第153話 不穏な始まり その2
何を言ってるんだと少しだけ憤りを覚えた。そもそも綺姫が婚約者に勝手になっていたんだから今さら俺が逃がすはず無い。
「星明……で、でもアタシの最大の利点って治療とエッチだし……」
「綺姫、確かに最初は治療名目だった、でも今は違うだろ?」
最初は病気の治療と性欲発散という最低な関係からスタートした俺達だけど今は違う。互いに大事なパートナーだと思っている。
「だけど星明の事を皆が注目してるし……」
「それは綺姫もだよ……君は今でも高嶺の花なんだから」
だが少し問題も有る。俺と綺姫の付き合いはクラスが同じになってからという意味では半年かもしれないが実際は二ヵ月弱だ。その間に俺は気付いた事が多々あった。
「そもそも綺姫は隙が多過ぎる」
「え? それは星明だって――――」
「俺は一定の距離は取ってるさ、他の女子とは特にね」
当たり前だが俺は綺姫が最優先だ。友人という意味では海上や浅間が入るが他は全て有象無象で注意枠に小野が入るくらいだ。
「でもでも楽しそうに話してたし~、笑顔でした~!!」
廊下の何人かが俺達を見て来るが俺は半分諦めて綺姫を抱き寄せて言った。
「それを言うなら綺姫は教室で可愛い笑顔をいつも男子に振りまいてるよね?」
まだ文句が有りそうで声まで大きくなって来た綺姫を見て俺は咄嗟に廊下の影に面している第四準備室に連れ込んだ。
「きゃっ、もう星明~、ここ学校だよ~♪」
「反省の色が無いね、少しオシオキが必要だな」
心なしか声が弾んで頬を染めた綺姫を見ながら俺は冷静に考える。ここの鍵は実行委員長の俺か実行委員会の顧問しか持っていない。その顧問は今は校庭の屋外ステージの監督中だから安心だと考えるとドアに鍵をかけ綺姫を抱き締めた。
◆
「で? 仲裁してて視察が長引いたと……ほぉ~」
「何か問題が有るか海上?」
ジトーっと見て来る海上に焦りは見せないようにするがバレている感じがする。だが痕跡は全て消したし言い訳も完璧……俺達の校内での事がバレる事は無い。
「いやさ、アヤに口止めくらいしときなって話」
「星明が放してくれなくて~♪」
「あっ、綺姫っ!?」
しまった……綺姫は嬉しい事が有った時は高確率で周りに話すのに迂闊だった。準備室の掃除と片付けと周囲への隠蔽工作で肝心の綺姫に口止めを忘れていた。
「ちょっ!! 葦原!! あんた学校で何してんのよ!!」
「あんたはアヤに激甘だから忘れてそうだけど、普通に口は軽いからアヤって」
それは知っている。綺姫は思ったことをすぐ口にするし行動も即断即決だ。そこが良い所だが俺は、まだまだ綺姫を知らなかったようだ。
「そうだった……だけどまさか、こんな事まで話すなんて……」
「それはそうなんだけどアヤって、そういう方面に疎いし、ぶっちゃけ常識無いし開放的だから、てかさ今までも有ったんじゃない? そういう場面」
言われてみればそうだ。だが相手がヤクザやら金融関係やら話しても問題無い連中だらけで基本は事情を知ってる人間ばかりだったから特に言及した事は無かった。
「星明~!! 咲夜が言いふらすなってアタシ達の――――」
「静かにしようか綺姫!! 公認だからって何やっても良い訳じゃないからな!!」
さすがに二人揃って校内での処分はマズ過ぎる。抑えが効かなかった俺が言えた義理では無いが、それでも隠し通すのは基本で何より綺姫はオープン過ぎる。
「……別にちょっと盛り上がってエッチし――――「そこまでにしなアヤ」
最後は海上が強引に黙らせると綺姫によく言って聞かせる。だが原因は海上と浅間のせいだったりする。二人は綺姫にその手の経験談を割と話していた。結果的に綺姫は普通だと思い込み周りも特に気にしていなかったゆえに起きた弊害だったのだ。
「とにかく言っちゃダメ、特に先生には……さすがに言って無いか」
「そんなの常識だよ~、星明~」
だが綺姫の笑顔には不安しか無い。将来のことも考え俺が教育すべきか……だがいきなり口うるさいのも問題だし亭主関白は、それはそれで父と似たような感じになるのは嫌だ。そんな事を考えていると肩をトントンとされ振り返った。
「そうですよ葦原さん、二人の情事の内容なんて私は深く聞いてません!!」
「小野……ま、まさか綺姫……言って……無いんだな?」
「うん、先生にはね、でも友達には大体話したんだけど……ダメだった?」
そんな可愛い顔して言ってもダメだ。許しそうになるけど……だが問題はそこじゃない俺は慌てて小野やニヤニヤしている女子数名に振り返った。
「私って口は堅いですし、お二人の事も考えてます。ですがこういう話題は貴重なんですよ~、あ・し・は・ら・さん」
「今まで言い出さなかったという点を考慮し信用しよう」
「いえ、いつ気付くか賭けをしていただけなんで御心配には及びません!!」
やはりマスゴミはマスゴミだ。少しも油断してはいけなかった。そして我慢出来ずに俺は叫んでいた。
「小野おおおおおおおおお!!」
「報道の自由と守秘義務はセット~!!」
何とか小野らを黙らせるための交渉をした結果、姫星祭のクラスの打ち上げの資金提供を要求された。悔しいがこの取引を俺は飲むしか無かった。あと半年を切った俺と綺姫の高校生活のためには仕方ない支出だ。
「不穏だ……初日から……」
「打ち上げ今から楽しみだね星明!!」
「少しは反省しよう綺姫!!」
だが、こんなのは可愛いもので始まりに過ぎなかったと知るのは翌日の二日目からだった。
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