第98話 再会と発覚する新事実? その1

――――星明視点


 あれから俺は精密検査やらを最優先で受けていた。簡易的な人間ドックのようなもので気が付けば陽が傾き夕日も見え始めている。


「時間かかったな……午後は綺姫と二人で過ごそう思ってたのに」


「星明さん今よろしいですか?」


「はい大丈夫です、なんですか?」


 俺の診断をしていた医師が恐縮した様子で俺に声をかけて来た。そういえば病院内では昔から御曹司だの坊ちゃんだの言われたな。


「診断書の件で最後にもう一度だけ簡単な問診をお願いしたくて」


「分かりました。お願いします」


 その場で簡単に質問に答えていると向こうから綺姫と静葉さんがやって来たが、なぜか綺姫は疲れ切った様子で何が有ったんだろうか。


「綺姫?」


「ううっ……星明、静葉さん達の授業が大変だったよ~」


 抱きついて来た綺姫をよしよしと撫でていると後ろの静葉さんは呆れ顔で医師は困惑していたが下がって良いと静葉さんに言われ持ち場に戻って行く。


「どうしたの?」


「アタシがエッチの知識が無いからって指導されて大変でした~」


 どうやら静葉さんに性教育を施されたらしい。そして綺姫は妊娠していないか診断され、その間に産婦人科の医師と静葉さんらに徹底的にお説教されたそうだ。


「星明くんもよ……あなた夏休みに一回だけミスしたそうね」


「え? 俺はちゃんとコンドームを……あっ」


「覚えが有るのね、お願いだから学生の妊娠はさすがに庇えないわ」


 そうだ綺姫に告白された日に俺は何も考えず盛大にしていた。静葉さんの話では偶然にも安全日だったらしいが、それでも出来る時は出来るから気を付けるようにと俺達は二人揃ってさらに説教された。


「勢いで作っちゃうと私みたいになるからね……」


「えっ、そういえば香紀くんのお父さんって」


「結婚前に、あの子の実の父親は仕事の事故で亡くなってしまったの」


 その話は少しだけ小耳にはさんだことが有る。俗に言う『できちゃった婚』というやつで結婚式まで決まっていたらしいが式の数日前の仕事中にトラブルに巻き込まれ相手は亡くなったと聞いた。


「すいませんアタシ……」


「良いのよ言い出したのは私だから、だから二人には幸せになって欲しいのよ」


 それから一人で香紀を育てていて、その際に大学の先輩だった父がここへの就職の斡旋と援助を申し出たらしい。今はそんなことをする父とは思えないが昔はあれでも真人間だった。


「じゃあ今日はこれで?」


「少しだけ待ってて家まで車で送るんだけど、工事のことで少し話が有るからって呼ばれちゃってね」


 見ると病院のエントランスの受付近くにSという文字の入った群青色のヘルメットを被っている人達が会釈している。背広と作業着の人がいるから打ち合わせだろう。黄色いあのヘルメットじゃないなと思いながら俺たちは時間を潰すために病院の中庭に出た。




「もう少し自分の体のことを知れ~って色々と言われちゃった」


「そっか、でも大事だ……そういえば綺姫って生理の話をあまり聞かないね」


「う~ん、アタシ昔から割と軽くて気にならなくて保健体育の授業もサボってたし」


 そら静葉さんが怒る訳だ。なんて話しているとカンカン遠くから音がする。病院の老朽化した施設の工事と新しい病棟の増設だと先ほど医師に聞いた。さっきのヘルメットの人達だろう。


「日曜なのに大忙しだね大工さん」


「そうだね……でも、そろそろ終業かな夕日も出てるし、まだ日は長いけど徐々に短くなってるしさ」


「そっか!! そうだね!!」


 するとスマホを取り出し夕日の写真を撮ると言い出して後で海上や浅間に送るんだと意気込んでベストポジション探しに行ってしまった。そんな綺姫を見ていた俺に不意に声がかけられる。


「御曹司!! 御曹司じゃないですか」


「ん? えっと……」


 見た感じ普通の中年男性だ。着崩した背広はくたびれたリーマンと言うのが似合う恰好だが俺はこの人を知らない。それに何か怪しい。


「あ~、もう十年以上前ですからお忘れですよね~、庭師のケーマですよ、この中庭でもよく話したじゃないですか~」


 俺が小さい頃……知り合い? それとも詐欺か誘拐? いやだがもしかしたら本当に知り合いの可能性も有るし探りを入れるべきか。


「失礼ですが昔なので……ただ何となく覚えてる感じで」


「そうですかそうですか、いやいや、つい懐かしくなって声をおかけしただけでして、はい……相変わらず立派な病院で……」


 やはり怪しい……でも俺の過去の記憶は曖昧で病気前に至っては正直リセットされたと言っていい感じだ。ここはテキトーに話を切り上げ綺姫を連れて早く帰ろうと俺が思った時だった。


「あっ、ああああああああああああ!!」


「え? 綺姫?」


 綺姫が俺の方に振り返ったと同時に驚いて大声を上げ全力疾走して来た。そして俺を、いや隣の男性を指差し叫んだ。


「はぁ、はぁ……なっ、何でこんな所にいるのよ!! 父さん!!」


「は? 父……さん?」


 

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