第26話 明かされた事情 その2


 家に帰ると互いに無言、どうしたものかと綺姫を見ると彼女も困ったようにアハハと笑っていた。


「聞いても……いい感じ、なの?」


「綺姫の事情ばかり知ってて話さないのは卑怯だからね」


 だから俺は自分のことを話した。両親の不倫と離婚から父親と上手く行ってないことや院長の息子なのに精神病、しかも父である自分が原因で性依存症になったと診断され関係が破綻し最後は家を追い出されたことも話していた。


「そう……だったんだ」


「悪い、こんな重い話して」


「うん、ま、まあ、アタシなんて最近捨てられたばっかだし星明の気持ち分かるっていうか……あっ、別に全部分かるとかじゃなくて、え~っと、だから……」


 やはり彼女は優しい。俺が今まで打ち明けた人間に気遣われたことなんて無かった。ジローさんは世の中そんなもんだと言ったし、レナさんは真剣に聞いてくれた上で不幸自慢は聞き飽きたとバッサリ切られた。


「散々偉そうに言ってたけど俺は、こんなだから」


 あの二人は俺を対等に扱ってくれた上で世話を焼いてくれたけど逆に言えばそれだけで俺を心から気遣ってくれたのは義母と綺姫くらいだ。だから次の言葉に俺は更に驚かされた。


「ね、ねえ星明!! じゃあエッチしよっ!!」


「へ? どういう流れ?」


 どういう流れだと思わず俺はポカンとした後に間抜け面を晒し気の抜けた声を出していた。


「えっとさ明日はそっちはテスト、私は取り調べでテンション下がると思うから……お互い明日のモチベ上げてこうよ!! 今も暗いしさ」


 こうして俺は綺姫の謎理論に押し切られる形で致すことになった。実は少し溜まっていたので思った以上に二人で盛り上がってしまった。


「もう日付け変わってるな……んっ」


「んっ、ちゅ……ふぅ、気持ち良かったぁ~」


 そして事後で一息付いていた俺にキスしてきた綺姫の満足そうな顔を見て安心する。もう肌を重ねる事に抵抗は一切無いようで微笑んでいる彼女の満足気な顔を見ると俺も嬉しくなった。


(こんな俺でも綺姫を満足させる事は出来るんだ……あの街に感謝だ)


 珍しく夜の街に感謝すると自然と俺の腕に頭を乗せて来た綺姫の体温を感じながら睡魔に誘われ眠りに落ちていた。今夜も彼女のおかげでゆっくり眠れそうだ。



――――綺姫視点


「おやすみ、星明……アタシも明日頑張るから」


 そう言った後にもう一度だけ寝ている星明の頬にキスをする。星明とキスは病み付きで何度もしたくなるから自重しようと必死だった。


「一日離れただけでアタシも凄い不安になったんだから……」


 腕枕もちょうど良い位置だし寝ているから抱き着いておこう。寝ちゃえば分からないだろう。もし本当のカノジョになれたらコソコソしないで抱きついたり出来るのだろうかと考えてしまう。


「無理だよね……お情けで助けてくれた使い勝手の良い女だし……」


 それでもと思ってしまう。だって私を助けようとしてくれた唯一の人で、たった一人で今日まで頑張って来た男の子だ。ただ側に居ただけで何もしてくれなかった情けない幼馴染とは全然違う。


「本当に強い人って、こういう人だよね」


 よくケンカが強いとかスポーツが出来るとか成績優秀とか人は優劣を付けて評価する。でも多くの人が気付かないのが心の強さだと私は思う。星明と関わるようになってから特にそれを感じるようになった。


「だから、その優しさをもう少しだけアタシだけに向けて……星明」


 そんなワガママなことを考えている内に彼の隣で私はウトウトする。星明も眠れないと言ってたけど最近は私だって一緒にいないと眠れない体になっているんだ。そう思うと不思議と落ち着いて眠りに付いた。



――――星明視点


「よく寝た……あれ?」


 ほのかに温かいベッドと彼女の匂いはするが肝心の本人が居ない。シャツとトランクス姿で部屋を出るとキッチンに立っている後ろ姿を見て安心した。


「あれ? おはよ星明、先に起きたから朝ごはん用意しといたよ~」


「ああ、じゃあ着替えてくるよ」


 慌てて出て来たのがバレバレな恰好だから急いで部屋に引っ込んでジャージの下だけ着て戻ると綺姫はテーブルの上に昨日コンビニで買った弁当と買った覚えの無い味噌汁を用意していた。


「あれ? 昨日買ったっけ?」


「あ、これアタシが作ってみたんだけど……どう、かな?」


 そう言えば先ほどキッチンで立っていたのは味噌汁を作っていたからなのかと気付いた。確かにマグカップに注がれた味噌汁は見た目は少し変な感じだが中身は落ち着く味わいで久しぶりの手作り料理に軽く感動していた。


「うまい……毎朝飲みたい」


「えっ!? ええええ!? つ、作るよっ!!」


「いや、ごめん催促したみたいで……つい」


 つい甘えてしまいそうになるけど自重しなくてはいけない。彼女は弱い立場で今は俺に助けを求めているんだから命令みたいに感じてしまう可能性が有る。彼女の好意に甘えるのはダメだ。


「ううん、今日からお世話になるんだしアタシご飯も作れるよ!!」


「そっか無理の無い範囲でお願いするよ」


「まっかせてよ!!」


 やる気満々なのは俺に遠慮してからなのか、それとも本心からなのだろうか。いずれにしても彼女の優しさに甘えるかどうかはテストが終わった後で考えよう。

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