第167話 真相と幼馴染 その3


「そういえば綺姫このカチューシャって須佐井からって話だけど、この写真では既に付けてるよね? だからこれはもしかして」


「あっ……ほんとだ、じゃあ、これって」


 落ち込んでいた私と違って星明は自分の体の心配も有るはずなのに写真を見て気付いた事実を指摘していた。


「恐らく改竄かいざんが起きているね、このカチューシャは天原さんの記憶ではどういう扱いかな?」


 春日井さんの言葉に私は夏祭りで二人だけで遊びに行った事、そこで買ってもらった事、最後にその祭の後に親に見つかり𠮟られたという話をすると春日井さんは「なるほど」と頷いた後に口を開いた。


「この資料から見て件の須佐井が利用してた可能性は高い、二人の本当の関係を利用し成り済まし偽りの関係になっていたんだろうね」


「アタシあんな奴を幼馴染だと、星明と勘違いしてたんだ、じゃあアタシがあいつを好きだったのって……」


 あのカチューシャ捨てそうだったけど捨てないで良かった。封印しただけであれは絶対に星明が私に贈ってくれたプレゼントだ。家に帰ったら出してあげよう。


「恐らく引き離される前の星明くんへの好意を誤認識した結果だと思う」


 本当に最低だ。私は大好きな幼馴染の顔も名前も忘れてクズを好きになってんだ。例え病気だったとしても最悪だ。私が落ち込んでいると星明が唐突に春日井さんに向かって叫んでいた。


「そうだ!! 父の件で流す所でしたが綺姫もⅠ因子持ちなんですよね!?」


「そうだったアタシもなんだ……」


 先ほどの春日井さんの言葉を思い出すと感染者は記憶喪失の星明と私だ。でも、それだと少し変だと思う。私は星明のように暴力的にもエッチな気分になった事も一度も無かったから。


「その件だけど関係各所の見解で天原さんの症状はオマケ程度だと診断されてるんだ。確かに感染者は二人と言ったけど、あくまでメインは星明くんらしい」


「詳しく聞けますか?」


 星明の言葉に頷いた春日井さんの話が再び始まった。



――――星明視点


「何度も言うけどⅠ因子は極めて特殊かつ特異な症状が見られるけどウィルス性に分類されるから増殖する性質が有るんだ」


 それは当然だろう。ウィルスだから人に寄生し増殖し最終的に別な人に感染するを繰り返しているのだろう。なら、まさか……。


「綺姫に移したのは俺ですか?」


「恐らくね、そしてⅠ因子の特徴は他にも幾つかあって、それが本体メイン分身コピーの関係だ」


 春日井さんの話によると俺が感染したⅠ因子が綺姫に移ったと見て間違い無いらしい。そしてⅠ因子は特殊で感染者同士が本体と分身のような不可思議な関係になるそうだ。その両者の最大の違いは症状の発症頻度だと春日井さんは語った。


「では、綺姫は他のキャリアーと同じく発症しないと?」


「ああ、あくまで今までのデータだとね。それに天原さん自身が安全装置なのも関係してて症状が大幅に緩和されている。だから結果的に記憶障害が部分的に起きているだけだと推測されてるんだ」


 綺姫の場合は二つの要因で他人への攻撃的な衝動などが起きる事は無いらしい。だがこれも二件しか無いデータから出した推論で確実では無いという話だ。


「でも今の綺姫と俺を見れば必ずしも間違いでは無い、と?」


「ああ、だから君達は当分の間は経過観察だと先方から連絡が有った」


 先方とは春日井さんが”彼”と呼ぶ人物で俺が無理やり飲まされた薬の効力は凄まじく強力で半年以上は抑制できるから大丈夫だと判断したらしい。だが強力ゆえに反動で俺は三日間も寝込んでいたそうだ。


「アタシ達このまま普通に生活して良いんですか?」


「ああ、天原さんはもちろん葦原くんもね」


 そして春日井さんに指示を出している”彼”から伝言が有ると言われ俺達は聞くことにした。


「え~っと『上手いこと時間は稼いでやるから卒業までは心配すんな、その後に何とかしてやるから任せろ』だったかな……たしか」


 今朝、電話口で言われたらしく苦笑している。しかも卒業後は俺たち専用に治療施設まで用意してくれるというから驚いた。


「そ、その……何でそこまでしてくれるんですか?」


「それは君たち二人が”彼”の家族を救ったからさ」


「アタシ達がですか?」


 家族を救った? そんな覚えは無いが……身に覚えの無い善意の施しなんて普通に怖いと俺と綺姫は顔を見合わせた。二人でどうすべきか悩んでいたら春日井さんが思い出したように口を開いた。


「ああ、彼の名前と身分は出せないが彼に近しい人からの伝言も有った。メイドの恩返しパート2だったかな」


「「えっ!?」」


 そうだ、この人は例のメイドのモニカさんの知り合いだと言っていた。つまり彼とはモニカさんの関係者だ。そうなると予測は付く。


「その人って……」


「気付いたとしても口には出さないで欲しい、今はね?」


 そして俺はモニカさんの言葉を思い出していた。


『お気付きでしょうが国家権力を少し使える身分に有ります。あなたは当家と、とある王国の王太子候補に大きな貸しを作りました、有効に利用なさい』


 彼女の息子のアルカ君をホテルに送っただけで俺達は誘拐犯扱いだった。だから彼とは恐らく例のモニカさんの旦那さんに違いない。

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