第十六章「巻き込まれる二人の関係」

第151話 動き出す者達と祭の始まり その2

――――星明視点


 例の照陽の死亡の知らせから一週間が経過していた。あれから俺達は何かを考えるのを放棄し文化祭の準備に没頭した。そして気付けば本番を明日に控え前日の今日、実行委員会で最後の確認と決起式をしている。


「では最後に実行委員長の星明から一言!!」


「ありがとう綺姫、そして皆も今日までありがとう……こういう人をまとめる仕事に慣れてなくて迷惑をかけたと思う」


「そんなことないよ~!! カッコよかっ――――「アヤ、進まないから静かにしな」


 綺姫が浅間に口を抑えられモゴモゴしているが俺は苦笑して話を続ける。色々なハプニングも有ったが最終的にはステージの調整も含め問題は解決した。


「俺が今回この大役を頑張れたのは皆の助けが有ったからだ……だから改めて皆に感謝を……ありがとう、明日から三日間、みんなで祭を盛り上げよう!!」


 何とか思っていることを言い切ると一瞬の沈黙の後に控え目な拍手が響いた。だが浅間を振りほどいて綺姫が特大の拍手をし出すと皆も続く。やはり最後は綺姫に助けてもらわなきゃダメだな俺は……。


「じゃあ皆、ア・タ・シの星明が今日まですっごおおおおく頑張ったから!!明日からの本番も引き続き皆で頑張ってこ~!!」


 やたら最後は俺を褒めてくれた綺姫と目が合うと頷き合って本番前の最後の実行委員会は終わった。後は本番を待つだけだ。


「アヤ先輩、独占欲ヤバすぎなんだけど……」

「あれって女子全員に牽制して来たよね?」

「葦原先輩に手を出そうとした一年クビになったらしいし」


 なお俺と綺姫が帰った後に二年女子を中心にこんな会話が有ったそうだ。とにかく、こうして俺の最後にして唯一思い出に残る文化祭は幕を開ける事になる。その裏で何が起きるかも知らず始まったのだった。



――――???視点


「なるほど、報告は以上か?」


「はい、どうやら因縁から私達はまだまだ逃れられないようです」


「具体的には?」


 俺は執務室で秘書の言葉を聞いて溜息を付いた。以前、日本で感じた嫌な予感は最悪な形で当たってしまったらしい。そして今日、島に連れて来られた人間を俺の義理の姉が見覚えが有ると調べたらビンゴだった。


「千堂の上層部がキナ臭い動きをしています。何か隠し事が有るかと」


「七海会長は味方なら良いが基本は信用出来ないからな、じゃあ信矢さんは?」


 例の事件の後から千堂の動きは怪しかった。だから俺は千堂の内部に居ながら八年前から世話になりっぱなしの兄のような人物の名を出す。


「春日井さんは既に事態を重く見て日本行きの準備をされてます」


「分かった……さすがだ。じゃあモニカを呼んでくれ」


 そして呼び出して数分後には妻のモニカが執務室にやって来ると現状で分かっている話を全て話した。話を進めると顔色がドンドン悪くなって行くと最後は叫んだ。


「では二人のどちらかが『Ⅰ因子』持ちだと言うのですかっ!?」


「ああ、これから信矢さんが現地入りして調べ――――「私も参ります!!」


 やはりかと思って俺は秘書の那結果なゆかを見て頷くと改めてモニカに向かって言った。


「ダメだ、今の俺達は迂闊に日本と行き来は出来ない。報告を待つんだモニカ」


「それは分かってますが……ですが二人がこのままでは……」


 本音はそれか、二人に学費の援助をしてまで世話したから当然か。だが珍しいなモニカが家族以外の人間にここまで反応し干渉するのは驚きだ。昔のこいつからは考えられない。


「今は国を守る事が第一だ、それに民主派の動きも怪しい現状では迂闊に動けん」


「変わりましたね……私達は……助けられる者にすら手を延ばせないなんて……」


 悔しいが今の俺は安易に動ける立場では無い。資料の二人の男女の情報を改めて確認すると八年前に罹患の可能性が大……。やはり彼らの記憶の齟齬が生じている原因は俺と奴との戦いの余波が原因と見て間違いない。


「ああ、大人になったんだよ……だが証拠を押さえたら俺が直接動く大人としてな?関係各所に通達、あと親父の会社に入り込んでるスパイも暴き出せ!!」


「既に夕子母さんが内偵を進めてます、正式に空見澤に使いを出しますか?」


「ああ、頼む那結果……千堂には救世主が動くと伝えて情報を小出しにしろ、これで少しは時間稼ぎが出来るはずだ」


「かしこまりました、区長」


 同盟を信じてはいたんだ七海会長。だが、あれを利用する気なら俺が全力で止める。それに俺には動く動機がもう一つ有る。


「良いのですか……あなたの名前を出す事と同義ですよ?」


「構わないさモニカ……嫁がこんだけ不安そうな顔してんだ、夫が顔を出さない訳には行かないだろ? それこそ元勇者の名が廃るさ」


 そう言うとモニカと那結果がポカンとした後に笑っていた。そう、俺の大事な人たちが笑っていられる場所を守るためなら一度だけ顔を合わせた人間でも救う。それが俺のやり方だ。


「それに母さんと息子の恩人だ……なら二人は必ず助ける!! 那結果は島内の情報封鎖を徹底しろ、モニカは本国に出張してる皆にすぐに連絡を!!」


 ――――こうしてこの日、ついに役者は全て舞台に出揃った。八年の間、裏で暗躍していた彼らが遂に表舞台に出る契機となった。そして須佐井照陽の処理を誤ったと千堂グループ側が知るのは、このすぐ後の事だった。

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