第66話 潜入と直接対決 その1

――――星明視点


「それで? 相談って何かな?」


 俺は店外のそれも森の中で周囲に誰も居ないのを確認し瑞景さんに小声でコッソリと計画を打ち明けた。


「明日の夜から例のカジノに行こうと思います。なので綺姫に対して偽装をお願いしたいんです、融通してくれるって言いましたよね?」


「へえ、もちろんさ。他の皆にも内緒かな?」


「はい……綺姫を巻き込む訳には行かないので」


 たぶん綺姫は今も自分のせいだと自責の念に囚われているはずだ。でも俺は綺姫と過ごし始めた日から毎日どれだけ救われたか助けられたか分からない。自分も一緒に行くとか言い出す前に俺がコッソリ稼げば万事解決だ。


「なるほど……愛する彼女のために心配はかけられないか?」


「からかわないで下さい綺姫を守れることを証明するだけです。それに今どき大学を出てもろくな就職先が無いですから最低限はクリアしておかないと」


「それってさ星明くん……将来も綺姫ちゃんとずっと一緒に居たいってこと?」


「綺姫が望めば、望んでくれれば……俺は」


 俺は自分に都合のいい事を考え始めていた。このままズルズルと二人で過ごせば綺姫は一緒に居てくれるのではないかという考えだ。綺姫の優しさに付け込んだ最低な作戦だが、そのためには金が必要で目の前にチャンスが有るのなら俺はどんな手を使ってでも……。


「分かったよ俺も援護する、じゃあ具体的な話に移ろうか」


 俺は瑞景さんの言葉に頷くと簡単な打ち合わせをし残りはスマホで連絡を取り合うことを決め後で連絡すると約束した。その夜は綺姫を抱けなかった。


「いいの星明? 今日はその……お父さんのこと有ったしさ」


「大丈夫、綺姫が添い寝してくれるだけで安定してる」


「それなら良いけど……アタシはいつでも大丈夫だよ!!」


 綺姫の言葉に決意が揺らぎそうになるが今夜は我慢だ。最近になって俺は事後に色々と喋り過ぎてることに気が付いた。話した覚えが無いことも綺姫に把握されていて今回の事も話しそうだから自重する。


「ありがとう、近い内に必ずね?」


「うん……待ってる」




 そんな昨晩のやり取りを思い出しながら俺は深夜にジローさん達との合流場所に到着した。そして着替えて来いと渡されたのはタキシードと何と仮面だった。


「着替えて来ましたけど……何ですかこれ? オペラ座の怪人ですか?」


「主催者の趣味らしいぞ? 仮面舞踏会だそうだ」


 俺が戻るとジローさんと七瀬さんも目元だけが隠れたマスクを見せて来た。俺のと違って目元だけだ。なぜか俺のは口元以外は隠されていた。


「ディーラーとかと違ってVIP相手のプレイヤーは顔バレ禁止のためだ」


「一応は賭けチェスって触れ込みだからね、ちなみに打ち手の中には金に困った本物のプロも混じってるから」


「つまり俺は噛ませですか?」


 賭けチェスと聞いていたが実態は少し違いそうだ。接待チェス……てっきり試合の勝ち負けでの賭場のコントロールがメインかと思ったが接待相手をして小遣い稼ぎが実際の所らしい。


「ああ、ちなみに基本は好きに打っていい、負けるのは指示した金持ちの時だけだ」


 全部負ければ良いと言う話じゃなかったのかと問えば予定していた人間が欠席になり、そいつの代わりの仕事もしなくてはいけないらしい。その仕事は普通の客相手に打つだけで通常の賭け試合だそうだ。


「つまり指示がある時以外は勝っても良いと?」


「ああ、初日は予定では三人、それ以外は好きに打っていい金にはならないがな?」


「分かりました……それでターゲットが来た時は連絡はどうやって?」


  まさかスマホでの連絡やインカムなんて使えないだろう。仮にも賭場、カジノで不正に繋がることは厳しく制限されているはずだ。


「ああ、お前専属のアシスタントが口頭で伝えるよ」


「へえ、そんなアナログな方法なんですか?」


 なるほど実にシンプルで分かりやすい。そう答えると俺はジローさん達に船内を案内された。先に俺のアシスタントも待機しているらしい。




「んじゃ、ここではセイメーで通せ、いいな?」


「はい、分かりました」


 中はごみごみしていたが控室のような船室で、この区画一帯が関係者の待機所らしい。そこに個室が宛がわれていてジローさんや七瀬さんは、ここで指示やら監視やらをするらしい。


「じゃあ最後にお前のアシスタントだ、入れ」


「は~い、失礼しま~す。アシスタントのヒメで~す!!」


 入って来たのは黒い水着のような胸の谷間や太ももを強調した服装でヒールに網タイツ、そして首元には蝶ネクタイ、頭にはウサギの耳のような物を付けた女性たちだった。なるほどカジノには相応しいバニーの衣装だ。しかし問題はそこじゃない。


「なんで……なんで綺姫がここに居るんですか!?」


「七瀬さん達に誘われちゃって、それより、どうかな星明?」


 お尻の白い尻尾をフリフリして見せるのは可愛らしさと少しエッチな感じも相まって俺がどうにかなりそうだが今はそんな場合じゃない。


「そりゃ最高に可愛いけど今は……ってジローさん、どういうつもりですか!?」


「あ~、ナナ、説明してやれ」


 そこで七瀬さんと更に綺姫と一緒にバニーの恰好をして入って来たクー姉さんと橘姉さんが今の状況を説明し始めた。

 先日、店に来た後にバニーの欠員が出たこと、本来なら俺のアシスタントはクー姉さんだったが欠員のため別な人間を急遽探したこと、そして綺姫を誘ったらすぐに来たこと等だ。


「星明のお手伝いだって聞いて、それに基本立ってるだけって話だし大丈夫!!」


「だけど……綺姫ここは危険だ」


「で、でもアタシだって星明の手伝いしたいよ……エッチだって断られちゃったし」


 そこか、そこなのか……と、頭を抱えるが綺姫は帰る気は毛頭無いらしい。

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