第67話 潜入と直接対決 その2
「まあ、いいじゃないセイメー、基本あんたの横にバニー姿の女がいるだけだし」
七瀬さんが軽いトーンで言うが非合法な世界に綺姫を放り込むのは問題だ。それに俺には切実な問題が有る。目の前の綺姫は俺を見て微笑んでいるが目だけは笑ってない……たぶん怒ってると思う。
「この部屋は二人で使え、両サイドは俺達が使ってるから何かあれば呼べばいい。それ以外は好きに見て来てもいいんだぜ」
「こわ~い裏の社会科見学してもいいんじゃない?」
そんなのは御免だとクー姉さんを睨む。今の綺姫のセクシーな恰好は危険だと思う。こんなに魅力的な恋人……にしたい女の子がセクハラされる所なんて見せられるのは御免だ。クー姉さんや橘姉さんは慣れてそうだが綺姫は絶対にダメだ。
「ま、二人で打ち合わせでもすれば? 日程は一週間以上も有るしさ」
橘姉さんが言うと大人たち四人はそれぞれの船室に戻って部屋には俺と綺姫だけになった。そして二人になると綺姫は抱き着いて来た。
◆
――――綺姫視点
「星明、ごめんね勝手に来ちゃって」
「綺姫……なんで、いや……むしろ俺が」
抱きつきながら私は昨日から七瀬さんから連絡が有った件の話をしていた。ただし自分から志願したのではなく誘われたと少しだけ嘘を付いた。いいよね、だって星明も私に黙ってカジノに来たんだし。
「七瀬さんから連絡が有って、星明がバイト出るけどアタシもどうだって」
「やっぱり七瀬さんとジローさんか……綺姫、今からでも」
「いや!! アタシも星明を手伝う!! 一緒にいたい!!」
私の言葉に星明は固まっていた。あと心臓の鼓動が凄い勢いで伝わって来てドキドキしてるのは一緒みたいで嬉しいから私は一歩踏み出すようにキツく抱きついた。
「あ、綺姫……困るよ今は、それに……その格好も」
「え? このバニーの恰好どう? 似合ってる?」
星明が入って来たと同時に私に釘付けなのはすぐに分かった。夜の時と同じ視線を感じゾクゾクしたから星明が限界なのもバレバレだ。
「もちろん可愛い……って違う!!」
「星明もう限界でしょ? ここベッドも有るし、ね?」
そして私の狙いは大成功だった。星明は我慢出来ず部屋のベッドの上に私を押し倒した。二日も我慢したから限界だったよね? 大丈夫だよ私が、ぜ~んぶ受け止めてあげるから……そして時間は体感で一瞬だった。
「綺姫……その、ごめん。抑えが効かなかった……」
「みたいだね~、いつもより早かったもん」
私達は乱れた服を整えると改めてベッドに腰掛けた。我慢出来ずにいきなり押し倒して気まずいのも有るんだろうけど他にも理由は有ると私は見ている。たぶん星明は私に黙って一人で動いたのを気にしてるんだと思う。
「今の恰好が、その……きれいで……」
「エッチだった~?」
「う、うん……凄かった」
このまま上手く行けば私達の関係がお金だけじゃなくて体でも繋ぎ止められるかもしれない。凄いよバニーガールの服、これ貰えないかな星明もイチコロみたいだし。と、そんな事を考えていたらノックの後に入って来たのは七瀬さんだった。
「あんたら盛り過ぎ……ほんと両隣が私たちで良かったわね」
ジローさんも「良いもん聞かせてもらったぜ~」とニヤニヤした後に仕事の時間だと私達に準備するように言う。さらに菊理さんは香水を、サキさんからは絆創膏をそれぞれ渡され「ほどほどに」と言われてしまった……反省だ。
「んじゃ、行くぞオメーら!!」
ジローさんの号令で星明はマスクを私も目元だけを覆う黒いマスクを付ける。何か凄い大人な感じだ。今日の私は星明のアシスタント……頑張ろう。
◆
――――星明視点
「チェックだ!!」
俺は仮面の下で目は死んでいたが口元には笑みを浮かべ手を差し出す。意味が分かっていない目の前の老紳士に綺姫が「おめでとうごさいます」と言って握手の説明をすると「分かっている」と半ギレで手を出した。
「お見事です。完敗でございます佐竹様」
「うむ、まあワシも九州イキイキ養老の会チェス大会準優勝者だからな、しかし裏カジノというから楽しみだったが、拍子抜けだ」
「いえいえ、佐竹様がお強いだけですよ」
オメーのクイーンを何回見逃したと思ってんだクソ手ばっか打ちやがって爺め。てか聞いた事も無いようなローカル大会の名前を出すな身バレに繋がるだろうが……とは思うが我慢だ。辟易しながら俺は二戦目の
「ほし、じゃなくて……セイメーお疲れ様」
「ありがと、ヒメ……まだ慣れない?」
「うん、でも次からは大丈夫」
綺姫と一緒に仕事していると落ち着く。巻き込みたくないから黙って来たのに矛盾してるな俺は……。そんなことを考えながら初日の負け試合を全て終えた時点で俺たちは迎えの瑞景さんの車で帰る事になった。
「明日も今日くらいの時間かい?」
「いえ、次は明後日です。時間も1時じゃなくて4時近くなると思いますので」
「そうか分かったよ……皆には明日話す?」
それに付いて休憩時間中に綺姫と二人で話して決めていた。皆には、なるべく隠し事はすべきでは無いという結論に達し明日話そうという結論だ。
「「はいっ!!」」
「そっか分かったよ二人とも……ただ」
「ただ?」
「綺姫ちゃんは何でバニーガールの恰好のまま……なのかな?」
急いで戻るべきと綺姫本人は言って上着を羽織っただけで船から降りたのだが、真夏でエナメル質のスーツは蒸れるし待つと言ったのだが何か考えが有るらしく部屋に戻ってから着替えると言い張った。そして綺姫の企みが発覚するのは部屋に戻ってすぐだった。
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