第166話 真相と幼馴染 その2
父が落ち着くと春日井さんの話は続いた。今の状態では数年後には症状は悪化すること、そして、より凶悪で人間の仕業とは思えない
「そこまで、ですか?」
「君がかつて暴走したという件も調べた限り脅威度はDランクだ」
かつての暴走とは俺が夜の街でジローさんに止められた時の暴行事件だ。あれも大暴れしたから非常に危険だったはずなのにDという扱いに驚いた。
「ちなみに何段階でDなの春日井くん?」
「千堂グループ内ではA~Eの段階で判断しています静葉さん」
やはり下の方だ。あんなに暴れ回ってDなら上のランクは人死にが出るレベルだと思う。警告される理由がよく分かった。
「それで、どうすればいい春日井くん?」
「非常に申し上げにくいのですが現状は打つ手無しです」
「君が出張ってもダメなのかね!!」
父が声を荒げるが春日井さんは頷くばかりで表情を暗くしたままだった。そして意を決したように口を開いた。
「これ以上は、とある国との非常に高度な外交問題に発展する可能性が有って迂闊に動けない状況です。本来はこの件も他言無用なんです」
「そこまでか……」
父の言葉が重く病室に響いた。今の話だと俺は暴走したら最悪、消されるだろう。つまり数年の命だと宣告されたに等しい結果だ。
◆
「しつこいけど君を治すために様々な人間が動いているんだ、そこは分かって欲しい星明くん」
「はい、では俺は今後は危険人物として拘束されるんですか?」
現状の俺は導火線に火の付いた爆弾だ。監禁され監視されるのは間違いないだろうと自然と緊張で声が強張っていた。
「えっ!? そ、そんな、それは酷いです春日井さん!!」
横で泣き腫らしていた綺姫がハッとして俺に抱き着いたまま大声を上げる。その瞳には強さが戻っていて俺なんかより意志の強さは綺姫の方が上なんじゃないかと思ってしまうほどだった。
「落ち着いて天原さん、少なくとも”彼”は君らを害する事は一切考えてない」
「なら千堂は違うという意味かね?」
父が言うと春日井さんはコクリと頷いた後に周囲を確認していた。本当に二重スパイのようだと思ったが、ここで驚きの声を上げたのが綺姫だった。
「え? 七海さんが!?」
「あの人は恐い人だよ……昔からね」
そういえば春日井さんは例の総裁とは高校の先輩後輩の関係だったのを思い出す。おそらくプライベートでも付き合いは有るのだろう。
「で、でも私達の学費とか他にも相談に乗ってくれて……」
「それがあの人の常套手段だ。まずグループに取り込む、その後に使えるか調べ利用価値が無ければ捨てる、そういう人さ」
あれだけの規模の企業グループを率いていれば判断がシビアなのは当然だろう。それに俺達に見せた顔も全てでは無いだろうし春日井さんが言いたいのは、そういう話だと思う。
「父も静葉さんも大人しく言う事を聞いてたくらいですしね」
夏のアルバイト、ジローさんや七瀬さんを利用し裏チェスのバイトに引き込んだのも七海総裁の仕業で父のチェス対決の仕込みも彼女だった。今まで事件の裏には必ず千堂グループの影が有った。
「当然だ、この病院を立て直せたのも先ほどの年間予算について補填も全て千堂の力添えだ……そして父の排除もな」
「あなた……それって、まさか前院長の行方不明は」
「ああ、ここを立て直すためにな……」
祖父が急に消えた。違う恐らく千堂グループに消されたんだ。そうすることで病院は復活する事が出来たんだろう。
「だから父さん、あなたはそれを悔いてメスを握れなくなった?」
「ふっ……あんな男など父とすら思わんし関係は無い」
じゃあ何で父は手術出来なくなったのだと疑問に思っていたら急に呼び出しのアナウンスが入った。しかも父を名指しでだ。悩んだ末に父は少し席を外すと言って病室を出て行った。
◆
――――綺姫視点
「はぁ……ど~しよ」
「綺姫、大丈夫だ」
星明はそう言って肩を抱き寄せてくれるけど私達の前には問題が山積みで心配な事しかない。せっかく私と星明が本当の幼馴染だと分かったのに最悪だ。
「あっ、そうだアタシと星明って幼馴染なんだ」
「そうだね……実感わかないけど」
私の呟きに星明も頷いた。資料によると小学校の入学前に知り合って三年生から四年生の間に離れ離れになったらしい。春日井さんの話では当時の関係者が見つからず最低限の資料だけで判明した事実だそうだ。
「天原さんが転校したから卒業アルバムから探るのも無理でね、当時のPCか端末が有れば良いんだけど、そういうのも院長が全て破棄してしまってね」
そして唯一の生き証人である私の両親は再び行方をくらませたらしい。逃げ足だけは天下一品だと春日井さんは苦笑してるけど私は笑えなかった。
「ですが父が……そこまで」
「院長を擁護する訳じゃ無いけどタイミングが悪かった。天原さんの両親と君の母親そして……その、不適切な関係の相手の四人が病院の金を持ち逃げしたから」
春日井さんも言葉を選びながら話しているけど星明の顔は複雑だ。たぶん私も似たような顔をしてると思う。そして、そんな状況だったから病院の忌まわしい過去について全て破棄されたらしい。
「記憶も思い出も無い幼馴染かぁ……」
何だか泣きたくなって来た。
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