第44話 イメチェンは大事 その2


「うん、小さい頃はアタシが声かけて一緒に遊んでたんだけど引っ越して再会してから逆に積極的になってて驚いたなぁ……」


 昔は物静かで乱暴じゃなかった。優しくて言葉遣いも丁寧で、まるで別人だった気が……そう考えた時に一瞬ズキンと頭が痛んだ。


「どしたアヤ?」


「……ううん、何でもない」


 タマが私を見て不思議そうな顔をしたけど大丈夫と言って平気な顔をしてやり過ごす。ここでバイトが中止になったら大変だとを考えていると横の咲夜が口を開いた。


「てか聞いたこと無かったけどアヤが引っ越して来たのっていつ?」


「えっと、たぶん小三くらいだから七年前くらいかな」


 私の言葉に咲夜がまたしても一瞬黙って何かを思い出した後に小声で「違うか」と呟いた。そして今の言葉を補足するように話し出した。


「七年前か……いやさ八年前だとあの大事件が原因で引っ越しも多くて、それ関係かと思ってさ」


「え? 大事件?」


「咲夜それ関係無いっしょ、だってアヤのお父さんの借金が原因だし、だよね?」


「えっ? うん……父さんがね、えっと……別な話題にしよっか」


 借金の話題は萎えるから三人で別な話題を探す。その後は二人も気をつかってくれてホテル内の施設を見たり、みやげもの屋を冷やかしている間に時間になって三人でバイト先に戻った。



――――星明視点


「遅れました~って……あれ?」


「っ!? 天使だ……」


 思わず呟くほど綺姫は美しかった。ドアを開けて背中に太陽光を背負い後光が差しているように見える。その姿は正しく天使、頭のカチューシャが赤く光を反射してなかったら気付けないほど彼女は変わっていた。


「へ?」


「葦原!! もっと具体的に言いなっ!?」


 海上が鋭い視線で俺に投げかけた言葉で我に返る。見惚れている場合ではない。千の態度より一の言葉だと海上に言われたのを思い出す。つまり言葉にして褒めろというのが彼女の信条らしい。


「ああ、綺姫その……サッパリした、ね」


「え? ああっ!? そ、そうでしょ!?」


 すると浅間も店に入って来て俺を怒鳴った。後ろで八上さんは耳を塞いでいて浅間の動きを見極めて対策していた。さすがは長い付き合いだと感心する。


「ち~が~う~だ~ろ~!! この陰キャアアアアアア!!」


 耳がキーンとして店内の全員が耳を塞いだが浅間は止まらず俺の方を見て言う。


「アヤは七年ぶりなのよ、この髪型、何か言うことないの!!」


「いや、すごい似合ってるし……前の髪型もきれいだったけど、今回のも可愛いと思う、それに……」


「それに、な~に星明?」


「い、いや何でもないよ、とにかく似合ってるし、お、俺は好きだよ」


 一瞬なぜか懐かしさを感じた。綺姫の短くなった髪型なんて見るのは初めてのはずなのに彼女の短くなったセミロング姿にどこか懐かしさを覚えたのが不思議で仕方なかった。


「まあまあ、葦原くんも頑張ったし浅間ちゃんもそれくらいでね?」


「まあ瑞景さんが言うなら、それと後ろの陰キャその2はいつまで耳塞いでんのよ」


 今度は浅間のターゲットは後ろの八上さんに変わったようで応酬が始まる。今回は朝のように一方的ではなく八上さんもキレたようで言い返していた。


「お前のキーキー声が収まるまでだ、ギャルビッチが」


「はぁっ!? 陰キャが生意気言うなし!!」


 そして二人の言い合いが始まり海上と瑞景さんが止めようとしていると綺姫が俺の隣に立ってバックを漁って何かを取り出すと俺に渡して来た。


「ね、ねえ星明これお財布!! アタシ、ちゃんと守ったよ!!」


「そっか、ありがと……綺姫、改めてなんて言ったらいいか分からないけど、凄く可愛いと、俺は……思う、よっ……」


「うん、ありがと、あと星明もカッコよくなったよ、やっぱり顔は出した方がいいと思うんだ~」


 瑞景さんが視線が開けると言ってたのは本当で前髪はバッサリ切った。伊達メガネも外して夜の街に行く状態になっている。本来の俺の状態がこれだ。でも今は衝動がそれほど大きくない。


「そっか、綺姫の言う通りかも……」


「あ、別に星明が嫌ならアタシは無理には」


 綺姫が押し付けるわけじゃないと慌てて言うが俺は決意を固めた。問題は無い、好きな子が望んでくれるのなら俺は全く構わないと思ったからだ。


「綺姫が望んでくれるなら、変わりたい君と一緒に」


「星明……うん、二人で変わろっ!! 変わって行こう!!」


 手を握られて俺も思わず握り返すと綺姫は笑顔を向けてきた。その笑顔は眩しくて陰キャな俺には強過ぎる光だけど俺は逃げないで受け止めるように彼女を見つめる。


「変われるように頑張るさ」(綺姫の隣にいられるように変わってみせる)


「うん!!」(変わらなくても一緒にいられるだけでいいんだけどね)


 店内は未だ他の四人が騒いでうるさいが俺たちは互いに見つめ合って気付けば辺りは薄暗くなっていた。そして綺姫の提案で厨房を使って夕食会となった。




「や、やっぱり夜の森は怖いよ~、星明」


「そうだね、瑞景さん達は大丈夫ですか?」


 俺は左手を綺姫と繋ぎ右手には懐中電灯というスタイルで夜のホテルの見回りをしていた。他の四人も今日は一緒で次回から二人一組の交代制でやることになっているから今日は下見のようなものだ。


「ああ大丈夫、後ろの二人も問題無いよ」


「アヤ!! ちゃんと葦原にくっ付いてるのよ」


 海上の声が後ろから響くが夜の森に声が吸い込まれて行くようだった。少し不気味な光景だが綺姫の学費のためには頑張らなくてはならない。そう思って俺は夜の森へと足を進めた。

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