第185話 聖夜の会談 その2
あれから数時間が経過したが俺達は未だ家に帰れずにいた。会談も長引いていたが主に問題となっていたのは承諾関係の書類の確認だった。
「条件は以上です。お二人の意見を聞かせて下さい」
「これを
「星明~、この漢字なんて読むのぉ~?」
書類の山を前に俺と綺姫は困惑と軽く恐怖を感じていた。隣に立っている工藤先生は苦笑しているが目は諦めろと言っている。
「あら? 当グループに所属する者ならこの程度は朝飯前です、それこそ額田くんはやってくれてますよ?」
「瑞景さんの雇い主が貴女とは……夏休みの件も全て貴女が?」
そして書類を片付ける傍ら千堂グループの裏工作に付いても聞かされていた。その話の中には瑞景さんが千堂のエージェント見習いとして俺達の監視に急遽派遣されたという話も有った。
「実は半分は偶然です。元々は違う人間、それこそ工藤先生を学園に派遣し九月から監視予定でしたが手近に使える額田くんがいたので任せました」
瑞景さんが使えるという意味は海上と恋人関係で俺達の監視が容易だと考えたからで、そして気分転換のため自ら俺達を見ようと直接乗り込んで来たのが夏休みでの邂逅の真相だった。
「ですが何で俺達が因子持ちだと?」
「夏休み前までは数ある監視対象の一つでした。ですが一番興味を惹かれた対象でしたからね。経歴だけ見れば幼少期から知り合いなのに今は他人同然、仲違いの様子も無く単純に分かっていない……不思議でした……途中までは」
だから気になった七海総裁は様々な方面から俺達を調べて行く内に痕跡を消した形跡を発見した。そこから俺達が記憶を欠如している可能性を見出したらしい。その捜査を担当したのがあの人だった。
「実は当グループには日本の警察との窓口をする人間が数名いまして、工藤優人警視はご存知ですね? こちらの工藤先生の弟さんで彼もその内の一人なんです」
綺姫の下着泥棒の事件や一連の騒動が全てⅠ因子に関わっていると考えた警視は総裁に報告した。そして例の夏休みのリゾート地で動きが変なモニカさん達を見て一気に動き始めたそうだ。
「ですが実際モニカさんのお節介という話で私のミス、ただ結果的に二人に目を付けられたので怪我の功名でも有りました」
「……だから偶然だと、でも綺姫の事件の犯人は須佐井では?」
「ええ、一つはという注釈付きです、ですが天原さんの家の壁の傷を覚えてませんか?」
壁の傷……そう言えば人間業とは思えない大きな傷跡が有ったと工藤警視に見せられたのを思い出す。事件が解決してから存在をすっかり忘れていた。
「あの傷は人ならざる者が付けた、それこそ獣の類を疑いませんでしたか?」
「そういえばアタシ何回も警察で聞かれた……」
だが最終的には警察も分からず終いで下着泥棒の方を優先したそうだ。そういえば警視は俺に犯人が二組いると話していた。
「ですが肝心なのはここからです。二人は知らなかったでしょうが現場、つまり綺姫さんの家から日本では存在しないはずの物質が採取されたのです」
「それは……薬物の類ですか?」
「ええ、しかも非常に危険な代物です。更に先日になって判明したのが須佐井姉弟が扱っていた薬とそれは酷似した物でした」
まさかの須佐井家の話で俺と綺姫は複雑な表情になった。特に綺姫は中学の頃から奴に騙されていた。正確にはⅠ因子が原因だが利用して綺姫を手に入れようとしていたのは事実だ。
「尊男、いえ須佐井は何をしていたんですか七海さん」
「二人は須佐井 照陽、尊男らの悪行をどこまでご存知で?」
俺が答えると七海総裁は「それだけか……」と呟いて何か思案した顔で隣で立っている工藤先生に目配せしていた。
「まだ俺達が知らない何かが?」
「ふぅ、和解の場で隠し事はすべきでは有りませんね、あなた達の知っている件は悪行の一部です。これは詩月さんらの調査で分かったのですが……」
例の須佐井家の男装していた麗人の詩月さんは今はグループに全面協力しているそうで傘下に入りグループのバックアップを受け会社を再建中らしい。どうやら昔の俺の父と同じ扱いだそうで、その見返りに彼女は姉と弟の二人を調べたそうだ。
「判明したのは某国の密売人と懇意にしていた事や麻薬を売り捌く手伝いをし見返りに姉は多額の金を、弟は女をあてがわれていたそうです」
詩月さんの調べでは何らかの麻薬関連の協力をしていたらしい。そして同時に拉致や誘拐など組織的な犯罪も仲間と行っていた事も判明したそうだ。
「最低……」
「ええ、正直な所、女子大生や高校生のレベルの犯罪では有りません。裏に何か別な思惑や組織が有ると考えてます」
「それに心当たりが?」
俺が言うと七海総裁はコクリと頷いた。そして俺を見て言った。
「その組織の最終的な狙いは葦原くんと天原さんだった……恐らくは」
「だった、とは?」
「ええ、春日井くんが数日前に撃退したので問題は無いとの報告を受けてます」
撃退したって……あの春日井さんが?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます