そして俺はそれを知っていた。
「それって俺が小さい頃に使ってた……どこに?」
「前に家に来て掃除した時に見つけたじゃないか!!」
そういえば綺姫を初めて家に連れて行った時に有ったな……もう一ヵ月も前の話だ。どうやら香紀は俺と綺姫が入院したと聞き急に思い出したらしい。
「でも何で?」
「これの中身だよ!! 俺凄いことに気付いたんだ!! これって二人でしょ?」
香紀はガラケーを起動させると俺達に渡した。そして、その中の画像フォルダに二つの画像ファイルが有って、それに写っていたのは小さい頃の俺と綺姫だった。
「あっ……小さい頃のアタシと星明」
「やっぱり、実は二人って昔から知り合いなんじゃ……って? どうしたの?」
この話し振りだと香紀には俺達の本当の関係はまだ話して無かったようだ。香紀は困惑しているが俺は嬉しかった。だって綺姫と俺が本当に幼馴染だったと証拠が残っていたからだ。
◆
「でかした香紀!! 綺姫!! やっぱり俺達の思い出は確実に残ってるんだ!!」
「うん、うん!! そうだねっ!! アタシ達やっぱり幼馴染なんだね!!」
記憶が無くて不安だった。実感が無くて本当に幼馴染なのか分からなかった。でも春日井さんの証拠以外の確かな思い出も存在していた。俺達の本当の関係は幼馴染同士で間違い無いんだ。
「えっと、どういうこと母さん?」
「香紀お手柄よ……さっすが私の息子ね、ふふっ」
香紀はよく分かってない様子で褒められているが本当に助かった。俺も綺姫も強がっていたけど謎の奇病に侵されているという不安しかなかったんだ。
「じゃあ今日の検診するから星明くんは香紀と廊下に出ててね」
そう言って俺は後から入って来た女医と静葉さんに追い出される形で廊下に出た。そして香紀と話している内に興味深い話を聞かされた。
「俺の部屋の天井裏に?」
「うん、あそこにもダンボールが何箱か有って他にも何か有るかも!!」
そんな所に何で有るんだろう? まるで隠しているみたいだ。だが話を聞いている内に気になった事が一つ有る。
「お前、俺の部屋に嫌に詳しいな?」
「あっ……そ、それは」
「俺が居ない間に勝手に色々してたか?」
「うっ、ごめん。実は兄さんを家に戻したくて手がかりになる物を探してた」
実は香紀には俺が家から追放された際の引っ越し先、つまり今のマンションの場所を静葉さんには教えないように頼んでいた。自分も家出して来たと言いかねない思ったからだ。
「でも、それで夜の街に出たんじゃ本末転倒だったか……」
「だけど師匠や愛莉さんとそれで出会えたんだ!!」
そして例の道場、覇仁館に入門するきっかけになった。しかも年下の女の子を二人も引っかけたという話で何というか健全なのか不健全なのか分からないな。
「ま、俺なんかよりはマシかな」
「それでも俺、やっぱ兄さんの生き方好きだよ……」
その言葉に少しだけ嬉しくなって自然と頬がほころんだ。
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