第186話 聖夜の会談 その3


「ええ、春日井くんは定期的に私に逆らう問題児ですが、とある道場で師範代をしていた実力者ですから」


「えっ……そりゃエージェントだから強いと思ってましたが」


 普段は温和な人だし少し頼りない感じに見えていたから意外だった。しかし、そう思っていたのは俺だけだったようで横で綺姫が声を上げて言った。


「知ってます!! 柔道と空手と総合格闘技それに護身術の他に幾つもの格闘技を小さい頃からやってるんですよね!!」



――――綺姫視点


 星明は知らないから困惑してるみたいだけど私の情報網は凄いんだ。特に狭霧さんと静葉さんと梨香さん達とはSIGNのIDも交換して定期的にグループで話したりもしていたから情報は入ってる。


「出所は狭霧さん達ですね……まったく相変わらず口が軽いようで」


「はい!! 狭霧さんが毎回ご飯の後とかに信矢さんとの思い出を話してくれるんで暗記しました!!」


 そして夕食にお呼ばれした時は高確率で幼馴染らしさを学ぶために私は狭霧さんの話を聞いていたり悩みも聞いてもらっていた。たまに妹の竹之内先生も来たりして三人で密かに女子会もしていた時に仕入れた情報だから信憑性は高い。


「その様子では動乱の裏話も漏れてるんですね?」


「はい!! だからアタシ、七海さんが悪い人じゃないって思ってます!!」


「困りましたね本当に貴女や狭霧さんのようなタイプは苦手です」


 そもそも七海さんは当時の動乱を表に出ないよう最低限の犠牲で済ませるために尽力した中心人物で本来は大事件として取り上げられるはずの動乱の揉み消しに動いて空見澤という街を救った人だった。


「って感じに聞いてます!!」


「ええ、ですが葦原院長を始め私のやり方で犠牲になった人々も多く居ます、それこそ葦原さん、いえ星明くんや貴女が巻き込まれているのは私が原因では?」


 そして狭霧さんは言っていた。恐らく七海さんはそう言って全てを被ろうとするはずだと、かつて自分の代わりに全てを背負った人間をリスペクトし善行も悪行も全て引き受ける生き方をしているらしい。


「そりゃ不満は有ります、でもアタシの親も最低だったんで遅かれ早かれ星明のお家に迷惑かけてたと思います!! それに動乱後は支援してたんですよね?」


「それはそうです。有用性と投資価値を天秤にかけ必要と判断しましたから」


「そうですか……なら不満が出るとしたらアタシの記憶が戻ってからです!!」


 つまり経緯はどうあれ困っている人を助けていたのは事実。そこに損得は有ったとしても始まりは私と星明の再会した時と同じだ。


「ですがパートナーはどうです? 私が黒幕ですよ葦原さん?」


「確かに貴女の介入は父が歪んだ要因だ……だけど根本は我が家の問題です。他人のせいにするほど落ちぶれちゃいませんよ」


 さすが私の星明だ。言い方はアレだけど悪いのは星明のお爺さんだし、トドメを刺したのは星明のお母さん達で七海さんは後から関わったに過ぎない。むしろ逃走に関わっていた私の両親の方が罪は重い。


「だから今は七海さんを信用します!! 星明はどう?」


「ああ、綺姫がそう言うのなら、それに俺も色々と裏が聞けてスッキリした」


 今回のお義父様の事で事件は全部解決したと思うし何より葦原家と私個人の問題は解決したと思う。これで今もお義父様に恨まれてたら文句も言ってたけど終わった話をグダグダ言っても仕方ない。


「そうですか……では当グループも、ただ今を持って正式に二人を支援すると宣誓しましょう。で・す・が書類の通り新薬の研究にはお付き合い下さいね?」


「ええ、あくまで人道的な範囲でなら」


「もちろん、我がグループで違法な研究は少ししかしていませんから」


 ニコリと笑う七海さんだけど、その少しが恐いと思って星明を見ると苦笑していた。とにかく私達は今後は世界的な企業グループの保護を得られた。そして気付けば日付けが変わっていた。


「もうクリスマスだよ……」


 私の言葉で星明たちも気付いて解散になった。なお翌日は夕方まで死んだように寝てた私達はクリスマスを寝て過ごす形になって慌ててコンビニでクリスマスケーキを買って祝うはめになってしまった。



――――星明視点


『3,2,1、皆さま、明けましておめでとうございます!!』


 薄暗い部屋で付けっ放しのテレビから漏れる音声で目を覚ました俺はベッドの中でモソモソと動き出す。隣には半裸の綺姫がいて目を覚ましていた。


「明けましておめでとう……綺姫」


「うん、おめでと星明~!!」


 今日は俺は生まれて初めて深夜に神社へ行って初詣するという体験をする約束をしていたのだが、一緒に行くメンバーが来る前に綺姫と盛り上がって二人で年を跨いで姫始めしてしまった。


「そろそろ着替えよう……四人も来るだろうし」


「うん、あっ……通知入ってる~!!」


 そうだった基本は綺姫の方に連絡が入るから俺の方に通知は無いんだと慌てて見ると今回は意外にも俺の方にも通知が有った。急いで確認すると既に下のエントランスで待機中と返って来て俺達は慌てて着替えて下に降りた。

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