第65話 予期せぬ対面 その2
「ふん、女連れでホテルとはいい身分だな。待て、その格好まさか給仕のバイトでもしているのか? 金を無駄遣いでもしたか、それとも振込額が足りなかったか?」
「い、いえ、これは……うっ!?」
やはり何も変わらない。相変わらず他者を下に見て……周りの人間に裏切られ続けて父は一気に歪んでしまった過去を思い出す。俺への対応も元を正せば全部それが原因だった。それを思い出すと同時に俺の頭痛も激しくなる。
「こんな
「へ? な、何ですか?」
だが、ここで父の目が綺姫を捉えた瞬間、驚いて固まったかと思えば今度は急に怒鳴り出した。あまりの声の大きさに周囲の人間も一斉に俺達の方に注目する。控え目に言って目立って最悪だ。
「貴様っ!! まだ息子に、星明につきまとっていたか!!」
「へっ? ええっ!?」
しかも何を言い出すかと思えば綺姫に難癖を付けた。昔から父は理不尽だったから何か勘違いしているに違いない。さらに目の前の父は再び矛先を俺に向けると駄々っ子のように怒鳴り散らした。
「星明、貴様がアッサリ家を出た理由もこの
「と、父さん、何を言ってるんだ!? とにかく落ち着いて下さい!!」
綺姫を背中に庇い震える体と頭痛に耐えながら父に言う。しかし父には俺の言葉は届かない……昔と同じように何も届いていなかった。
「お前は黙ってろ!! 私の街から居なくなったと思えば忌々しい女め!!」
「あなた!! 止めて下さい!! みんな見ていますよ!!」
だがそこで割って入ったのはスーツ姿のキリッとした表情の女性だった。その声を聞いて安心した。彼女は葦原
「黙れ静葉、これは私と星明の問題だ!!」
「星明くんも連れの子も困ってますから落ち着いて!!」
「し、静葉さん……すいません」
この人がいてくれて助かった。父さんの元秘書で唯一この人の言うことだけは父は聞くから居なければ完全に詰んでいた。
「久しぶりね星明くん、ごめんなさいね。ここは私が、あなた行きましょう」
「待て静葉、まだ話は終わっていない!!」
「何か騒がれて
こっちを見てウインクすると静葉さんは周りに頭を下げながら父さんを強引に引っ張って行く。騒ぎに気付いた他の秘書たちも今さら集まって来ると最後は大声を上げながら強引にエレベーターに押し込まれた。
「な、何だったんだろ今の?」
「分かんないけど、ごめん綺姫……父さんが変なこと言って」
「ううん大丈夫、でもアタシ会うの初めて……だよね?」
「たぶん何か勘違いしてるんだ、昔からそうだったから」
昔から父さんは俺の友人関係はもちろん、その親にも厳しいチェックを入れて俺の付き合う人間を選んでいた。それで俺は何人も友達を失った過去が有る。綺姫のことも交友関係の一つとして理不尽に文句を言って来たに違いない。
「でも、あの言い方……」
「きっと俺に難癖を付けたかったんだ。そうに違いない、とにかく今は一刻も早く離れよう」
俺は困惑する綺姫の手を取ると逃げるようにホテルを後にした。改めて今の俺は逃げることしか出来ない情けない男だと再認識させられた。こんなんじゃ俺は綺姫の恋人になんて一生なれない。
◆
――――綺姫視点
あれから何事も無かったように私達はアルバイトをし今は閉店作業中だ。星明には先ほどのことは黙っていて欲しいと言われ皆には秘密にすることになった。密かに二人だけの秘密が復活したと喜んでいる自分が少し嫌になる。
「そういえば星明くん、結局どうするんだい例の豪華客船の件は?」
「それですか……」
瑞景さんの問いかけに星明は言葉をつまらせる。昨晩もチェスを教えてもらいながら、あまり行きたくないと星明は言っていた。危険だから出るべきでは無いと言っていたし、だから私は複雑だった。私のために出したあのお金は星明の大学の学費だったからだ。
「俺もそう思うけど君が行きたいのなら融通は出来るよ?」
「いえ、止めておきます。ジローさんには後で俺から連絡を入れるんで、それで瑞景さん、少し相談が……」
そう言うと星明は私たち女性陣には聞かれたくない男の悩みだと言って店の外に行ってしまった。少し気になるけど同性同士じゃないと話せない内容の話って有るし私は理解ある彼女になる予定だからスルーします。
「タマ、ちょっといい?」
「な~に? 咲夜も呼ぶ?」
「ううん、八上さんと話せてるし……いい雰囲気だし今は二人で話そ?」
そう言って店内の片隅で八上さんを踏みつけようとして「止めろ」と言われている咲夜が目に入る。うん……愛の形は色々だよね咲夜、でもアレは少し違う気がする。昨日の八上さんは単純に興味が有っただけだと思うよ。
「そんで相談って?」
「例の豪華客船に行ってみようと思うんだ、実はスマホに七瀬さんから連絡が来てね、アタシでも楽して稼げる安全なバイトが有るって!!」
「それ絶対騙されてるパターンだから止めなさい、学習して」
一刀両断だった……星明のためにも自分の学費とかのためにも役に立つと思ったのに酷いと思います。言い方って有るよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます