第40話 失敗 その2


「お、俺だって……」


「何か言うことが有るん? 陰キャくん?」


「綺姫のことがっ、大事なのはっ……俺の方がっ、上だ!!」


 静かな店内に俺の声が響いて店主が厳めしい顔で睨まれ俺は全力で頭を下げた。最近こんなのばっかだと思いながら二人で店を出て場所を変えることになった。


「ここなら大丈夫っしょ、それよりさっきの話の続きとか良い?」


 俺が案内されたのは近くの路地裏だった。おあつらえ向きにダンボール箱が二つ有るから椅子代わりにして二人して座ると先ほどのパンフを再度見せられる。


「問題無い……だが」


「さっきも言ったけどウチも咲夜もあの子の親友だと思ってるから」


「それは聞いた……俺も大事な存在だ」


 ここまで来たら隠す必要も無さそうだが俺は次にどう動くべきか考える。そして俺が躊躇している間に先に動いたのは海上だった。


「ああ、だからウチらは仲間になれるし協力できる、違う?」


「それが……綺姫のためなら異論は無い」


 その答えなら問題無いねと言って笑う海上に少しドキッとした。そういえば綺姫との行為後だから衝動が抑え込まれドキドキする程度に抑えられているような気がする。


「んで肝心のバイトの話なんだけど……」


 海上の話によると、このバイトは浅間の紹介で枠が埋まってないかを聞いている最中らしい。その返事はあと少しで来るから待って欲しいそうだ。だから手持ち無沙汰になった俺は口を開いた。




「その、海上……俺には友人が居なくて何と言ったら分からないが……とにかく話を聞いてくれないか」


「相談ってこと? それってアヤに関すること? それとも葦原自身の話?」


「両方だ……」


 少なくとも綺姫に関することで俺は海上と手を組めると思う。ならば意見を求めることが出来るかもしれないと俺は昨晩の失態を話していた。もちろん彼女との行為の話はしないで行き違いで気まずい空気だと話をした。


「あんたねぇ……それでアヤは大丈夫なの?」


「ああ、さっき連絡はくれた……だからお詫びに何かを用意したい、でも俺は綺姫の好物はほとんど知らなくて、だから彼女の好きな物を教えて欲しい」


 色々と朝から考えたがやはり謝罪するなら詫びの品が大事だと俺は考えた。だから綺姫の好きな物、服でもアクセサリーでも何でも送る気だと話したらドン引きされ色々とアドバイスされる事態になってしまった。


「まあ、今言ったように、ほどほどに……てか、あんたの病気って衝動的なもんなんでしょ? アヤがそんなに何かした? なんか理由有ったんでしょ?」


「そ、それは……綺姫は悪くない、俺が……」


 そうだ俺が綺姫を自分の物だと確認したくて乱暴に抱いたとか歪んだ感情を抑え切れずに彼女を苦しめてしまった。だから悪いのは俺なんだ。


「ふ~ん、そっか……詳しく話してくんない? ウチが見た所あんたら二人は良い感じにすれ違い事故起こしまくってる気がすんのよ」


 言いたい事は分かる。俺は綺姫のことを理解出来ずに強引に事を運ぶことが多々有った。きっと、そういう事を言っているのだろう。


「一つ約束してくれ、最後まで綺姫の味方でいてくれると」


「んなの当然でしょ、なに、疑ってんの?」


 あくまで確認だと言って更に彼女に別にもう一つ確認が有ると言うと海上はうんざりしながら「まだ何かあるん?」と言って俺を睨む。だがこれは一番大事なことだから聞いて欲しいと言うと頷くのを見て話し出す。


「大事なことだ綺姫と須佐井の二者択一になった場合どちらに付く?」


「と~ぜんアヤの味方、てか須佐井がアヤを見捨てたとかダセーことして黙ってたとか絶交レベルでしょ、学校で騙してたのも許さねえし」


 さらに話を聞いて行くと海上たちは綺姫とは高校入学からの友人で、その綺姫に付いて来てたのが須佐井で感覚的には友達のツレ程度らしい。仲が良さそうな六人に見えたが実は綺姫を中心にしたコミュニティなのだと教えられた。


「分かった……じゃあ、これを聞いてくれ」


 そこで俺は昨日のボイスレコーダーを取り出した。録音はされてると思うが再生してないから分からない、きっと大丈夫なはずだ。かなり高い物を買わされたからこれで録音出来てなかったら訴えてやる。


「なにこれ、ボイスレコーダー? 探偵でもしちゃった?」


「茶化さないで内容を聞いてくれ」




 再生された音声は凄まじくクリアな音質で周囲のアナウンスや雑踏の音までしっかり録音していた。もちろん俺と須佐井の声もしっかり録音されている。


「へ~、これは舐めたこと言ってんじゃんタカの奴、ガチで許せないんだけど」


「それを聞いて安心した、万が一はこれを公開して綺姫を守ってあげて欲しい」


 俺じゃあ何の助けにもならないからと言うと海上はニヤリと笑って「任せろし」と言った。これで安心だと思ったら彼女は次にとんでもないことを言った。


「んじゃ今から帰ってアヤと咲夜にも教えるよ!!」


「待て、浅間はいいが綺姫はダメだ、悲しむだろ!!」


「まあ、そうだろうねアヤの初恋だからね」


 そうだ、あんなクズでも綺姫の幼馴染で初恋だ。せめて綺麗な思い出で残してあげた方がいいだろうと俺は思った。彼女を傷付け金の力で全て奪い取った俺なりの最低限の誠意だ。


「だから綺姫を悲しませずになんとか――――「無理、てかさアヤはさ葦原が考えてるよりも強かだから気にすんなし」


「だ、だが……」


 たしかに綺姫は俺の取引に応じた時や他の時も強いというか陽キャ特有の強引さで切り抜けていたような気がする。だが綺姫を俺は昨晩かなり強引に抱いた。俺がやった行為は須佐井以下なのではという疑念が今も胸に燻ぶっている。


「葦原、一つ答えて、あんたアヤに何でそこまでこだわる? ただのパートナーなんでしょ?」


「ああ、そ、そうだ……そうだよ海上」


 嘘だ。俺は綺姫のことが好きだ。もはや自覚してしまった。今思えば俺はあの夜に彼女を抱いた時からとっくに彼女のことが……。


「ふ~ん、ウチに相談してくれたの嬉しかったよ、だから本音聞かせてくれない?」


「本音……それは――――「アヤのこと好き?」


「っ!? それは……」

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