十三章「嘘で積み上げた二人の関係」

第121話 綺姫の決意 その3


「この人は二人の仕込みですか?」


「ええ、でも本人がやりたがって……問題が無ければ出て来ない予定だったの」


 その言葉に星明がお姉さんの方を見るとウインクして竹之内先生は溜息を付いていた。だけど私は別に気になっていた事が有った。


「お姉さんって子持ちなんですか!?」


「え? ああ、いい子ね~、こう見えて12歳と10歳の子供いるわよ?」


 子持ちのお母さん、しかも二人も居るのは驚いた。かなり若いっていうか……そっか、つまりこの人がアレだ!!


「この人ってヤンママだよ星明!! アタシ始めて見た!!」


「あぁん? ヤンママって――――「し、失礼しました、綺姫いきなり失礼だよ」


 あれ? ヤンママって失礼な言葉かな、元ヤンキーで今はお母さんだと思ってたけど……あれ? もしかして元ヤンキーじゃないから怒ってるのかな?


「まあ失礼なのは愛莉姐さんも一緒ですけどね」


「霧華も相変わらずね、そんなんじゃ彼氏できないでしょ」


「私は周りが早過ぎるだけです」


 なんか二人は知り合いっぽいし何なら静葉さんも知り合いみたいな気がする。一体この人は誰なんだろ?


「とにかく秋津さん……今回助かりました」


「気にしないで下さい……それに弟子の家族のピンチなら助け合いでしょ?」


 弟子の家族って何だろ? でも静葉さんとは何か繋がってそうで星明を見ると小声で「まさか例のか?」と呟いているから心当たり有るのかも。


「ですけど我が家は……」


「過去は過去よ静葉さん、アキさんと梨香さんは感謝してるくらいだし」


「そう言ってくれると私も、あの人も少しだけ肩の荷が下りるわ」


 何のことかなと思っていると星明が暗い表情をしている。何か心当たりが有るのだろうけど……話に出たアキさんとか梨香さんって人も知り合いなのかな……ってまた女の影が!?



――――星明視点


「では改めて紹介してもらえますか静葉さん?」


「ええ、彼女は――――「私は秋津 愛莉、あんたの弟の師匠さ葦原 星明くん」


 やはりそういうことか。前回、実家に帰った時に空見澤にある道場に通っていると香紀から話を聞いていたが、この人が師匠なのか。女性だとは思わなかった。


「あなたが……香紀がいつもお世話になっています」


「ヨシと違って礼儀正しいじゃない、さっすが自慢のお兄ちゃんね」


 前回会った時にも香紀は凄い人と会ったと俺に話してくれた。昔から喧嘩っ早くて心配していたが最近は武道で発散しているなら俺よりは健康的だ。


「恐縮です……でも驚きました。この店は二度目ですが、まさか弟もお世話になっていたなんて」


「二度目? 私が居ない時?」


 そこで綺姫も頭にハテナマークを浮かべているから前に工藤警視に連れて来てもらった事や、ここで警視の義理の姉に会った話もした。だが話していくと徐々に静葉さんの表情が険しいものに変わった。


「待って星明くん、あなた冴木……じゃなくて工藤梨香さんにも会ったの?」


「工藤警視から紹介されましたが?」


 それだけ言うと暗い表情になった原因は恐らく実家関係だ。俺が工藤警視と会ってすぐに俺の実家の件をチラつかせて来たし間違いない。だが俺には警視との話で庇ってくれた人が悪い人間だとは思えなかった。


「静葉さん、この子達はどこまで?」


「香紀と違って裏もほとんど話してる。でも当時の人間関係は知らないと……さっきまではそう思ってました」


 竹之内先生の言葉を受けて静葉さんが答えるが、いつものように明朗な答えではなく歯切れが悪い。やはり警視の義理の姉と何か有ったのだろう。


「白状すると十年ちょっと前にあった事件の関係者なのよ私ら全員ね」


「それって例のですか?」


 俺が小学校低学年の時に有った事件だが当時を俺はほとんど覚えていない。香紀が家に来た頃に再び父に当時のあらましを聞いて家を出る直前にも静葉さんと話したのが最後だ。


「そう『S市動乱』いんや空見澤市動乱事件が正式名」


「愛莉姐さん、それ出しちゃダメって決まりですよ?」


 S市とは、ここ空見澤市のことだったのか確かに変な隠語ではなく普通に存在をイニシャルだけで表すなら関係者にも分かりやすい。


「関係者しか居ないし問題無いでしょ?」


「……待って下さい、何で綺姫が知ってるんですか!?」


「え? 静葉さんに聞いたよ?」


 その言葉に俺は激しく動揺した。俺の実家の因縁に綺姫を巻き込むなんて論外だ。静葉さんも何で勝手にそんな話をしたんだと俺は思わず彼女を睨んでいた。




「静葉さん!!」


「星明くんには後でと思ってたのよ、この問題が片付いてから……」


「綺姫を巻き込むなんて絶対にダメだ!!」


 この件に関係無い綺姫を巻き込むことは出来ない。俺の家の問題で大事な綺姫を振り回すなんて間違っている。


「何で?」


「それは綺姫が巻き込まれるのを防ぐためで分かるだろ?」


「う~ん、だから何で?」


 不思議そうな表情の綺姫が理解できない。いつもと違って俺の言葉に「なんで?」を繰り返すだけで少し苛立った。だから次の言葉で更に驚かされる。


「だってアタシの問題でも有るよね?」

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