第122話 噓から出たまこと?


 綺姫の言っている言葉の意味が理解できない。これは俺の家の問題であって綺姫は関係無いし今までのような問題とは違う。


「いや、だから――――「アタシ、静葉さん、いえ、お義母様公認の恋人だよ」


「は?」


「恋人の実家のこと知ってるの、大事」


 確かにそうだが……それは周りの人間や学校側を納得させるためで綺姫を守るための手段の一つだった。これしか綺姫を守る方法が無くて嘘を塗り固めて周りを欺くしか無かった。綺姫だって分かっているはずだと……そう思っていた。


「いや、それは!!」


「今日の話し合いも葦原家側で出席してるし、学校の皆は先生もアタシ達のことは親公認の恋人扱い。さて星明に問題です、星明のお家の問題は恋人のアタシの問題、何か間違ってる?」


「いやそれは、あくまで、この処置は……綺姫も知ってるだろ?」


「う~ん……じゃあ星明これ見て」


 そう言って綺姫は先ほどの示談の和解調書の写しを取り出した。それは昨日も見たと思って改めて署名欄を確認したら昨日は無かったものが追加されていた。


「こ、婚約者!? 天原 綺姫!!」


「はい、婚約者で~す、つまり家族!!」


「なっ……綺姫、それは」


「お義母様の許可は取ったし、よってアタシの問題、OK?」


 静葉さんを見ると涼しい顔して書類の通りと言った。そう言えば父を黙らせたと言ってたのはそういう意味か。心なしか父の署名も震えて書かれた筆跡に見えなくもない。


「だ、だけど……」


「アタシが婚約者じゃ嫌?」


「いや喜んで!! 俺が全力で君を……はっ!?」


「じゃあ問題無し、皆さん解決で~す!!」


 俺は心の整理がつかないまま気付けば話がとんとん拍子に進んで、いつの間にか恋人から婚約者になっていた綺姫の強い要望で夕方から開催される空見澤商店街の祭に行く事になっていた。




「と、言う事が有ったんだ香紀」


「それで良いのか兄さん……って良さそうだね」


 そして現在に戻る。俺は浴衣に着替えた綺姫と更に静葉さんと香紀の四人と再び空見澤市に向かっていた。その車内で今日のことを振り返っていた。


「そ、そんなこと無い……それより綺姫、結納はいつに?」


「そんな~気が早いよ~、で? 結納って何するの?」


 隣の席で初めての浴衣に緊張しているようで握った手は少し汗ばんでいる。軽く化粧をしているのも有って美しさにも磨きがかかっていて是非とも額に入れ俺だけのものにしたいくらいだ。


「にっ、兄さん……もう良いか、それより師匠と会わなかった?」


「秋津愛莉さんとは会ったが」


「いや、愛莉姐さんは師匠の奥さんだから」


 つまり香紀がお世話になった人は別か、弟子と言ってたから愛莉さんが師匠だと思い込んでいた。だが香紀の話では愛莉さんが師範をしている道場だから師匠というのは間違って無いらしい。


「香紀が言ってるのは勇輝さんの方ね」


「師匠は昼は出ないこと多いんだ、夜のバーがメインだし」


 どうやら例の喫茶店「しゃいにんぐ」は夜になるとバー「SHINING」という店になるそうだ。


「もしかして俺が前に行った時に見た大柄の男性か?」


「たぶん、その人だ兄さん」


 俺でも分かるくらい凄まじい気配をしていた。あの日は工藤警視のお姉さんとの話や須佐井が犯人の下着泥棒事件の話で忘れていた。そして今日の祭にも来るらしい。


「でも香紀が、お世話になったって聞いた時は眩暈がしたわ」


「何でだよ母さん、師匠も愛莉さんも良い人だ!!」


 助手席の香紀が言うのも分かる気がする。あの後も何だかんだで二時間ほど雑談をしていた時に感じたのは口調は乱暴だったが面倒見が良い女性だと思わされた。


「違うのよ……あの人達は善人よ、むしろ……私達が」


 いきどおる香紀に言い辛そうな静葉さんの構図にどうするかと思っていたら俺より先に動いたのは綺姫だった。


「そうだね、アタシも愛莉さんに助けられてね、向こうのお母さんにバカにされたアタシを庇ってくれたんだ~」


 呑気な声で綺姫は言うが目配せされ俺は無言で頷いた。下手に俺や静葉さんが言うより今の空気を変えてくれそうな気がする。こういう時の綺姫は空気を読み、そして空気を変えてくれることが多々あって実際すぐに効果は現れた。


「愛莉姐さんは弱きを助け悪は潰すっていう師匠と同じ格言を守ってるから、それより今の母さんの――――」


「お昼もご馳走になったけど、どの料理も美味しかったよ~!!」


「当然です!! 天原さんも家の人間になるなら知っておくべきです」


「やっと香紀くんも認めたね? アタシが婚約者だと!!」


 うん、サラッと外堀を埋めているだけのような気がしないでも無いけど綺姫は俺の家いや家族のことを考えて動いてくれているだけだ……そうに違いない。


「なっ!? 違いますから!!」


「大好きなお兄ちゃん取ってごめんね~」


「に、兄さ~ん!!」


 そう言って泣き付いてくる弟に苦笑しながら静葉さんが胸を撫で下ろしているのを見て例の事件について近い内に聞き出そうと心に決めた。だが俺の今の考えは合流場所に到着すると同時に完全に頭の中からすっ飛んでしまった。




「は、初めましてお兄さま!!」


「ど~も、こう君の兄貴ってあんた?」


 合流場所に到着し静葉さんが車を置きに行ったから駅前で待っていた俺達だが突然、小学生くらいの浴衣の少女二人に声をかけられたのだ。俺の人生でこんな小さい子に声をかけられるのは初だった。


「まさか小さい子からも、モテ期が来てるの星明~!!」

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