第187話 あけまして新年、明かされた事実と謎 その1


「すいませ~ん、遅れました~!!」


 俺と綺姫が急いでエントランスに降りると待ち合わせのメンバーは既に居た。クラスメイトの海上と浅間そして二人の恋人の瑞景さんと聡思さんの四人だ。


「おっそいアヤ!!」


「葦原が遅刻なんて珍しい……って、あんた達そういうことか」


 どうやら海上には俺達の雰囲気と匂いでバレたらしい。変だな二人してニオイは気を付けて着替えもしたのにと思っていたが逆にそれでバレたようだ。


「すいません瑞景さん聡思さん、色々と……」


「程々にね……それに役割はもう聞いてるだろ?」


「はい、今日はお世話になります」


 俺が瑞景さん達に謝っていると気にするなと言って肩をポンポンと叩かれる。実は瑞景さんは今日と明日を通して俺達の護衛だ。信矢さん達が実家で過ごすから代わりの人員として回されたのが瑞景さんだった。


「春日井さんの代役だ気合も入る!!」


「その話も改めて凄い事になってるよな……マジもんのエージェントとか、しかも師範とか皆がグループ関係者とか……」


 呆れた様子で話に入って来た聡思さんも関係者として一部の事実を知らされ半ば強引に巻き込まれる形になってしまったが大丈夫だろうか?


「まあ、咲夜が知らなければ大丈夫だ、それに師範や勇輝さんも関わってるなら俺も他人事じゃないしよ」


「でも君が覇仁館所属だったのを聞いて驚いた……あそこの審査は厳しいから」


 実は高校の時に道場の扉を叩いたが入門を断れたと瑞景さんは話した。やはり信矢さんに憧れたかららしいが愛莉さんにダメと言われたらしい。


「愛莉姐さんが断るなんて瑞景さん、よっぽど失礼だったんじゃ?」


「理由は分からない、だからバイト先の秋山警備保障でシステマを少しね、後は柔道を本当に少しだから我流に近いんだ」


 そんな武道談義をする二人を尻目に俺も何かやるべきかと悩んでいた。最近の知り合いは武道家ばかりだ。それに綺姫を守るなら少しはやるべきかもしれない。




「とにかく、これで俺も隠し事は無しだ星明くん」


「そういえば普段は”俺”だったんですね?」


「ああ、偽装訓練の一環でね……だから珠依にも不審がられてて……無理が有ったんだ最初から」


 こんな感じで瑞景さんは身分を偽りキャラを演じる訓練までしていたそうだ。それに俺と綺姫には別な秘密も話してくれた。


「それにしても護衛の仕事、大変でしたね」


「まさか研修条件が自分の恋人を危険に晒しても構わないという内容で誓約書を書かされるとはね……我ながらサイテーさ」


 その誓約書を書いた時点で自分は最低な人間だと言うが俺の耳には少し違う話も入っていた。


「それも七海会長から聞きました、瑞景さんが受けなければ海上と浅間の安全は一切考慮しないで俺と綺姫のみを優先する護衛計画だったとか」


 そして海上とオマケの浅間が巻き込まれるのなら自分が監視し俺たち四人を護衛した方が早いと考え動いていたというのが真相だった。


「ああ、だが、それも七海会長のブラフだった……やられたよ」


「でも俺達は途中まで全く気づきませんでしたよ」


「そうか、でも会長や他の先輩には最初からバレバレで泳がされてた」


 実際は瑞景さんが独自の裁量で、どこまで動けるかも試されていたそうで完全に手の平の上だったそうだ。


「俺たち皆って見事に大人に踊らされてたんですね……」


「ああ、でも俺もバカだった……どこかで君を見下してた」


 自嘲気味に笑う瑞景さんを見て俺は少し驚いていた。その後に続く言葉にも驚かされた。


「金持ちのボンボンが少し裏を知った気でなんて思っていたんだ……でも実際は俺の方が何倍も愚かだった」


「瑞景さん……」


 夏に出会った時は海上とキャリアのためと思って動いていたけど裏の世界に触れるにつれ怖さが増したらしい。そして気付けば逃げられないように雁字搦がんじがらめになって動かされていたと語った。


「バカだったよ、君たちは自分で決断して進んだのに俺は上の言う事を聞くだけの奴隷に成り下がった、心の中で珠依のためと言いながらね……」


「ま、それ分かっただけでも成長じゃないっすか? な? 星明?」


 そこで今まで黙っていた聡思さんが俺達の後ろから肩を組んで来て言った。


「俺が咲夜と付き合えたのは瑞景さんのお陰だし、そもそも俺らを無視しても良かったのに照陽の件で蹴り付けさせてくれたのは計画に無かったんすよね?」


「まあね……大局的に見たら関係有ったんだけど俺が手を下す必要は無かった」


 結局バイトを通じて仲良くなった聡思さんと浅間を応援したくなったらしいし俺と綺姫にも甘い部分も本人の人の良さだった。そんな話をしていると神社に到着していた。



――――綺姫視点


「うぅ……ね、ねえ話しかけちゃダメかな?」


「いや、どう見ても男同士って感じだし、タマもそう思うでしょ?」


 私は何度かチラチラと後ろから付いて来る男三人衆が肩を組んで歩いてるのを見て複雑だ。最近の星明は少しモテ過ぎだと思う。学校でも学校外でも私だけだったのに、幼馴染の時だって私とだけ遊んでたらしいし。


「まあね、てかウチら来る前に可愛がってもらったんでしょ?」


「えっ、ま、まあ……シたけど」


 星明がなんとか始めとか言ってたけど新年から凄く仲良くシてました。とても気持ち良かったです。


「あんたら……こっちはまだなのにぃ……」


「まあまあ、焦っても良い事ないからさ咲夜なりのペースで頑張んな」


 二人が話しているけど私は後ろの男子三人の会話の内容が気になって仕方なかった。やっぱりズルいと思うから思わず二人に愚痴った。


「でも男子ってズルいよね、ああいうの入れないし……」

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