第199話 救世主の帰還 その2
青い光は星明の内ポケットから漏れていた。そして内ポケットから何かが飛び出て私の目の前にヒラリと落ちた。それは名刺で『メイド道探究者 秋山モニカ』となっていた。
「それは間に合ったという意味です、綺姫さん」
「えっ?」
光が晴れると目の前に現れたのは二人の男女で背広姿の男の人とメイド服の女の人だった。そして突如現れた二人を私は知っていた。
「モニカさん!? それに旦那さんも!!」
「何とか間に合ったな……本国の連中がうるさくて出撃の承認に時間がかかってな……すまなかった、だが後は任せてくれ」
「な、この魔力は……きっ、貴様はっ!?」
ここで初めて星明の体を操っている化物が動揺していた。そしてモニカさんの旦那さんはニタリと意地悪い笑みを浮かべ言った。
「久しぶりだな腐れ外道、相変わらずのクズっぷりだな?」
「くっ、貴様、貴様っ!! 貴様アアアア!! 勇者ああああああ!!」
「それは違う新生魔王イベド・イラック、俺は元勇者だ」
青のネクタイを横のモニカさんに渡す姿は無駄に様になっていて更に青く輝くと銀の鎧? みたいなのを装着し、まるで騎士のような恰好だ。そしてネクタイを受け取ったモニカさんも口を開いた。
「ふぅ、八年前にも言いましたが私の夫は勇者では無いと……おっと失礼、あの時はまだ結婚してませんでした、ちなみに私、今は二児の母です」
「おのれ……おのれ勇者カイリ!! 邪神騎士モニカ・キュレイア!!」
なんかサラッと勇者とか騎士って言ったよね今……てか何か私の記憶が少し戻って来た感じで旦那さんの顔とか見覚えが有る気がしてきた。
◆
――――星明視点
二人が到着する前、信矢さんが必死の攻防を繰り広げている間も俺は奴とチェスを打っていた。少しでも奴の動きを妨害するためだ。しかし俺は既に一度負けていた。そして結界が半減していた。
「どうした終わりか?」
「ああ、次を始めよう」
(何でだ? チェスで負けただけなのに眩暈が……)
なぜか俺は一度の敗北で頭がクラクラし貧血のような症状が起きていた。別に負けて悔しいが基本それだけなのにと疑問を持っていると目の前の魔王は唐突に言った。
「お前、あと二回負けたら消滅するぞ?」
「な、何を言っているんだ」
意味が分からず聞き返すと目の前の男は恐ろしい事を口にした。
「お前がそう決めた、教えていなかったが今この空間は言の葉で支配されている。先ほどの貴様の発言で敗北後に貴様にダメージが入る事が決まった」
「後出しとか……詐欺師みたいだな流石は魔王」
つまり先ほどの俺の言葉がルールとなり今この場は支配されている。自分で言っておいて厄介だと自覚した。そして二回というのは普通の人間が魔王の相手を出来る回数で三回目はそのまま死を意味するからだ。
「さて、改めてどうする?」
「命を賭けたチェスか……やるに決まってる、綺姫のために!!」
そして俺達はチェスを再開した。外の様子は分かっていない。だが奴が俺に精神的ショックを与えるためには思考の共有が必要で何も言ってこないのなら皆は無事だと断言できる。向こうに黙ってるメリットが無いからだ。
「実に人間らしい反応で反吐が出る」
「人間が嫌いか?」
俺が黒のナイトを動かすと奴は露骨に嫌な顔をして一瞬だけ手を止めるとポツリと言った。
「興味は無かった、ただ……」
「ただ?」
「一人どこまでも抵抗する愚者がいた、そいつが人間だった」
そう言って奴は白のポーンを動かした。俺はそれを取ると溜め息を付いて自分の駒を動かして口を開いた。
「だから人間が嫌いか……ま、嫌な奴の一人くらい居るもんだろ?」
「幾星霜の中で奴だけだ、俺を否定し俺を阻んだのは……」
そんな人間が居たのか、きっと凄い強い人だったのだろう。そんな話をしていたら急に奴は動きを止めた。
「おい、お前の手番だぞ、時計は無いんだから早く……ん?」
「ぐっ、ががががっ!? ぎっさまぁあああ!!」
急に発狂したように叫び声を上げると今度は糸が切れた人形のように動かなくなり次の瞬間、今度はチェス盤を中心に青い光が強まった。
「なんだっ!?」
そして俺は一人で青い空間に取り残された。気付けば俺の姿をした魔王はいない。そこで思い出した今なら外の様子を見れるのではと、そして俺は外を見て驚愕した。
◆
――――綺姫視点
「星明が燃やされてる!! それに氷漬けはやめて下さ~い!!」
