第99話 再会と発覚する新事実? その2
今度は俺が驚く番だった。
「おお、綺姫!! ちゃんと無事に逃げ出しっ――――ふがっ!?」
「ぜんっぜん無事じゃないし!! どんだけ酷い目に遭ったと思ってんのよ!!」
綺姫の渾身の右ストレートが入った。綺麗なフォームだと感心していると殴られた綺姫のお父さんが起き上がる。
「いてて、酷いな、いきなり父さんを殴るなんて」
「娘捨てておいて今さらどの面下げて出て来たのよ!!」
さらに殴り掛かる勢いの綺姫を後ろから押さえ込むと綺姫はフーっと興奮が収まらないから優しく頭を撫でる。綺姫は普段もベッドの中でも撫でられるのが好きで落ち着かせるにはこれが一番だ。
「落ち着いて綺姫」
「ううっ、ごめん星明ぃ……」
泣きそうな綺姫は振り向くと目に涙を浮かべ堪え切れずに抱き着いて来るから俺はされるがままでいると天原さんが俺達を見て口を開いた。
「いやぁ、懐かしい光景だ……だがお前が今も御曹司と一緒だなんて、須佐井の坊ちゃんと仲が良いと母さんが言ってたから頼んだのに……これなら最初から」
「「須佐井!?」」
何か小声で聞き取れなかったが須佐井という単語だけを聞いて俺達は反応していた。もはや共通の敵として奴は認定されているから当然だ。
「ああ、須佐井の坊ちゃんはよく家に来てたろ? だから母さんと二人でお前を匿ってもらうように頼んだ。家の予備の鍵も預けて入念にな?」
「はぁ? 何なのその話?」
「詳しくお願い出来ますか天原さん」
そこで綺姫の父、天原
「てか父さん、何で家の鍵なんて渡したのよ!?」
「ああ、お前を上手く連れ出すためと言われてな、聞いてないのか?」
綺姫を見ると首を横に振るし天原さんも困惑している。これは須佐井が何か知ってる可能性が高そうだ。しかも借用証書や手紙を置いたのは綺姫が逃げた前提の策で囮だったらしい。言われてみれば、あんな内容の手紙なら時間稼ぎだと容易に想像が付く、それこそ引っかかるのは綺姫くらいだろう。
「そもそも何でアタシに話してくれなかったのよ!!」
「話したらお前は謝ろうとか変なこと言い出すからな、こういう時は逃げて踏み倒すのが一番だといつも言ってただろ?」
「そういうのお爺ちゃんにダメだって言われたじゃない!!」
そして思った以上にクズだな俺の恋人の父親。いっそ清々しいレベルのクズだった。俺は幼少期にこんな人と知り合いだったのか……そうだった。
「天原さん、昔ここで働いてたって……」
「ええ、御曹司、引っ越す前はここでも働いてました、それに――――」
そして天原さんが喋ろうとしたタイミングでビィーっと車のクラクションが鳴り響いた。見ると病院の正門前からワゴン車がここ目掛けて突っ込んで来ている。
「あ~な~た~!! また何社か追っ手が来てるわ~!! 早く逃げましょ~!!」
「ああ~!! 分かった~!!」
「えっ!? か、母さん!?」
するとワゴン車は無理やり中庭に突っ込んで来ると俺たちの前に停まって後ろのドアが開いた。そして運転席からは綺姫にそっくりな女性が声をかけて来た。
「あら綺姫、久しぶり!! 私達これからまた逃げるから、では彼氏さん、娘お願いしますね~!! 私に似て器量だけはいい子なので、あなた行くわよ!!」
「ああ、じゃあな綺姫、な~に須佐井くんより葦原の御曹司の方がランクはずっ~と上だ、それに昔からっ――――」
まだ何か言っていたが車のドアが自動で閉まって聞き取れなかった。そのまま病院の花壇を蹴散らしワゴン車は走り去って行った。
◆
――――綺姫視点
「なっ、何なのよ!! バカ親あああああああ!!」
「綺姫とにかく落ち着いて、ね?」
「ううっ、もうやだ何でアタシばっかり」
二人が走り去って数秒後の私がこれだった。そして星明は私の手を取って隅のベンチに誘導してハンカチを渡してくれた。正直もう泣きたい、てか泣いてる。しかも病院にも迷惑かけてるし……最悪だ。
「お~お~、ひでえなこりゃ」
「そうだな兄貴……乱暴な運転だ」
そんな落ち込んでる中で聞き覚えの有る声が後ろから聞こえた。
「四門さん、それにゴローさんまで!?」
星明の声に私も振り返ると、そこには八岐金融の二人がいた。つい条件反射で私は隠れようと星明に抱き着いた。
「あっ……そ、そのぉ……」
「心配すんな、嬢ちゃんにはもう手出し出来ねえからよ。逆に俺らが潰される。国やサツよりよっぽど怖い相手にお前ら気に入られたみたいだな?」
「そ、そうなんですか?」
そんな怖い人の知り合いなんて居ないんだけど……でも安全なのは助かると一安心していたらゴローさんがスマホに出て何かを話していた。
『アニキ!! ダメだ……さすが刹那の借金王、追いつけない!!』
「六未でもダメだったみたいだ……兄貴」
今のってもしかして父さんと母さんの話かな? しかも二人以外にもガラの悪そうな格好の人達が病院付近にいっぱい見えるんですけど……。
「四門さん今の話は?」
「ああ、お前ら知らないか……あの夫婦は逃げ足が天下一品の元運び屋で仕事が無くなってからは借金まみれの通称『刹那の借金王夫妻』って業界では有名人だ」
「うわ~ん!! 星明ぃ~~~~~!!」
両親の余りにも情けない通称名と仕事内容を生まれて初めて知った私は泣きたくなって星明にすがりついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます