第25話 明かされた事情 その1
声をかけて来たのは背広姿の刑事で俺はすぐに綺姫を庇うように前に出た。
「何か……ご用ですか?」
「あっ、いやいや警戒しないで俺は一応こういう者さ」
警察手帳を見せる定番のやり取りをして顔写真と名前が記載されている場所を見せて来た刑事の名前は工藤優人……警視と記載されていた。
「……警視さん、ですか」
「星明……この人が取り調べの人だよ」
綺姫が小声で言うと工藤警視の後ろから先ほどの熊野さんも慌てて出て来て俺達を見ていた。上の階級の立場の人間に何も言えないんだろうと考えていると先に工藤警視の方が口を開く。
「いやいや実は君にも用が有ったんだ……葦原星明くん」
「もう俺まで調べたんですか?」
警視とはかなり上の方の階級なはずだ。それにしては目の前の人は若く年齢が二十代後半から三十代中頃にも見える。俗に言うキャリア組というのかもしれない。
「まあ、こういう仕事だからね、
「っ!?」
「え? 星明……?」
完全に想定外だった。まさか隣県の実家のことまで調べて来るなんて完全に不意打ちだった。ゾクリと寒気が俺を襲う。
「お話、できないかな?」
「…………はい」
そのまま二人で近くの喫茶店に半強制的に連行される。情けない話で先ほどまで守ろうと思っていたのに今は自分の秘密がバレるのが怖くて逆に綺姫に手を握られ連れて行ってもらう有様だ。
◆
「さて、悪いね二人とも、お詫びに好きなの頼んで良いよ奢るからさ」
「いえ、飲み物だけで……」
「私もそれで……」
俺は警戒して、それに同調してか綺姫も口数が減っていた。
「さすがに脅し過ぎたか、いやいや最近は普通の高校生相手の感覚を忘れちゃってね……ごめん、でも君と話をしたかっただけなんだ、すまないな」
俺はアイスコーヒーを綺姫はコーラを頼むと目の前の工藤警視は昼食がまだだからと言ってオムライスを注文していた。
「じゃあ料理が来るまで少し今回の事件について話そうか」
「はい……」
そこで工藤警視は今回の事件が、まだ表沙汰になっていない連続強盗事件の可能性が有ると事件のあらましを簡単に話し出した。犯人は凶悪でかつ用意周到な相手で手掛かりは皆無。おまけに証言も得られてないそうだ。
「だから綺姫に執拗に証言を? それも明日も?」
「いや、こっちは終わり、たぶん明日は下着ドロの方の聴取だよ、取り調べって言うよりも何を盗まれたかを聞かれるだけだと思う」
こっちはと言った工藤警視の言葉に俺は嫌な予感がして俺は聞き返していた。
「つまり……工藤警視の見立てでは犯人は少なくとも二人いると?」
「えっ? どういう……ことなの星明?」
綺姫が不安そうに俺を見て来たから答えようと口を開きかけたが遮るように口を挟んだのは工藤警視だった。
「まあね、俺は今話した連続強盗を追ってるんだけど少し特殊でね、今回の事件に関わりが有ると思って動いてたら地元の警察とバッティングしたんだ」
これで事件の全容が理解できた。つまり工藤警視は非公開の連続強盗事件の捜査を、一方で地元警察は今回発生した事件を追っていたのだろう。
「でも熊野さんはただの泥棒だって……」
「まあ、俺もそう思ったけど万が一が有るからね」
それだけ言うと工藤警視はやって来たオムライスを食べ始めた。なお、それを見ていた俺と綺姫も盛大に腹を鳴らしてしまい結局二人揃って奢られてしまう事になる。この喫茶店のビーフシチューは絶品だった。
「喫茶店で食事なんて、なんか大人な気分~」
たしかに俺なんかはボッチ飯が基本でコスパ優先だからコンビニ弁当か自宅配送つまりウーバーが多い。こんな落ち着いた喫茶店なんて初めてだった。
「それは良かった、そうか……高校生ってそれが基本だよね」
「まるで先ほどから基本じゃない高校生を知ってそうですね警視?」
「まあね、あと君らは部下じゃないから気軽に工藤さんでいいからね」
実際は階級はお飾りなようなもので今の自分は雑用係みたいなものだと苦笑気味に言った後に俺達に名刺を渡してくれた。
「何か危険なこと、困ったことが有ったら、ここの番号かアドレスに連絡を、あとコードで俺の
「はい、ありがとうございます……それと最後に、工藤……さんは何で俺を? 事件に直接的には関係無い俺を?」
「警戒させたようだね僕は君と地元が一緒でね、君の実家とも少し縁が有る……それと俺の情報源は八岐
それで納得した。俺と地元が一緒の刑事なら間違いなく例の事件を知っているだろうし情報源があの人なら納得できた。なんせジローさんの実の父親で俺の夜の街の出入りを認めた張本人だからだ。
「なるほど……じゃあバレバレか」
「詳しい事情は聞いてないけどね……ご実家には秘密かな?」
「……はい」
「そうか、でも安心してくれ僕も蛇王会と敵対する気は無いさ」
その言葉に曖昧に頷くと工藤警視は今度こそ署の方に戻って行った。それを見送ると俺達も急いで帰宅した。その帰り道は綺姫も俺も無言だった。
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