第38話 怒りと葛藤 その2


「――――上手くいけばアタシの学費も……星明?」


「え? あ、ああ……何でもない……そうだ綺姫、今夜なんだけど」


 俺が帰宅すると海上と浅間の二人は既に居なかった。何やら準備が有るらしく後日また連絡すると言って帰ったらしい。だが俺は今夜のことしか考えていなかった。発情期の猿の方がマシなレベルで頭の中は綺姫でいっぱいだった。


「えっ? あっ!! もっちろん三日ぶりだしアタシ頑張るよ!!」


「ああ、俺も楽しみだよ……綺姫」


 今の俺には明確な綺姫への好意が有る。しかも須佐井が未練たらしく探していた彼女を改めて俺の好きにできる。そんな邪な想いを持ちながら今さら気付いた。今夜は随分と料理の品数が多いということに。


「ん? どしたの星明、何か苦手な物あった?」


「い、いや……この牡蠣とセロリのクリーム煮なんて、まろやかで美味しいよ、あとローストビーフなんて家で作れるんだ、驚いた」


 他にもアボカドのサラダやオクラと山芋の付け合わせ等、四品以上も皿が並び豪勢な気がした。もちろん全部おいしく頂いた。


「ま、まあね、ニンニクは臭いしウナギは高いから用意できる範囲で頑張ったよ」


「え? うん……しかもデザートまで何だかレストランみたいだ」


 最後にブルーベリーとバナナを入れたヨーグルトまで用意されて満腹だ。正直食い過ぎた。少し休憩しないといけない。


「ふっふっふっ……このレシピなら……」


 綺姫がブツブツ何か言っていたようだが美味しくて食べ過ぎたからソファーで休むために横になる。珍しく睡魔に負けそうだ。そして俺の意識は闇に沈んだ。



――――綺姫視点


「あっ、寝てる……でも全部食べてくれたアタシがネットで調べた精の付く料理、これなら星明も今夜は頑張ってくれそう……」


 スマホは凄い。数週間前から星明のを借りて使い始めたけど便利過ぎて生活が変わった。今はまだ連絡先は三人だけど二学期になったらクラスの他の皆とも連絡先を交換したい。


「そのためには、学費だよね……」


 私が稼げる額はたかが知れてると星明には言われた。だから、その後に自分を頼ってくれと星明に言われて凄く嬉しかった。今回は何も要求しないし前の話は忘れていいとまで言ってくれて私を信用してるから大丈夫だとも言ってくれた。


「でも星明は甘いよ……私は嘘付きなんだよ?」


 眠ってる星明の顔を見て私は言う。私は星明との約束を半分破っている。病気の治療のことを二人に話してしまった。私と星明だけの秘密の契約の内容を二人は一部だけ知ってる。それに星明の知らない秘密も。


「だから、タマが言ってた通り……体で……」


 それは私が星明を好きなこと。私を助けてくれた彼に片思い中だということ。星明は私に同情して助けてくれただけで病気が治ったら捨てられるかもしれない。それに星明の本当の魅力に気付く素敵なひとが現れたりしたらお終いだ。


「うっ……う~ん」


「大丈夫そうだけど……起こそうかな」


 二人は私から告れば行けるとか言ってたけど私は1200万円の借金女だ。こんなんじゃ星明の彼女に相応しくない。なんとかお金を返してきれいな体になって彼女に、そしてゆくゆくは……。


「そう……二人で一緒にずっと……将来は……子供とか」


「うっ、う~ん……あや……き?」


「ひゃい!? 三人はよ!?」


 名前をいきなり呼ばれたから咄嗟とっさに答えていた。三人は多過ぎたかな、でも女の子二人と男の子一人は私の理想だ。


「三人もなんて今時のヤクザ、ジローさん達だってやらないんだから物騒なことは言わない方がいいよ綺姫」


 星明は盛大に勘違いしてそうだけど上手く話をごまかせたから良し。それより気になったのはご飯を食べるまで星明の顔が恐かった事で外に出てる間に何か有ったのだろうか。



――――星明視点


「ねえ星明、何か有った?」


「え? 何かって……」


 寝ていた間に俺の横に座っていた綺姫は俺を覗き込むように見て来る。その瞳は純真無垢で、だから辛かった。昼間のことを思い出して腹が立った。こんなに純粋な子をあのクズは……。


「えっと何か星明いつもより怖い顔してたから……」


「そういう風に見えたかな」


「うん……何か、有ったんだよね? 嫌なこと」


 もはや確信しているような綺姫に俺は悩んだ。そして昼の須佐井との会話を思い出す。あれは何かに使えると思って録音したもので綺姫に聞かせるつもりは無い。あんなのを聞かせたら綺姫が悲しむし俺はそんな顔を見たくはない。


「ああ、有ったよ……だから綺姫、忘れさせてくれる?」


「えっ? あっ……うん、じゃあお風呂入ってくるっ――――きゃっ!?」


 色々な感情が俺の中でせめぎ合った結果もう我慢の限界だった。目の前の綺姫が自分の物だと実感したくて彼女を抱きしめソファーに押し倒す。少し驚いた様子の綺姫の顔を見ると余計に興奮した。


「今すぐ……綺姫が欲しいんだ」


「う、うん……きゃっ!?」

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