第105話 二度目の決戦 その3

――――綺姫視点


「そ、それは……」


「それを話す必要は無いだろ須佐井くん?」


 私が口ごもっていると星明が須佐井の話を遮るように口を挟んだ。静葉お義母様と須佐井母こと須佐井 波江なみえさんが言い合いをしてるからチャンスだと思ったのかもしれない。


「陰キャメガネが、ど~せ親が大した職じゃないから言いたくないんだろ!!」


「ああ、その通りだ……それに俺は父が大嫌いだからな」


「だったら大人しく話せ……え? そうなのか?」


 星明が本音を混ぜて話すと須佐井はポカーンとしていた。言い負かしたと思ったら逆に流されて星明の方が一枚も二枚も上手だ。


「そうだ、これで話したろ? それと俺の恋人の話は聞かせない。他人の君に話す必要が無いからね、だって俺の彼女の話なんだから」


 そう言うと星明は私を抱き寄せて見せつけるようにした。思わず私も顔がニヤけて抱き着く。さっきの昼の放送もラストは二人が抱き合って幸せなキスをして終了って王道な流れだったから、それを意識して照れちゃうよ。


「はっ? はぁっ!? アヤは俺の女になる予定だったんだ!!」


「いやよ!! あんたなんてお断り!! ね? 星明?」


 そこで校長や担任が親の方を止めに入っていて、私達の方は学年主任の大月が止めに入った。私どうも英語とか好きじゃないし、このおばさん恐いから苦手なんだよね……星明は平等で良い先生だとか言ってるけど私は無理。


「はぁ……皆さん!! 今日は話し合いの場であって喧嘩の場では有りません!!」


「依怙贔屓しやがって!! 葦原に幾ら金を積まれたんだ!!」


「そうですタカちゃんの言う通りよ!!」


 須佐井バカ親子は相変わらず叫んでいるし収拾がつかないとは言ったものだねと星明が苦笑してるけど、混乱させたのは星明も一緒な気がする。


「お静かに!!」


 学年主任が叫ぶ中で星明は口元だけ笑って私の耳元で言った。


「でも綺姫への注意はそれたでしょ?」


「そっか……アタシのために?」


 当たり前だよと言って手を握ってくれたのが嬉しくて握り返す。それだけで不安な気持ちはすぐに解消された。やっぱり星明は私を守ってくれる。だから私も守られてるばかりじゃダメだと気合を入れ直した。



――――星明視点


「大丈夫だよ綺姫、二人で乗り越えよう」


「うんっ!!」


 俺と綺姫は手を繋いだまま須佐井の方を見ると奴が叫びながら前回と同じように俺に向かって突っ込んで来た。


「ふざけんじゃねえぞ!! 挑発すんじゃねえカス共が!!」


 大人たちが虚を突かれたように固まる中で須佐井が迫る。本当に不意打ちが得意だと思って覚悟を決めた時と同時だった須佐井が投げ飛ばされたのは……。


「ぐべっ!? いへぇ……ごほっ、げほっ……」


「護衛対象に対し緊急避難の必要性を感じましたので介入しました」


「「え?」」


 俺と綺姫が同時に声を上げると屈強なガードマンの人、腕に秋山警備保障と腕章を付けている男性が言った。さっきまで俺達の後ろにいなかったか?


「ご苦労様、さすがねミスターK?」


「恐れ入ります、依頼人を守るのが私たちの仕事ですので当然です」


 ピクピクしてるけど意識はあるようで別のもう一人のガードマンが須佐井を素早く押え付けて動かないのを確認すると椅子に無理やり座らせていた。


「なっ、なんて野蛮なの!! タカちゃん大丈夫!?」


「いてぇよぉ、ママぁ……痛いよぉ~」


 須佐井母に抱き着いて目に涙を浮かべる須佐井は最高にダサかった。殴り掛かって返り討ちにあった上に最終的に自分が倒れているのだから情けさも倍増だ。


「はっ、殴り掛かっておきながら痛みを知らないなんて……情けない男ね」


 そこで吐き捨てるように言ったのは竹之内先生だった。今の須佐井を見て何か思う所でも有ったのだろうか?


「先生方、今のは暴力です!! 学内でこれは責任もん――――「失礼します!! ただ今、須佐井さんのお父様が来られました」


 若い男性教諭がノックしたのに返事が無いからと叫んで入って来た。その後ろに大柄の男性がいた。今、須座井を投げ飛ばしたミスターKというガードマンよりも身長は少し大きく見える。


「失礼……はぁ、これはどういう事態ですかな?」


「あなた!! 今タカちゃんが暴力を――――「静かにしてくれ波江……今着いたばかりなのだから……はぁ」


 何か溜息ばっか付いてて、うだつの上がらない感じという言葉がピッタリ当てはまる男性というのが須佐井の父親への第一印象だった。


「それで、そのぉ……息子が何をしたのでしょうか?」


「それは今から説明しますわ、どうも須佐井社長?」


 そう言って静葉さんが一歩前に出た。その口元は薄く笑みを浮かべているが、どうしたのだろうか?


「えっ!? な、何であなたが……ま、まさか……息子が手を出したのは?」


「ええ、うちの子にですわ、社長?」


 そう言った瞬間、同時に三つの動きが起こった。いきなり須佐井の父が静葉さんに向かって走り込もうとして、それに対応しガードマンが動く、しかし静葉さんがそれを手で制した。この間わずか数秒の出来事だ。


「まっことに申し訳ございませんでしたああああああああ!!」


 そして須佐井父は静葉さんに、いや静葉さんの足元に向かって走り込むと凄まじい早さで土下座し、その場の一同が固まった。

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