第104話 二度目の決戦 その2


「「失礼します」」


 俺達がノックをして入ると室内には役者が既に揃っていた。まずは校長に教頭、学年主任そして担任の四名、次に須佐井本人と恐らく母親らしき人間、綺姫が表情を硬くしたから間違いないだろう。


(この女が俺の綺姫の料理にケチを付けたババアか……)


 それに対するように座っているのは俺の義母の静葉さんと竹之内先生だ。さらに二人の後ろには屈強な警備員らしき人間が立っている。警備会社の人間で昨日の打ち合わせで聞いていたガードマンだそうだ。


「葦原くん、天原さん……それにしても凄い声援ね」


「恐れ入ります大月先生」


 まずは学年主任が第一声を発した。それに俺が軽くペコリとお辞儀をして言葉を返し油断なく須佐井を見た。


「けっ、陰キャ野郎がチョーシこきやがってよ」


「須佐井、クラスの仲間だぞ、いい加減にしないか」


 即座に担任が厳しい口調で注意するが悪びれた様子で無視する。もはや担任の言葉ですら聞く気は無いらしい。だが即座に今のやり取りに反応した人物がいた。それは須佐井の母だった。


「先生、よろしいですかしら? 何でうちのタカちゃんにだけ注意しますの?」


「は? いえ、今のはどう見ても……」


 困惑する担任にさらに畳み掛けるように須佐井母は謎理論の解説を始めた。


「今のはそこの葦原さんのお子さんがこわ~い顔で睨んだから優しいタカちゃんも、つい口が悪くなってしまったんですの、謝らせるなら先にそちらではなくて?」


「えっ、はぁ、ですが……」


 これは思った以上に頭がいかれてる。百歩譲って俺が恐い顔だとしても一目見ただけでイチャモン付けて来るとは思わなかった。そして同時に黙っていられなくなった人物がもう一人出た。




「常識が無いとは悲しいですね……子を見れば親が良く分かるとは言ったものですわ、ねえ先生方?」


 それは俺の義母の静葉さんだった。校長が焦った顔で学年主任の大月先生は固まっていた。しかし教頭だけプッと吹き出して「失礼」と言って表情を戻している。


「教頭先生!! それに葦原さん、今のどういう意味ですかしら?」


「意味が分からないのは教養が足りないのでは無くて?」


 すっげえバチバチなんですけど親同士が、それを見て横の綺姫を忘れていたと見るとプルプル震えていた。


「ほしあきぃ……こ、恐いよぉ……」


「大丈夫だよ綺姫、片方は常識有るし普段はあんなんじゃないから」


 でも怒らせたら恐いと言われ俺も頷くしかなかった。将来の同居が恐いと小声で言う綺姫に俺も絶対に別居が良いと密かに思ってしまった。


「そもそも宅の子がうちのタカちゃんをイジメるから!!」


「は? 怪我させといて随分な物言いですわね、霧ちゃん例の物を」


「はいはい、お姉様、先生方どうぞ」


 ちなみに竹之内先生は今回の話し合いで弁護士としてではなく我が家の親戚として父の代わりに出席するという荒業を使っていた。話し合いに持ち込む前に逃げられる可能性が有るから弁護士なのはギリギリまで隠す作戦だそうだ。


「はい、こちらの診断書は昨日の時点で確認しております、はい」


 校長に手早く資料を見せ須佐井家側にもコピーを渡していた。それにしても身分を隠して話し合いとか大丈夫なのかと昨日も聞いたが、そもそも法の介入していない場だから、この集まり自体に法的拘束力もほぼ無く問題も基本的に無いらしい。


「うちのタカちゃんは、こんな野蛮なことしまっせん!!」


「クラスの、それに教師や第三者の証言が既に有りますが?」


 須佐井母の言葉に即座に反応したのは大月学年主任だった。差し詰め彼女が裁判官いや、調停員と言った感じだ。校長は資料を渡されてもチンプンカンプンみたいだし教頭は見世物楽しんでるようで他人事で今の所は担任はこちら側のようだ。


「葦原さん家の子が、そこの女を使ってタカちゃんを罠にはめたのよ!! 大体そんな料理もまともに出来ない女は前から止めなさいとママはあれほど……」


「そ、それは……ごめんなさいママ……」


 どうしようコイツらぶん殴りたい。綺姫は震えて俺の腕に抱き着いているし俺は違う意味で震えてる。


「はぁ、埒が明きませんね……ところで予定では保護者二名の枠に旦那様が出席されるとか? まだでしょうか?」


 竹之内先生が言うと須佐井母は仕事で少し遅れていると言い返した。その言葉に綺姫はビクッと反応している。そういえば目の前の須佐井母に料理をダメ出しされ、父親には罵倒されたと前に話されたことが有る。両親揃って苦手なんだろう。


「それについては申し訳ありませんわ、今は仕事が大変に忙しくて……なんせ社長業ですので!!」


「あら、そうなんですの?」


「ええ、ええ!! そうですわ!! そもそも夫はですね――――」


 今度は旦那の自慢に切り替わったな。須佐井も父さんは凄いんだとか言ってるし……自分の父を誇りに思えるのはクズでも羨ましいと思ってしまった。


「そういえば陰キャそれにアヤの父親って何してんだよ!!」


 うわぁ……言いたくねえぞ特に須佐井には絶対に言いたくない。綺姫に関しては言いたくても言えないだろう。

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