第97話 葦原家の過去 その3


 酷い……そんなの酷過ぎる。星明だって好きであんな病気になった訳じゃ無いのに、むしろ原因は自分達なのに……許せない。


「そんなの星明が、あんまりです!!」


「あの人を庇うつもりは無いけど余裕が無かったのも事実なの……」


 それから秘書だった静葉さんが星明の面倒を見ようとしたけど逆に例の病気が発覚するまで星明を追い込んでしまい結果的にどうにも出来なかったらしい。


「それでも星明は悪くないです」


 一方お父さんの方は静葉さんにさとされ一度は星明に謝ろうとしたけど直前で理由を付け逃げ出し最後は責任の所在が曖昧なまま理不尽に星明を家から追放した。それが中学二年の終わり頃の話だった。


「その通りよ……でもこういう時に素直になれないのが大人なの情けないでしょ」


「勝手過ぎます!!」


「言い訳になるけど星明くんのためにも二人を一度は引き離すべきだと思ったの」


 時間が解決してくれると思ったと静葉さんは言った。あの時はそれしか方法が思いつかなかったと私に話した。


「それは分かるけど、でもっ!!」


「情けない親で本当にごめんなさい。だから恋人が出来たって聞いて私は本当に安心したの……そして今も頼ろうとしてる」


「何となく分かりました、星明は静葉さんは良い人だって言ってたのに信用してない理由が……」


 星明は助けて欲しかったけど何も出来なかった静葉さんを最終的に信用してなかったんだと思う。でも頭が良いから事情も理解できた。だから余計に苦しんで辛かったんだ。


「でしょうね、私も他の大人と同じで星明くんを見捨てたようなものだから」


 その言葉で私も静葉さんも沈黙してしまった。誰も救われてないし怒りはぶつけられないしで最悪だ。そんなタイミングで二階から星明たちが降りて来た。



――――星明視点


「母さん、兄さんが帰るって言うから泊るように説得してよ、特別に天原さんも泊めてやるからさ」


「香紀、いい加減にしないか。ごめんね綺姫」


 二人は深刻な顔をしていたが何を話していたのだろう? それより今日は早く帰って夜は綺姫と仲良しして英気を養いたいと思っていたのだが……。


「本当に綺姫ちゃんが好きなのね……じゃあ今日の本題よ、二人には今からうちの病院に来てもらいます」


「いきなり何でですか?」


「それはもちろん、あなたの怪我の診断書を出すからよ。そこら辺の病院よりも設備はしっかりしてるし精密検査も受けて欲しいの」


 なるほど須佐井との対決に有利な証拠を少しでも多く用意するためか。綺姫が浮かない表情なのが気になったが俺は提案を受け綺姫も一緒に行く事になった。


「それで何で俺だけ留守番なんだよ母さん!!」


「来月まで病院は改装工事もしてるから原則関係者以外立ち入り禁止よ。それに例の道場に今日も行くんでしょ?」


 香紀は隣の市にある道場に通っているらしい。昔から喧嘩っ早くて心配していたが、その道場の人間に負けて以来お世話になっているそうだ。そんな香紀に今度はちゃんと連絡すると言って俺たちは病院へ向かった。



――――香紀視点


「行っちゃった……兄さん」


 俺がこの世の中で信用しているのは兄さんと母だけだ。それでも最初は兄さんの事も毛嫌いしていた。近所の連中やクラスの人間は母が財産狙いとか院長婦人の椅子を狙ってると言われ喧嘩ばかりしていた。そんな俺を遠目に見ていた兄さんもそんな風に俺を見ていると思ったからだ。


「だけど兄さんは違ったんだ」


 先ほどまで二人で掃除していた兄さんの部屋に入ると写真立ての中に小さい頃の自分と兄さんがいた。当時は父親が居ないと陰口を叩かれ母が再婚したら文句を言われる理不尽を味わって喧嘩をし、そんな俺は担任にまで帰りの会で吊るし上げられていた、そんな時だった。


『僕の弟が何かしましたか、先生?』


『葦原、い、いやこれは……だな』


『確か先生の妹さんは父の病院で準看護師をしてましたね?』


 下級生の教室に教頭を連れ殴りこんで来た兄さんは鋭く冷たい目付きで担任を黙らせ俺を守ってくれた。何より皆の前で弟だと言ってくれたのが嬉しくて、この日から俺は兄さんの弟になった。


『それは……くっ!? 今日の帰りの会はここまで日直!!』


 しかもその後に担任は教頭に説教され更に兄さんは病院に勤務している妹さんにも今日のことを話し担任の家族仲を盛大に乱すという仕返しまでした。だから俺は何で守ってくれたか不思議で尋ねていた。


『前に僕は大事な何かを守ったんだけど、忘れちゃって……だからかな』


『何を忘れちゃったの、にーさん?』


『分かんない……な』


 兄さんは苦しそうに笑った……何かを誤魔化すように。それを思い出していると写真立ての影に面白い物を見つけた。兄さんの昔のガラケーだ。気になった俺は中を見ようとしたが充電は切れていたから充電器を見つけて電源をオンにする。


「昔の兄さんだ……これは?」


 その中で秘密というフォルダを開くと二枚だけ画像ファイルが有った。サムネイルを見ると不鮮明だが二人の子供が写っている。


「兄さんと……もう一人、髪は短いけど頭に髪留めを付けてる、女子か?」


 もう一枚も兄さんと同じ女の子が写っているけど頭には髪留めではなく赤い何かに変わっていた。誰か分からないし次会った時に兄さんに聞こうと思って部屋を出る。


「でも画像の子どっかで見たような……う~ん」


 俺はそれだけ呟くと道場からのスマホの通知に気付き慌てて家を出た。

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