「大丈夫です綺姫さん、死なない限り魔法で体は治してくれます、それにあなた達の体は元々は彼に治してもらう予定でした」
七海さんに諭されながら私は星明が燃やされるのを見ていた。実はモニカさんの旦那さんって元勇者で秋山快利さんって言うんだけど圧倒的な強さだった。てか数分で決着が着いて今は星明の体からⅠ因子を除去している最中だ。
「ええっ!? そんな魔法とか雑な方法で治るんですか!? 最先端の医療とかって話じゃないんですか!?」
「最初から勇者の……快利くんの魔法で治してもらう予定でした」
「そんなファンタジーな感じで治るの!? アタシ達!?」
「そもそも、そのような方法でしか治らないのです、あなた達は」
えぇ……と私が不満顔で言うと後ろの咲夜とタマが戦っている元勇者こと快利さんを見て「本物だ」と言っている。実はモニカさんの旦那さんは凄い有名人でした。
「どうやら快利のかけた世界への記憶の封印魔法は完全に解けたようですね……」
そもそも私と星明は八年前に記憶を魔王に改竄され、その際にⅠ因子も埋め込まれ、そこで互いの記憶だけを封じられた。そして四年前に改めて快利さんの力で世界中の人々と一緒に記憶が書き換えられていたという状況だった。
「でも、アタシと星明の記憶が二重の記憶改変と封印されてたなんて……」
私と星明が八年前に遭遇したのがⅠ因子で私を庇って星明が感染した。だけど同時に私は近くに居たから抵抗因子、千堂グループの言う
「八年前の戦いで逃がした魔王があなた達に憑りついていたなんて……気付かずに本当に申し訳有りませんでした」
「でも魔王を快利さんが倒してくれなければ世界は崩壊してたんですし……」
「だとしてもⅠ因子の存在を知ったのは討伐から一年後で対応は後手後手、それに私達は四年前に逃げ出したのですから……」
私達が『空飛ぶ城』事件と呼ぶ八年前に魔王が異世界から侵攻して来た事件。それを防いだのがモニカさんと元勇者の快利さん達だった。そして千堂グループや各国と協力し世界を救い快利さんは救世主と呼ばれた。
「そこまでなら良い話で終わったのですが……」
「ええ、そうですね七海さん……」
しかし世界を救った代償は大きかった。救世主となった快利さんの力を恐れた各国政府は快利さんの家族や恋人のモニカさん達を何度も執拗に狙った。その結果、快利さんは世界中の記憶を改竄する魔法を使い世界の記憶を封印し、こちらの世界と連絡を断ち姿を消した。それが四年前だった。
「だから普段は彼らの名代として千堂グループが動いていました……」
「ですが裏切りがあった……ね? 七海さん?」
何か含みが有るようでモニカさんが七海さんをジト目で睨んでいた。更に仁人さんもモニカさんに続いて口を開いた。
「そうだ七海、凍結された『人造魔王計画』を勝手に進めるなんて……まったく」
「仁人様、それは謝ったでは有りませんか……」
「じんぞー魔王?」
拗ねてる七海さんが頭を撫でられてるのが少し可愛いとか思っていたが私は謎の単語の方が気になった。その疑問に答えてくれたのはモニカさんだった。
「Ⅰ因子罹患者のデータを利用しコントロール可能な魔王と同じ力を持った究極の兵士を作ろうとしてたんです、七海さんは」
「ええっ!?」
七海さんを見ると「少し判断が早計でした」と、そっぽ向いた。これでも反省してるから許して欲しいと仁人さんは言うけど私は複雑だ。
私達を利用しようとした事について文句を言いたいけど星明の抑制薬を作ってくれて、モニカさん達に情報をリークし更に信矢さんを密かに援護し私達の護衛を依頼していたのが仁人さん、つまり千堂グループでも有ったのだ。
「取りあえず終わったようなので彼が起きるのを待ちましょう」
「あっ、星明~!!」
モニカさんが言うと快利さんに首根っこを掴まれて連行されて来た星明が運ばれて来た。上半身は裸で服はボロボロだ。取り合えず抱き着いて大丈夫か見てみたけど寝ているだけで一安心していたらモニカさんが叫んだ。
「綺姫さん、まだ危険です!!」
「大丈夫だモニカ、中のイベド……I因子は浄化したから心配無用だ」
「え? そんな簡単に!?」
二人の会話の内容に驚いていると快利さんは左手に持つ緑色の刀の切っ先を私達に突き付けると口を開いた。
「だから後はお前の後始末だけだ、天原綺姫?」
「えっ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます