第68話 潜入と直接対決 その3


 あれから皆と相談し海の家のバイトを午後からメインにしてもらい代わりに夜の見回りの回数を増やし、その後に夜のカジノへ行くという流れで話がまとまった。だが、それとは別な理由で俺達は説教されていた。


「ウチが何言いたいか分かってるよねアヤ、葦原?」


「な、ナンノコトカナー、ねえ星明~?」


 俺は無言を貫いた。綺姫こういう時には喋ったら負けだし今回は分が悪過ぎる……現行犯だしな。


「星明は観念したか……てか二回目だからなリア充ども」


「そっ、そうよ……しかもアヤ、その格好で……そういうことって」


 聡思さんと浅間が言ってるのは今の綺姫のバニーガール姿だろう。可愛いと思うのだが浅間には刺激が強過ぎたようだ。そして結果だけ言うと俺と綺姫は昨晩は寝ていない。


「浅間ちゃんを呼びに行かせたのも悪かったね……俺が行けば良かったよ」


「そういう問題じゃないからミカ兄……そのさ葦原の病気? 分かってるつもりだけど、さすがに昼まではヤリ過ぎだから」


 綺姫が鉄の意志で持ち帰ったバニー服は、その晩は丁寧に手もみ洗いをし仕事着だからと手入れをし部屋の隅に干されていた。その時の俺はやる気満々で驚いたのだが実は裏が有ったのだ。


「反省してる……まさか、やる気満々だったのは仕事の方じゃなかったなんて……」


 その策にまんまとハマり浅間が呼びに来るまで綺姫と一睡もせず昼まで文字通り獣のようになっていたのが俺達だった。これは本当に反省しなくてはいけない。


「なっ、なによ~!! 星明だってさっきは『今日は昼まで俺の可愛いバニーをウサギ狩りだね♪』とかノリノリだったのに~!!」


「あ、綺姫っ!? そ、それは!!」


 思わぬ綺姫のカミングアウトに焦った。最近の綺姫は積極的と言うか主導権を握りたがっている節が有るから、対抗して俺もリップサービスが増えているだけで……本当なんだ。


「あっ、う、うん……まあ人それぞれよね~」


「うわぁ、なんつ~か若干引くわ葦原……アヤもそういうの、やり過ぎは、ね?」


 クラスの女子二人に露骨に引かれてしまった。反対に瑞景さんは仲良き事は美しきかなとか言ってるし、そんな中で聡思さんが頭をかきながら言う。


「でもよ咲夜も慣れねえとな? 彼氏とかとそういうことも有んだから」


「え? 私、嫌だし……」


「まだまだ、お子ちゃまだな、そんなんで彼氏なんてよく出来たな~」


「そ、そんなの居ないし……てかあれ嘘だし」


 浅間の一言で場が一瞬にして凍った。


「は?」


「「えっ?」」


 聡思さんの疑問の声の後に俺と綺姫の声が重ねって響くと、この場の全員の視線が浅間に集中していた。


「あっ……」


 言った本人も気付いたようで口に手を当てているが遅いぞ浅間。あと綺姫は俺の腕に胸を押し付けるのを止めなさい。と、今はそれよりも浅間と聡思さんだ。




「え? 嘘って……お前、彼氏できたの嘘なのか、はぁ」


「いや、そ、それは……そのぉ」


 これは危険な流れだ。普段から嘘を付いてる俺だから分かる嘘は最後まで付き通すかバレてもいい嘘しか付いてはいけないのだ。だが今の状況では浅間を見守る事しか出来ない。


「そうか咲夜……お前、ま~た色々と盛ったか?」


 だが俺の予想に反して聡思さんは浅間の頭をポンポンと撫でると逆に落ち着かせるように優しい声音で尋ねていた。


「うっ……うん、ごめん、なさい聡思兄ぃ……」


「はぁ、やっぱりか……どうせアレだろ友達が二人とも彼氏持ちだから自分も居るとか言ったか? そんで咄嗟に出た感じか?」


 何やら勝手に納得している様子だが違うぞ聡思さん、と俺が思っていると海上の方が先に動いた。


「じ、実はそうなんですよ、それで私やアヤも相談されてて~、何か幼馴染の聡思さんに今さら言い辛かったらしいんですよ」


 なるほど上手いフォローだ、さすがは海上だと感心する。伊達にクラスの陽キャ筆頭じゃないなと感心していたら俺の腕に抱き着いていた綺姫が声を上げた。


「えっ? タマそれって話が違っ――――「綺姫、今は俺だけを見てて欲しい」


「う、うん星明!! 今夜も頑張ろう!!」


 よし、完璧なサポートだ綺姫が余計な事を言う前に防いだぞ。だが綺姫の目が心なしか夜の時のように見えた気が……大丈夫、気のせいに違いない。


「ま~たイチャ付いて、しっかし咲夜の様子が変だから何か隠してると思ったが……いつも通りか」


「いつも通り?」


「ええ、瑞景さん……コイツ昔っから近所の子とかにオモチャや人形やら服とか持って無い物を自慢されたら「持ってるし」って言う時が有って……」


 話によると困った時に泣きつかれ二人で色々と解決していたらしい。人形が無ければ浅間の母親を説得したり服は一緒に見に行って選んだり、困った時もそうでない時も二人は小さい頃からそういう付き合いだったそうだ。


「あ~……そうなん咲夜?」


「うっ、うん……」


 そこで海上の視線が素早く瑞景さんを見た後に俺を見た。あの目は「ど~するよこの状況?」だと思う。だが動いたのはまたしても聡思さんだった。


「ま、いつも通りか、なんか安心したよ…………サクちゃん」


「えっ? 聡思兄ぃ?」


「さ~てと、じゃあ仕事か?」


「いいの? もう?」


 それは俺も思ったのだが聡思さんはいつも皮肉めいた顔じゃなくて何かスッキリした顔になっていて珍しく爽やかな笑みを浮かべていた。


「いつもの幼馴染おまえにキレてもキリ無いだろ? それにバカップル見てるとお前の嘘なんて可愛いもんだ、でも次は俺には先に言え……昔は……そうだったろ?」


 その言葉に「うん」と頷いて頭を撫でられると浅間は借りて来た猫のようになったのだが、そこで終わりじゃなかった。その後は再び俺と綺姫の方に矛先が向いて四人に程よく説教された後に何とか許してもらった。



――――綺姫視点


「お疲れ様、セイメー」


「ありがとうヒメ、ふぅ……ちゃんとジュースで助かる」


 星明が炭酸ジュースを飲んで一息つくのを見て最近を振り返る。私達の表と裏のバイトも落ち着いて来て早くも五日目、一方で咲夜は八上さんと逆に良い感じになったり昔の呼び方に戻ったとご満悦だ。でも肝心の私の方は進展が無かった。


「次は、わたくしと一手どうですか?」


「失礼レディ、申し訳ありませんが本日は……」


 そんな時だった。赤い目元だけを覆うマスクを付けた女性が目の前に現れたのは……そして口を開いた第一声がこれだった。


「お二人に、いいお話が有ります」

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