第十一章「祭と思い出と二人の関係」

第101話 想定外の下準備 その2


「綺姫……いったい何を?」


「まあまあ、お昼をお楽しみにね星明!!」


「葦原くん任せて下さい!! 署名なんて小細工が真の大衆操作の前には無駄な行為だと分からせてやりますよ……ふっふっふっ」


 小野お前そんな性格だったのかと困惑している間に朝のホームルームになって気付けば、いつの間にか問題の昼休みだった。


「アヤ、そろそろネタバラシしてよ~」


「ふふん、直に分かるよ咲夜」


 そんな二人を見ながら俺は先ほどSIGNで海上からの通知を思い出していた。


【ミカ兄が例のトリプルデートについて連絡が欲しいって】


【分かった。今夜にも連絡する】


【あと個人的にも少し相談あるから話せる?】


 そういえば弟との再会や病院の検査、なにより綺姫のご両親と会って忘れていた。海上の個人的な相談も気になるし再び了承したと返信はしておいた。


『ただ今より、特別企画、演劇部有志による、朗読劇を、始めます』


 そんな中で昼の放送がいつもの流れと違った。教室内も普段と違う放送内容のアナウンスに少しザワついた。




『朗読タイトル「クズ幼馴染に捨てられた私が真実の愛に目覚めて最高の王子様にプロポーズされちゃった、え? クズは制裁しますけど何か?」です』


「は?」

「え?」

「なるほど……」


 順に声を上げたのが俺、浅間そして海上だった。一方の綺姫はドヤ顔して俺達を見てて可愛い。シナリオは文芸部が担当したと補足も入り朗読劇が始まった。


『私はアヤノ、幼馴染と付き合う間近の高校三年生!!』


『これは女子高生アヤノの物語、ですが彼女は騙されていたのです!! 幼馴染のズサイ・タケオはとんでもないクズだったのです』


 やはりこの流れは……と海上を見るとコクリと頷いた。浅間も俺たちを見て何かを察したようだ。


「あ~、今日ノ放送ナニカ違うネ~!! ミンナー聞イテミヨー!!」


「ソウダネー、天原サン!!」


 とりあえず綺姫や小野が朗読に向いてないのは良く分かった。


『このタケオは顔だけのクズでアヤノの体を狙うヘンタイ幼馴染だったのです。しかも普段から格闘技をやっていると周囲に吹聴しイキり散らかしていました』


『俺は強くてイケメンだぜアヤノ~!! ぐへへ~』


 なんかだいぶキャラが酷いことになってるな。しかし綺姫を見ると「完璧ね」と自信満々で小野に限っては「演出ですから、ヤラセは有りません」と言っている。メディアの闇を俺は見ているのかもしれない。


『しかしタケオの化けの皮はすぐにはがれました。運悪くアヤノとタケオは不良たちに絡まれてしまったのです!!』


『キャー、タケオ助けて~』


『と、とんでもありません!! お、俺は何も関係ねえし知らねえ!! じゃ、じゃあ、さようならああああああああ』


 このセリフだけは嫌に忠実だな。綺姫がシナリオに協力しているのは良く分かった。そんな事を考えているとクラスがざわざわし出す。


「どうしたんだ?」


「あれ~? クラスのグループ通知で流れてる噂に似てるよ~!!」


 綺姫が棒読みの演技をしている……可愛い。じゃなくてクラスのグループ……そんなもの存在するのか。


「葦原これよこれ、あんたSIGNは登録してても、こっちはしてないでしょ?」


「そういえば、あんたが元陰キャボッチなの忘れてたわ」


 そう言って二人が見せて来たのは未だに、この世界での使用率が高い緑のアイコンのアプリだ。俺は最低限の人間しか登録していないから二人の画面を見ると綺姫に関する噂が断片的に流されていた。


「これは……海上?」


「まあウチらが流した噂に尾ひれが付いた感じね、先週の須佐井の騒動がメインだけど色々と話を盛ったからね……咲夜が」


 そういえば浅間は色々と話を盛るのが得意だったな。自分のだけじゃなくて他人の話も盛るんだなコイツ。


「なっ、何よその目は!!」


「俺は何も言って無いぞ?」


 そんな間にも話は進んでいた。いきなり壮大なBGMが流れている。


『なんとタケオは不様に逃げ出したのです!! 逃げ出したタケオの逃げ足は天下一品で実に情けない。そしてアヤノは一人取り残されてしまったのです!!』


 恐らくアヤノこと綺姫のピンチを演出しているのだろう。だが急にアップテンポの平たく言えばカッコいい風のBGMに変わった。


『待てい!! そこの美しく可憐で可愛らしい女性を放したまえ悪人どもめ!!』


『なんだテメー!! ぐわ~!!』


 迫真の演技だがセリフが三流過ぎてな……それよりコイツまさか……。


「誰だろうね葦原~?」


「そうね……ぷぷっ」


 分かって言ってるなコイツら浅間に海上め……俺はこんな助け方してないぞ。しかし綺姫はニヤリと笑うだけで何も答えてくれなかった。


『あ、あの、綺麗な目をした素敵なあなたは!?』


『俺は通りすがりの君の王子様さ!! キラン(効果音)』


『キャー!! 素敵!! 星の王子様ぁ~!!』


 横で海上と浅間が机をドンドン叩いて笑いを堪えている。俺は色んな意味で恥ずかし過ぎる。クラスの連中にまで注目されるし元陰キャには辛過ぎるよ綺姫。


『本日はここまで、謎の王子の正体は?後編は明日に続きます。お楽しみに~』


 どうやら二部構成のようで明日も俺は衆人環視の元に恥辱プレーが確定した。




「星明ぃ~!! どうだった!?」


「う、うん……その、何と言うかだいぶ脚色が、ね?」


「そうだね割と真実に近いし、もっと演出を多くした方が良かったね!!」


 これ以上なにを盛るというのか綺姫!? 既に供給過多な上に明らかに俺のキャラが違い過ぎる。

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