第96話 葦原家の過去 その2
「ふぅ、ごめんね、まだ話は途中なの」
「ですよね、まだ星明の話も出て来て無いですし」
そんな相槌を挟んで静葉さんは再び続きを話し始めた。その後も七海さんは多くの人達をまとめ事件を解決し同時に隠蔽したそうだ。県など自治体はおろか国すらも黙らせ介入させなかったらしい。
「でも
「分かりました!! 七海さんが助けてくれたんですね!!」
「半分は正解よ。でも彼女はそれほど甘くない、まず院長はクビにして七海さん達が秘密裏にどこかへ幽閉した……たぶん生きて無いと思うわ」
取引に直接関わっていた人間は全員が千堂グループにより日本から追放され公には行方不明扱いで『葦原中央病院』はその歴史に幕を閉じた。しかし裏で当時は大学病院に勤めて事件と全くの無関係だった星明のお父さんが『あしはら総合病院』の院長として就任していた。
◆
「す、凄い事件だったんですね……アタシに話して大丈夫ですか?」
「もちろん他人に話さないでね、でも星明くんの相手になるってのは、そういう噂や言われの無い誹謗中傷にも晒される可能性が有るわ」
だから全て知るべきだと、その判断材料を聞かせてくれてたらしい。そんなの聞かされても私は星明とは関係無いと思う。だけど静葉さんは最後まで聞いて欲しいと言って譲らなかった。
「星明は今までその秘密をずっと背負ってたんですか?」
「ええ、でも星明くんはその後の方が問題だったと思うの」
その後、千堂グループにより過去を消された新病院の信頼は徐々に回復して行った。何より新院長の尽力と人柄で病院は奇跡の復活を果たす。凄く過酷で血の滲むような努力と激務のおかげだったと静葉さんは語った。
「本当に頑張ったのよ……先輩は」
「先輩?」
「ええ、あの人は
その関係で当時シングルマザーだった静葉さんも雇ってもらったそうだ。だから小さい頃の星明とも何回か会っていて当時から顔馴染みだったらしい。
「そうだったんですか……あの、でもその時はまだ」
「ええ、星明くんの実のお母さんの
今度はそっちの話ねと言って話は星明の時代に移った。いよいよだと私は姿勢を正し静葉さんの話に耳を傾ける。
「あの人は病院を立て直すのに必死だった。私も秘書として見ていた。でも奥様いえ、
話によると星明のお父さんとお母さんはお見合い結婚だったそうだ。病院の改革を機に家を不在にするのが多くなった夫と家で子育て中心の妻、夫婦仲はそれなりに円満だった。
「でも
「そうなんですか……」
ただの不倫ならまだ良かったらしいが相手が星明のお父さんの部下で当時の外科部長。しかもその人は星明のお爺さん、つまり昔の院長派閥の人間だったらしく意見の合わない相手でもあった。
「それで後は不倫が判明し泥沼……しかもバレた原因は星明くんだった」
「どういうことですか?」
「星明くんの病気は知ってるわね?」
「はい……」
じゃあ発症した最初の原因を知ってるかと聞かれて私は詳しく聞いたことが無いと答えると静葉さんは一瞬ためらった後に口を開いた。
「星明くんが見ちゃったらしいの二人の行為と……不倫現場を……」
「えっ、それって星明がいくつの時ですか?」
「小学校の二年生くらいね……私がこの家に入る二年前だったから」
それだけでも大変なのに両親は星明そっちのけで家の中で罵り合って醜い喧嘩をし星明の心はズタズタにされた。しかも離婚が成立するまでの間、母と不倫相手の情事を何度か目撃し知らない内に病が進行し気付いた時には手遅れだった。
「私は仕方ないって言ったけど一時は私にも欲情しちゃって、だから私も助けてあげられなかった」
「そう、だったんですか……」
実家の病院の心理カウンセラーや専門の精神科医にも診せたらしいが原因は不明。分かったことは一定の年齢の女性に対し異様なまでに性的興奮を抑えきれない症状と狂暴になり暴力性が増すことだけだった。
「それに……もう一つ」
「まだ、何か有ったんですか?」
「ええ、その……星明くんと
「えっと、まあ確かに……」
思い出すとチェス対決してた二人はそこまで似てなかった。似てない親子も多いし男の子は母親似も多いからと言って静葉さんはスマホの画面を私に見せてくれた。
「これが
「星明に似てますね、あの、これが何か?」
「あの人は……建央さんは星明くんが自分の子じゃないと疑って無理やりDNA鑑定を強行したのよ」
その話は壮絶で絶句した。訳が分からない星明を押え付け無理やり髪の毛をむしり取り『これもお前のためだ』と言ったらしい。そんな状態に追い込まれた星明は抵抗したが逆に殴られ気絶させられ翌日に当時まだ秘書だった静葉さんが見つけるまで放置されていたらしい。
「えっ……そんなの虐待だよ、それじゃ!!」
「その通りよ。しかも結果は本当の親子で問題無し、分かった時に言ったのが『俺の本当の息子で良かったな追い出されずに』だったそうよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます