第184話 聖夜の会談 その1


「似合ってるじゃないですか……お二人とも」


「それはどうも……」


 俺は目の前の圧倒的なオーラを出す女を睨み付け言った。千堂七海、学校主催のパーティーの裏の主催者で今回は俺達に会うためだけにクリスマスパーティーを開いた権力者で俺達の敵……だと思う。


「アタシも、ドレスとか初めてで嬉しいでっす!!」


「それは重畳……本当にお似合いです」


 対して綺姫は目の前の女傑に警戒してないようだ。あれだけ危険だと会談前に話したのに油断し過ぎだ。その会談前の話なのだが今から二時間前に遡る。


――――約二時間前


「では各自で体育館に向かうように、正装に着替える者は第一、第二多目的室で、男子は第一で女子は第二、それから――――」


 工藤先生の注意事項を聞いていると隣の席の綺姫が机の下で手をチョンと突いて来た。つい数分前に怒られたばかりなのに懲りないなと思いつつ手を握り返す俺も少しも懲りて無いとは思う。


「今日は男女ペアが基本だ。今回はプロムの様式を守るように、幸い我がクラスには良い代表がいる、葦原、天原」


 タイミングよく手を繋いでいた俺と綺姫は返事をして立ち上がった。実は今の俺たちの恰好は綺姫は薄ピンク色のロングドレスで俺は黒のタキシード姿で先ほどから教室で違和感が凄かった。


「今回だけは二人を見習え、ダンスなども有るから積極的に参加しても良いし気にせず好きに飲み食いしても大丈夫。社交界のマナーや雰囲気を学ぶには良い機会だと思うから皆の糧にして欲しい、では解散」


 先生の言葉に何人かは多目的室にダッシュしたが、それよりも俺と綺姫の周りの人の方が多かった。


「アヤ似合うじゃ~ん」

「てか何でアヤだけ先に着てんの?」

「天原さん!! ツーショットで是非!!」


 綺姫はモテモテだと笑っていたら俺の方にも男女問わず質問が凄かった。着こなしと聞かれても俺は千堂グループお抱えのスタイリスト相手に着せ替え人形になっていただけだ。


「どうして葦原だけ先にタキシードに!?」

「や、やっぱり俺も着替えるべきか……」

「葦原くん良い感じ……ひぃっ!? なっ、何でも無いから天原さん!?」


 気のせいか隣から刺すような視線を感じたが気のせいだった。隣の人垣には綺姫と女子しか居ない。目が合うと綺姫がニコっと笑っているだけだ。しかし声をかけて来た女子の顔が真っ青なのは急な体調不良か?


「じゃあ各自そろそろ動けよ~、先生は準備が有るから先に行くが遅刻するなよ」


 そして工藤先生は教室を出て行く寸前に俺と綺姫を一瞥した。何か有ると思ってスマホでSINGを確認するとメッセージが有った。


『今日のメインは君達と総裁の和解だ。俺も同席するから頼むぞ』


 俺も了解と返信して体育館へ向かった。実は今夜のクリスマス会は全て千堂が裏から手を回した会合のためでクリパを含めた全ては彼女が学園に来て俺たちに会うためのカモフラージュに過ぎない。




 そして現在、クリパを途中で抜け出した俺達は千堂七海と対峙していた。場所は先生に案内されるまで気付かなかったが廃部となった柔道部の柔道場だった。内装は豪奢な調度品が並べられ金持ち用のレストランみたいになっている。


「では乾杯といきましょうか?」


「何にですか?」


「そうですね……私達の再会になんて、いかがです?」


 可能なら二度と再会はご遠慮願いたかった。なら少しくらい言い返しても良いだろうと俺はニヤリと笑って口を開いた。


「良いですね最高に皮肉が効いてて――――「星明!! 今日はそういうの禁止!! 仲直りの会なんだから!!」


「い、いや綺姫だけどね……」


 まだ言い返してすらいないのに俺の言葉は綺姫に遮られた。この後の俺の行動は完全に読まれていたらしい。だが驚いたのは俺達を見て千堂七海が笑っていた事だ。堪え切れないという感じで驚かされた。


「ふふっ……あぁ、本当に春日井くんと狭霧さん、それに”彼”までが擁護する気持ちが分かりました。確かに似てますね先生?」


「だろう? あいつらが先輩風を吹かしてるのも笑えたよ」


「そうですか……それは是非とも見てみたかったです」


 同席していた工藤先生と千堂七海が和気藹々な雰囲気で話していて俺も綺姫もポカンとするしか無く完全に置いてけぼりだ。


「えっと……その」


「失礼。つい懐かしくなってしまいました。本当に二人の高校時代に似ています。常に二人で一緒という点が特にね」


「そうなんですか……」


 普段見ない人間の笑顔は特だと思った。今ので毒気が完全に抜かれてしまう。だが向こうが表情を引き締めて来たから俺も油断なく目の前の女傑を見た。


「では、和解の前に改めて当グループから要求と提案を提示させてもらいます」


「分かりました、お願いします」


 こうしてイヴの会談は始まった。二次会のダンスパーティーも終わり生徒は皆帰ったが俺達はまだ帰れない。まさかイヴに居残りが有るなんてなと思いつつも横で美味しそうにチキンにかぶりつく綺姫を見て俺は気を引き締めた。

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