第100話 想定外の下準備 その1
「綺姫……ご両親のこと何て言ったらいいか、でも君は、君だけは俺が……」
「でもアタシ星明に相応しくないかも……」
「綺姫なにを言っても……もう遅いよ。俺はあの日に決めたんだ、君に告白されたあの夜に何が有っても君を守るって……」
その言葉を聞いて私は安心すると同時に心の中に懐かしさがこみ上げて来た。不思議な感覚で、ずっと前にも誰かに言われたような気がする。
「星明……アタシはずっと一緒に居たい、でも……」
「なら心配しないで綺姫、それと四門さん綺姫に手を出せないって本当ですか?」
「ああ、ジローの野郎と親父んとこにストップが入った。だが嬢ちゃんの親にはかけられてない、意味は分かるな?」
「どうぞどうぞ、あんな親、煮るなり焼くなり好きにして下さい!!」
星明たちの話で私は安全だと聞いてホッとしたけど星明にまた迷惑をかけたと思うと申し訳なくなる。私は守られてばっかの役立たずで、このまま星明と一緒にいて良いのか不安で少し悩んでいた。
◆
――――星明視点
「なら良いです、僕は……いや俺は決めたから……綺姫を今度こそ守り切ってみせるって」
「今度こそ?」
四門さんの疑問形の言葉に俺は今の言葉を反芻すると確かに言っていた。俺はあの夜の日のことを思い出していたのに今度って何だ? 最近は無意識に変なことを口走っている時がある。
「あれ? なんか勝手に言葉が……すいません」
「別に気にすんな、じゃあ俺らは退散する。それと面白い情報も手に入ったから気が向いたら連絡しろよ」
そう言って八岐金融の二人は正門前に来た六未さんの車に乗って行ってしまった。その動きに呼応する形で他の借金取りも足早に帰って行った。この一連の流れから約五分後に静葉さん達が出て来た。
「二人とも大丈夫!?」
「その、すいません静葉さん……」
そこで綺姫は先ほどの話を説明した。話を聞いた静葉さんも頭を抱えていたけど幸いにも今は病院の改装中で、先ほどの工事の人達が今回の損害も一緒に直してもらえるようで一安心だ。
「とにかく二人に怪我が無くて良かった……中庭が少し荒れたくらいだし気にしないで綺姫ちゃん……じゃあ二人とも送るわ」
「すいません……本当にうちのバカ親が、本当にすいません」
「綺姫もう気にしないで、静葉さん俺からも改めてご迷惑おかけしました。それと明後日の件もお願いします」
「ええ、それは車の中でもう一度、綺姫ちゃんも含めて、ね?」
俺達はそのまま静葉さんの車でマンションまで送られると今日一日の疲れが出て二人ですぐに眠ってしまった。幸いにも翌朝は浅間のモーニングコールで月曜から遅刻という事態は避けることが出来た。
◆
「へ~、そんな風に進んでんだ話……じゃあ校門前のあいつらも明日には静かになりそうね」
駅前でいつものように二人と合流し通学路を歩いていると嫌な声が聞こえた。海上に釣られて見ると先週からの嫌がらせの光景が広がっていた。
「罠にはめられた須佐井先輩を助ける署名活動中で~す!!」
「卑怯な陰キャに学校の皆で鉄槌を与えましょう!!」
「本当の悪を倒すため皆さんのご協力お願いしま~す!!」
それは柔道部二年の有志による署名活動だった。三人ほど毎朝立っているがメンバーは全体で六人いるのを確認している。先週から今日で三日目で俺や特に綺姫を見るとニヤニヤしている不愉快な連中だ。
「ほんと、マジでウザいわ……アヤ、葦原さっさと行こ」
「うん、そうだね咲夜」
浅間に言われ俺達が無視して通り過ぎるタイミングで声を一際大きくし俺や綺姫に嫌がらせをするあたり最悪だが個人名を出さない点は学習はしていた。幸いにも、うるさいのは朝くらいだ。
「毎朝よくも懲りずに、赤い羽根でも配ってろっての」
「まあまあ咲夜……」
「あれは署名じゃなくて募金だぞ浅間?」
「あっそ、てかアヤもだけど葦原もガツンと言えば良いのにさ!!」
そんな浅間の言葉に頷きながら海上が話に入って来ないのが気になった。いつもなら浅間と二人で文句を言うのに教室に入ってからスマホをいじってばかりだ。
「タマどしたの?」
それに気が付いたのは俺だけじゃなくて綺姫もだった。ハッとした顔でスマホを止めて一瞬だけ俺と目が合うとスマホが揺れる。さり気無くスマホを見ると目の前の海上から
「ごめん、少しね……それより昼に何かやるんでしょ?」
「うん、後で小野っちに聞いてみる」
「それは不要です天原さん!!」
確か小野……放送委員でメディア系の部活に複数所属していたメガネ女子で校内の事情通と聞いた。二人で何をしようとしているのだろうか。
「小野っち~!! 例のアレって今日だよね?」
「ええ、あの暑苦しくてむっさい二年の柔道部にもいい加減こっちも頭に来てるんで、それに演劇部も放送委員もやる気満々ですよ?」
演劇部それに放送委員だと……いったい何を始める気なんだ綺姫。
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