第102話 想定外の下準備 その3


「いえいえ既に成果が出ましたよ天原さん」


「ほんとだ良い感じだよ星明」


 小野と綺姫が今回の放送について議論されているスマホ画面を見せてくれた。そこで須佐井を擁護しているのは数名のみで流れはこちらに傾いている。


「ありゃ、意外と有利に流れてる……」


「俺も想定外だ海上」


 当初の考えていたプランは須佐井の学校での影響力を奪うという作戦は俺が欲張り過ぎたせいで中途半端な成果だった。しかも例の署名活動で流れは拮抗していたのだが、それが完全に崩れた。


「相談しようか迷ったけど効果が有るって聞いて準備したんだけどダメだった?」


「そんなこと無い、ありがとう綺姫……俺のミスが帳消しになったよ」


「えっ!? じゃあアタシ、星明の役に立てたの!?」


 不安そうな表情をしているが間違いなく綺姫のお手柄だ。ただ一つの事柄を除けば完璧だと思う。


「もちろんだよ……ただ朗読劇の王子様って……」


 そう、俺が恥ずかし過ぎるという問題以外は完璧だ。あんなの俺のキャラじゃないし事実はねつ造されているしクラスからの視線が辛いんだ。


「あっ、さすがに気付いちゃったよね、星明そっくりにって演劇部の人達に頼んじゃったから!! えへへ~」


「えっ……あっ、いや……それは」


 どこが似ているんだ綺姫、明らかに俺のキャラじゃないし俺はそもそも王子様ではない。どう見ても違う気がするんだが……。


「えっ、葦原くんてああいう感じなんだ」

「正直いうとキランは無いよね~」

「でも逆によくな~い?」


 待て女子共よ一学期までの俺を知っているなら明らかにキャラが違うのは分かるだろ。陰キャボッチだった葦原くんだぞ俺は……元だけど。一方で肩身が狭くなった男子の方も見てみる。


「やっぱ王子様系がモテるのか……」

「ギャルを落とすのはキラキラ系とか聞いてねえし」

「てか天原さんマジで葦原の彼女なんだな……」


 こっちはこっちで違う方向に話が流れてる。やはり綺姫はクラスでも人気者だし男子からはモテモテだ。明るくて可愛くて優しいから当然だろう……少し引け目を感じるのは俺が未熟で不釣り合いだからだろう。


「星明?」


「何でもないよ綺姫」


 なら……もっと強くなって綺姫に相応しい男にならないといけない。ご両親のことも有ったから綺姫の内心は不安なはずだ。落ち込んだり迷っている暇なんて俺にはもう無いんだからな。



――――綺姫視点


「これで学校内でも上手く立ち回れそうだ、俺一人じゃ絶対に無理だったから助かったよ綺姫」


「そんな~、でも色んな友達とか知り合いに頼んで良かった!!」


 小野っちの他にもクラスの女子や後輩それに友達の友達まで頼って今日の朗読会を企画して正解だった。そう思っていたら星明が最後に小さな声で付け足した。


「だけど綺姫、過剰に演出するのは……どうかと……」


「でも星明、ほんとのこと話したらアタシら二人揃って捕まるよ?」


 そうなのです竹之内先生が言うには私もアウトらしくバニーの恰好でバイトしてただけでも反社に協力した扱いだから危険らしい。でも未成年だから幾らでもごまかせるとも言われました。


「それは……そうだね」


「でしょ?」


 特に星明は中学生の頃から悪い子だったので危険だそうで須佐井を追放する前に私達が学校から追放される危険も有るそうです。


「だから小野っちが用意した話の方が色々ごまかせると思ったんだ」


「そ、そうか……なら、でも……」


 ちなみに私が用意した話は少し現実感に欠けていると言われ今の放送の流れに改変された。


「どうですか? 二人の出会いの物語をすこ~し演出し全校生徒の皆さんにお伝えしたのです!!」


 自信満々な小野っち、それに他にも女子からアイディアを取り入れて文芸部の子に託した結果の物語が先ほどの放送内容だった。


「小野、このまま世論誘導できるか?」


「はい、ネット班も既に動いてます。民衆はストーリー性の有る逆転劇やスカッとする話に弱いんですよ葦原くん?」


 そして星明が珍しく咲夜やタマ以外の女子に話しかけていた。星明にクラスで友達が出来るのは良いと思う……思うけど……。


「なるほど協力感謝する」


「いえいえ引退した身でここまでの件に関われるのは私の方が感謝してます」


 そう言って二人はニヤリと笑みを浮かべ更に話を続けようとしていた。なんか知的なカップルっぽくて嫌な光景で私がもう限界だった。


「そ・れ・よ・り!! 少し近くない?」


「綺姫? あっ、そうだった!?」


 そこで星明は気付いたようにハッとした顔になった。そうだよ私以外の女の子と話すなら彼女、いや、お義母様の公認の婚約者の私を不安にさせるのはダメだと思うのです!! これは束縛が強い彼女じゃない……と、思う。


「……ああ、これは失礼しました天原さん」


「べっ、別に~、そういうんじゃないし~」


 なんか小野っちの言葉にクラスの女子がみんな理解したような顔をしてて生暖かい目で私を見ている気が……まさか今のだけでバレた?

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