第43話 イメチェンは大事 その1


 あの後、制服を合わせてみれば海上は背が合わないからと変更し綺姫は胸が少しキツイと言ったが第一ボタンを外せば大丈夫と言って解決した。


「あとは身だしなみの問題か……はぁ」


「え? アタシ何かダメなの星明?」


「マニュアルに目を通したけど髪の長さが俺と綺姫は引っかかってる」


 ご存知、俺は前髪を伸ばしメガネで隠している通常モードだ。一応は髪型を夜の街モードにするのも可能だが前髪が長いのは変わらないし清潔には見えないから飲食業のバイトとしてはアウトだから切るしかない。


「そっかぁ、アタシも髪の毛ここまで伸びちゃったし……仕方ないか」


 そして綺姫も背中の中ほどまでかかるロングで毛先は腰まで届いてポニーテールにしてもアウトだろう。


「そうだな、じゃあ美容室に行くしか……」

「仕方ないハサミで自分で切ろうっと!!」


 この髪型は実は夜の街の美容室でお願いしていた陰キャ用カットで、こんな髪型でもキチンと金を払って整えていた。だがそれより驚いたのは綺姫の発言だった。


「「え?」」


 思わず綺姫と驚いて互いに顔を見合わせたが俺以上に驚いていたのが他の四人、特に女子二名だった。


「ちょっ!? アヤ何言ってんの美容室行こう、ホテルに有ったでしょ!!」


「だ、だってぇ、美容室って高いし……今まで自分で切ってたから得意だし!!」


 浅間の叫びと綺姫の言葉で思い出した。そうだった綺姫は徹底的に節約して髪を伸ばしてたんだ。そして俺は海上に睨まれた。彼女に言うのをすっかり忘れていた。


「これは、オシオキが必要ね二人とも? じゃあミカ兄!!」


「なんだ?」


「そっちはお願い、ウチはアヤを何とかするから」


「で、でもアタシ――――「海上、金に糸目はつけないでいい!! これを!!」


 そう言って俺は海上に財布を投げた。海上は一瞬驚いた後にニヤリと笑って口パクで『上出来』と言っていた。


「わ~お豪快、いいの?」


「ちょっ!? 星明ダメだよ!!」


「問題無い……恋人なら、当然だ頼む二人とも!!」


 綺姫が綺麗になるなら俺も嬉しいし何より前から自分の髪をなんとかしたいと言ってたから今回はいい機会だと思う。


「へ~、言うじゃん葦原のくせに……じゃあアヤ行くよ!!」


「咲夜、逃がさないでね、じゃあ葦原あんたもサッパリして来な!!」


 そう言うと海上も綺姫を抑え込むと二人に拘束され俺の仮初のカノジョは引きずられて行った。


「でも星明またアタシ……って二人とも!! は~な~し~て~!!」


 そして綺姫を見送ると今度は俺の番だ。瑞景さんに連れられ車で少し離れた美容室へと連れて行かれることになった。


「君は君で少しは前を見なきゃ、視界が開かれれば変わるかもしれないよ」


「分かりましたよ、お願いします」



――――綺姫視点


「アタマ軽くなったぁ……だけど大丈夫かな」


「凄くお似合いですよ~」


 そう言ってニッコリ笑って鏡越しに話しかけてくるのは私の髪を切った美容師さんだ。だいたい六年振りくらいに整えられた髪はなぜか集められた上で買い取りを迫られていた。


「えっ、髪の毛って売れるんですか!?」


「はい、ウィッグ用なんかに買取はしてますよ、それに最近は医療用なんかも有るんです、こちらご覧下さい」


 なんか値段表とか見せられたんですけど、どうすれば良いのかと振り返ると付き添いの二人がすぐにやって来て言った。


「売っちゃえば?」


「良いんじゃない? そもそも有って無いような値段だし」


「いえいえ私この業界は長いので、それにネットを調べれば相場も分かりますし何よりお客様の髪は品質も良いので少し色付けますから」


 結局、私の髪は千円札が四枚分になっていた。だからその分の料金を引いて支払いをしてもらおうとしたらタマが既に支払いを終わらせていた。星明の財布でだ。


「いや~、アイツ持ってるわね、しかもカードも有るし」


「ダメだよ星明のだから!! さっきのだって四千円引きに出来たのに!!」


 店を出て私はすぐに星明のお財布を取り返して盗られないようにバッグに入れると二人を睨む。これは星明が頑張って稼いだお金で安易に使ってはいけないから私が守らないとダメだ。


「んなケチらなくても余裕っしょ葦原ならさ」


「そうそ、あいつ金持ちだし」


 タマも咲夜もお気楽な調子で言うけど星明のお金は簡単に使っていいものじゃない大事なもので二人に任せておくわけにはいかない。


「星明は大変なんだよ、実家から独立するために頑張ってたのにアタシなんかを助けたせいで……」


 星明は余裕のある時はエッチの後も起きていて、その時はガードが凄い弱いから私は色々と話を聞いていた。星明の腕枕に頭を乗せて向かい合うと私達は互いのことを素直に話すことが出来た。


「てかアヤって何気に金持ちの息子落とすの上手いよね」


「え? ああ、須佐井も社長さんの子供だね……小さい頃に近寄るなって向こうのお父さんにも言われたんだ」


「でも須佐井の方から近寄って来たんでしょ?」


 ちなみに私達の中で尊男は須佐井呼びに変わっていた。タマ達に強制したわけじゃないけど二人も新学期からは距離を置くらしい。その事実に私は何の感情も湧いてこなかった。

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