第24話 疑惑と疑念
◆
――――星明視点
「ふぅ……」
何とか世界史の穴埋めを全部埋めて見直しをしている途中で今日の試験は終わった。日程はあと二日。そしてテストが終わり担当の試験監督の教師が出て行くと教室内の雰囲気は最悪だった。
「あのさぁ、タカ……あんたアヤが来れない理由ほんとに知ってたん?」
「あっ、ああ……もちろんだ、家の事情って言ったろ」
朝から担任によって綺姫がテスト期間中から最大で一学期の終業式まで学校に来れない旨が伝えられた結果、朝から教室の雰囲気はギスギスしていた。そして今、浅間が須佐井に噛み付いた。
「まあ落ち着けよ浅間」
「そうそうマジ落ち着けって」
須佐井の取り巻き二人が言うが浅間はイライラしながら喋り続ける。
「いやさ二人も少しは違和感とか持てば? てかあんたら付き合ってんでしょ?」
「えっ、いや、そのぉ……」
俺が荷物をまとめていると教室の後ろの席から少し低めの声で二人を止めたのは
「止めな咲夜、てか、その話は今いいっしょプライベートってやつだし」
「そっ、そうだ……言う必要ねえだろ!!」
さらに教室内の空気がピリピリしていく。四月から三ヶ月目にして初めてのクラスでの大規模な対立だ。しかもクラスで一番の陽キャグループ内の争いで陽キャの二番手、三番手や俺と同じような陰キャ勢は戦々恐々としているだろう。
「あっ……」
だけど今の俺はそれより大事なことが有る。スマホに綺姫から通知が入った。取り調べが終わったらしく迎えに来て欲しいと連絡だ。人からの連絡で心が弾むのは久しぶりですぐに行くと返事を出した。
「よしっ……」
「な~んか良い事あったん葦原?」
そして教室なのに俺は完全に油断していた。気付けば背後に海上が居て、その瞬間クラス中の視線が一斉に俺に向いていた。
「へっ?」
「教室でスマホとか珍しくね?」
間抜けな声を出して俺は周囲の人間に一斉に見られていた。今まで須佐井と浅間がクラスの中心だったのに俺に話しかけるなんて一体どういうつもりだ。混乱と焦りで俺は咄嗟に言葉が出ずに数秒沈黙していた。
◆
「…………べ、別に」
「いやいや珍しく笑ってるからさ」
驚いた俺に口元が笑っていると指摘した彼女の言葉に更に焦る。目元は前髪と伊達メガネで防御しているから安心していた。綺姫からの連絡で油断した迂闊だった。
「てか陰キャの笑い方キモ過ぎんだよ葦原ぁ~!!」
するとここぞとばかりに須佐井が騒ぎ出す。取り巻き二人も気付いたようで例の如く俺の陰キャイジリを始めようとした。だが待ったをかけたのが浅間だった。
「アッシーはどうでもいいでしょ、それより答えてタカ!!」
「いやいやアイツってマジでキモくね、陰キャオタクが笑うなっての」
「ほんとそれな~」
好きなだけ言ってろと心はいつもより平静だった。いつもは奴らの言葉にイライラしてたけど今は他に大事なことが有るから正直どうでもいい。
「……じゃあ俺、用事有るから」
「はっ? 俺が声かけてんだから待ちやがれ陰キャ野郎が!!」
叫びながら誰とも知らないクラスメイトの机を蹴り飛ばして俺を威嚇した。どこまで子供なんだと思わず呆れてしまう。これが奴の本性なら綺姫を見捨てたのも分かると思わず口元が歪んだ。
「あぁん? お前、今俺を笑っただろ!! キメーんだよ!!」
「タカ止めなよ!!」
意外にも止めに入ったのは浅間だった。どうやら彼女も須佐井の態度にイライラしているらしい。しかし怒りの収まらなかった須佐井は止まるどころか立ち上がると俺に殴り掛かって来た。
「うらっ!!」
「っ!?」
しかし俺に拳が届く事は無かった。伊達メガネの奥で睨みつけると一瞬動きが鈍った須佐井の拳を片手で止めた浅黒い腕が眼前に有った。
「タカ……いい加減にしろし、な?」
「海上……さん?」
そう言って俺を守った海上は須佐井を恫喝するように睨む。ギャルの睨みは恐ろしいと聞くがこれほどとは思わなかった。こう見ると確かに綺姫は本当のギャルでは無く清楚系ギャルの皮を被っていただけというのも納得だ。
「なっ、何で海上まで、お前まで陰キャを庇うんだよ!!」
「そら暴力反対だし……てかアヤも陰キャとか言うの嫌ってたでしょ?」
「イジメみたいで止めなとか言いやがってよ、何なんだよ!!」
そう言って自分の机を叩くが逆に拳が痛かったようで震えていた。そしてそれを見て取り巻きの一人がプッと吹いてクラスの何名かが笑っていた。
「お、お前ら!! いい加減にしろよぉ!!」
須佐井が叫んだ瞬間に教室がざわついて混乱した。その隙に俺は海上に小さく礼を言うと後ろのドアから教室を出る。綺姫が待っているから急がなきゃいけない。
◆
「……って事が有ったんだ」
「そ~なんだ、でも何でだろ咲夜も尊男……じゃなくて須佐井も」
あの後、俺は教室を無事脱出すると警察署まで急いだ。署の中で綺姫は熊野という女性警官と一緒で挨拶すると「リア充め」と言われて解放されたばかりだ。
「俺をイジるのはいつも通りだったけど海上が止めてくれて助かった」
「そっかタマに感謝だね、それとゴメンまたアタシのせいで嫌な思いさせちゃって」
綺姫のせいじゃないと言ったけど彼女の曇り顔が晴れる事は無かった。だから別な話題を変えようとした時だった。不意に後ろから声をかけられる。
「え~っと君達、少し良いかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます