第103話 二度目の決戦 その1
◆
――――星明視点
迂闊だった。俺は綺姫をまた不安にさせてしまったのか。最低だ……綺姫に言われるまで気付かなかった。
「そうだ綺姫の言う通りだ。すまない小野、その……体質的にマズいんだ」
「へ? 体質って……星明?」
綺姫以外は未だに女子に密着されたり息のかかる位の距離に近寄られると危険だ。問答無用で欲情し暴力的になって抑えが効かなくなる場合が有る。綺姫が発散させてくれた時は大丈夫だけど昨晩は綺姫とシてないから危険だ。
「あ~、そうねアヤの言う通り忘れてた」
「そうだった、アヤ見直したよ~。大事なカレを守ってんだね」
海上と浅間も気が付いたようで今の綺姫の言葉を受けクラスの皆に説明し俺は女子の相手が苦手だと上手くごまかしてくれた。
「へ? あっ……うんっ!! もちろんだよ!!」
少し違和感も有るが綺姫が俺の身を案じ女子から引き剥がそうとしてくれたのは間違いない。さすが俺の彼女だと言うと若干あせった顔をしていた。
「綺姫、最近すこし調子に乗ってたよ」
「べっ、別にアタシは星明がみんなと仲良くするのは良いと思うけど……でも」
「分かってる、俺の体を気遣ってくれて、ありがとう」
そうだ、綺姫のお陰で体調は少しづつ落ち着いて来たし抑制も多少は出来るようになったけど俺は未だ対処方法が不明な精神病なんだ。
「う~ん、結果オーライかな……でも星明?」
「どうしたの?」
綺姫が納得してない顔で少しだけ不貞腐れている表情で俺を見ている。そして小声でそっと俺の耳元で呟いた。
「今夜は昨日の分も仲良しの日だからね?」
その可愛らしく真っ赤になった顔に俺まで照れてしまう。俺は返事をして頷くと今夜は眠れない夜になりそうだとニヤニヤしないよう必死に表情を引き締めた。
◆
「う~ん!! 目覚めの良い朝!!」
「俺も熟睡できて良い目覚めだよ」
そして翌朝の起きてからの第一声がこれだった。あれから家に帰ると既に静葉さんと竹之内先生が家で待っていて今日の話し合いが始まった。そして打ち合わせを終えると二人は明日の準備のために、とんぼ返りしたので俺達は普通の夜を過ごした。
「だよね、昨日も星明すんごい激しかったもんね」
「綺姫が可愛い声上げるからついね」
ちなみに俺達の普通の夜とは夜の営みがある時を指す。最低でも寝る前のキスは基本だった。だから平たく言えば無い日の方が普通の夜ではない扱いだ。
「もう!! じゃあ朝ご飯の用意しちゃうね!!」
「ありがとう、俺も何か手伝うよ」
二日連続で寝坊気味の俺達は少し早めに家を出てコンビニで昼食を買うと急いで合流場所に向かう。二人と合流してから校門前に来たが昨日まで立っていた柔道部員は一人も居なかった。
「朗読劇の効果出てんじゃんアヤ、葦原?」
「そうだね咲夜」
二人はウキウキしていたが反対に海上は少し表情が厳しめだったから気になって小声で話しかけていた。
「海上?」
「ああ、ちょっとね……気にしないで葦原」
「分かった。あとSIGNの例の話は今夜で、たぶん今日で終わるから」
それにOKと答えると海上は綺姫と浅間との会話に混じって行った。やはり何かを気にしている節がある。それこそ瑞景さんに相談した方がいいのに今の海上は一人で何かを悩んでるように見えた。
「星明~!! 置いてくよ~!!」
「今行くよ~!!」
◆
俺が隣の席の綺姫と視線を合わせると同時に立ち上がった。
「さて、時間だな行こう綺姫」
「うん!! 星明!!」
そして放課後ついに俺達は決戦のために校長室へと向かう。教室ではクラスの主に女子の声援が凄かった。だが問題は内容だった。
「頑張ってね葦原くん!! いいえホッシー!!」
「そうだよ『俺だけの宝を守り未来を切り開く!!』をリアルでやっちゃえ!!」
「そして月の見える丘で愛を語り合うんでしょ!! 報告を待つわ!!」
グッとサムズアップされて俺は苦笑した。例の朗読劇の後半が今日も、しっかりと流れたのだ。そこで俺の配役のホシキがメインヒロインのアヤノに告白したシーンのセリフが今の言葉だった。
「でも最後の告白からの畳みかけは凄かったわね」
「てか私らも出演してたしね……聡思兄ぃに後で言おっと」
もちろん先週の須佐井を断罪したシーンは無駄にリアルに描写され須佐井と柔道部の信用は地に落ち、トドメに放送委員は特大の援護もしてくれた。
『皆さん、これはフィクションです。ですが一部実話でも有るのです。そして今日、我が若月総合学院で愛し合う二人は最後の戦いに臨むのです!! わたし達で見届けましょう!! 二人の愛の伝説を!!』
放送時は死ぬほど恥ずかしかったが生きてる中で人にここまで応援されるのは初めてで少しだけ嬉しかった。廊下に出ると更に効果は絶大だったと思い知らされる。校長室までの廊下に学年を問わず多くの生徒たちがいて応援してくれていた。
「王子様先輩!! 頑張ってクズイケメン倒して下さい!!」
「アヤせんぱ~い!! ファイト!! 応援してま~す!!」
「デュフフ、まさかリアルざまぁを見られるとは僥倖ですぞ!! リア充万歳!!」
ほんとに色んな生徒がいるが、みんな俺と綺姫を応援してくれている。そして俺達は声援に送られながら決戦の場所に到着した。
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