第39話 失敗 その1
あれから何時間経ったか分からないがカーテンの隙間から光が入っているから朝なのは分かった。場所はソファーからベッドに移っていて綺姫も俺も荒い呼吸で抱き合っている。
「はぁ、はぁ……」
「ね? 星明もう……大丈夫?」
覆いかぶさっていた俺と目が合うと綺姫は微笑んで俺を見ながら呟いた。汗でべっとりと髪も張り付いていて互いに汗まみれなのに今さら気が付いた。
「あや……き?」
「もうイライラは無くなった? アタシ役に立てた?」
よく見たらその目は少し涙で濡れ声も震えていた。何度も彼女を抱いたが記憶は曖昧で最初の一回以降は欲望のままに動いていた気がする。
「お、俺は……俺は」
「何か、嫌なこと……有ったんだよね? もしかしてアタシ何かした?」
「違うっ!! 綺姫は何も悪くない!!」
悪いのは須佐井いや違う、俺だ、俺が悪いんだ。綺姫を騙していたあいつを許せなくて、だから俺は……でも俺が傷付けて、俺は何をしているんだ。
「そっか、良かった……星明、アタシさすがに徹夜キツいから寝ていい?」
「ああ……おやすみ綺姫」
そのまま数分後には寝息を立てているのを確認すると俺は横で眠るわけにも行かずシャワーを浴びた。冷水を頭にぶっかけると冷静になる。まさか綺姫のことを守ろうと考えたその日に独占欲が暴走するなんて……最低だ。
「取り合えず綺姫が起きたら謝ろう……それで、その後は……」
独り言を呟いて浴室から出るとスマホに通知が二つ有った。一つはジローさんでもう一つは海上だった。綺姫じゃなくて俺に連絡するなんて何か特別な事が有るのか。俺はSIGNですぐに海上に連絡を入れた。
◆
「お前が金を盛大に使ったって話したらナナがテコ入れするって言ってたぜ?」
「えっ!? 七瀬さんが……言っちゃったんすかジローさん」
俺は午前中は閑散としている夜の街のジローさんの店に三週間振りくらいに来ていた。俺も健全になった、これも全て綺姫のお陰だと思うと余計に心が痛む。
「まあ、その関係で来週から少しの間ここを離れるから言っておきたかった」
「七瀬さんの関係で? 迎えに行くって意味じゃないですよね?」
ちなみに先ほどから名前が出ている七瀬さんとは
「いや迎えに行って一仕事してもらって……あとは視察の運転手兼護衛だ」
「七瀬さんが見るとこなんて有るんですか? 今の日本なんかで」
「向こうじゃ息が詰まるから遊びたいらしい」
おかしい……アメリカの方が自由の国なんじゃないのだろうか。それに日本で遊ぶってのも変な話だ。遊ぶなら向こうの方が良いだろうし七瀬さん的にも合っていると思うんだけどな。
「分かりました、よろしくお伝え下さい……」
「分かったよ、そうそう菊理やサキも寂しがってたぜ?」
「クー姉さんと橘姉さんが……そうですか」
二人にも色々お世話になったから挨拶くらいはすべきなんだろうけど綺姫の顔がちらついて二の足を踏んでしまう。
「言っておいてなんだが気にすんな、二人とも元気だからよ」
「はい……では失礼します」
そのままスマホを見るが綺姫から通知が一件入ってたから確認すると起きて俺が居なかったから心配して連絡をくれたようだ。すぐに返信し既読が付いたのを確認すると次の目的地へ向かった。
◆
「待たせたか?」
以前、工藤警視に連れて来られた喫茶店に入って待ち合わせ相手への第一声がこれだった。
「いんや、今来たとこ……ってアヤにも言ってやんなよデートの時くらい」
「綺姫とは家から常に一緒だから言う機会が無いんだよ……海上」
本日二人目の密談相手は海上だった。本当は浅間も一緒に連れてくるという話だったのだが直前で用事が入ったようで彼女が一人だけになったと事前に連絡は受けていたが少し緊張する。
「言ってくれるじゃん、やっぱりアヤのこと大好きなんだ」
「大事な存在だ」
「偽物の恋人なのに~?」
これが海上の本性なのか、無駄に俺を煽っているような感じがする。俺を挑発して何かを見たいのだろうか、しかしそれは変だ。彼女らは俺と綺姫の本当の関係を知っている。今言ったように偽の恋人を演じているのを指摘したのが証拠だ。
「そんな話がしたかったのか海上?」
「まあ、半分は……残り半分はアヤのお金の話……今、咲夜が問い合わせしてるけど割りの良いバイトが有るの、これ見て」
そう言うと海上は数ページのカラー印刷のされたパンフレットを俺の方に差し出した。それを受け取り俺は内容に目を通して行く。
「昼は海の家、夜はペンション……要はリゾート地のバイトか」
「住み込みでキッカリ三週間で夏休み前日まで働けば余裕で学費に手が届く計算」
「確かに高校生のバイトにしては高額だが計算しても学費の半分にもならないが?」
どうやら日給で計算されているようで俺も頭の中で計算するが今の海上の答えは明らかに間違っていた。
「そりゃアヤ一人分じゃ足りないでしょ、でもウチら四人分ならどう?」
「いや、俺の分は全額渡すが――――「ウチらだってアヤの友達なんですけど? 横から出て来てアヤかっさらった男に簡単に任せられないし」
海上は俺を睨みつけて言った。
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