第183話 絡み合う陰謀 その3
私が言うと星明は楽しみだと言いながら何か別な事を考えていているように見える。パーティーが楽しみという雰囲気じゃない。
「どうしたの?」
「いや、例のローブ姿の連中が急に居なくなったから気になって」
「それは先生や信矢さん達が追い払ってくれたんじゃないの?」
先生から全部片付いたと数日前に私達は聞いていた。ただ信矢さんは数日前から急な出張で家を空けていて昨日は狭霧さんと子供たちだけで信矢さんがいない状態で夕食会だった。
「気にし過ぎかも知れないけど……引っかかるんだ」
「うん、アタシらの記憶もだし色々と不安だよね」
私以上にⅠ因子に蝕まれている星明は神経質になっているんだと思う。そういう所は配慮して欲しいと静葉さん達も言ってたから私の出番だ。そんな中で私達はクリスマスイヴを迎えた。
「今日は終業式が終わったら、そのままクリスマス会か」
「希望者は制服以外も着て良いらしいけどアヤどうすんの?」
タマと咲夜は制服で参加するらしい。そもそも二人は私と同じで明日のクリスマス本番に気合を入れているから今日は文字通りの
「え~、アタシも制服でいいよ、てかドレスとか持って無いし」
「そこは葦原が用意しそうでしょ、奥さま?」
タマが言うと咲夜もニヤニヤして言って来るから照れ臭い。たしかに星明なら準備してくれそうだし着たい気持ちは有る。
「も、もう止めてよ~、結婚は星明の大学卒業後だから~」
「もう確定してるのが羨ましい……」
「でも咲夜も最近は順調でしょ?」
「ま、まあね……それでさ二人に聞きたいんだけど……今日の夜って誘えば行ける系……かな?」
そんな感じでトイレから戻ると教室では皆がソワソワしていた。何だかんだでクリスマスは特別だ。それに恋人たちはイヴこそが本番だし私もそう思って恋人の方に視線を向けると星明の周りには人だかりが出来ていた。
「なんでっ!?」
◆
――――星明視点
今日はクリスマスイヴ……世間では恋人たちの季節。去年までは裏の世界でバイトしながら虚しく過ごしていたが今年の俺は違う。
「あの~、葦原」
「今年は完璧にこなしてみせる……」
それに今夜は別件も入っているから忙しいから明日は綺姫を喜ばすために何でもしたい。イヴは難しくてもクリスマス本番は何とかしたいと妄想を膨らませていた。
「葦原、その……少し良いか?」
「ん? あ……すまない気付いてなかった」
そして気付けば男子数名に囲まれていた。俺は例の須佐井が暴れ回った後からは特に男子とは関わらず綺姫や親しい女子数名と話す程度で彼らと接触は避けていた。
「実は急にこんな事を言うのは失礼なのは分かっているが……」
「なんだ?」
その男子達だが凄く遠慮というか恐縮していて俺としては複雑だ。そもそも俺は須佐井と一部の男子がウザいと思っていたがクラスの女子連中ほど男子を毛嫌いしてないし恨んでもいない。記憶が無いとはいえ俺も綺姫を勘違いして避けていた時も有ったから彼らの心情も理解は出来るからだ。
「天原さんと上手く行ったコツを教えてくれ……」
「安易に綺姫の話は出来ない、だが何か事情が有るなら言ってくれ」
そこで聞いた話は思った以上に情けなく同時に切実な男子学生の悩みだった。
「卒業まで彼女欲しい……」
「俺も……」
「モテたいんだ……」
普段なら一笑に付すような悩みだが気が変わった。理由は単純で目の前の男子の目が死んでいたからだ。その目は指名客が一人も付かない嬢やホストのようで夜の街で何日後かに行方不明になった者らを
「はぁ、参考程度なら少し話をしよう」
「「「ありがとう葦原!!」」」
そして十分後、俺は他人の話だと前置きして夜の町での体験談を話した。これが意外にも大ウケで話をしている内に一部の女子まで集まって来て気が付けば周りを囲まれていた。俺の学校生活で初めてだった。
「という訳なんだ綺姫」
「へ~、ふ~ん……そっかぁ、そうなんだぁ~」
その後、戻って来た綺姫に男女とも蜘蛛の子を散らすように退散させられ、俺の周りには誰も居なくなり今の話をしたが綺姫はジト目でご機嫌斜めだった。
「どうしたの?」
「別っに~、星明が皆と仲良いのは何の問題も無いけどね~」
その態度は明らかに問題有りとしか思えない。浅間や海上は居ないし困った。家なら強引に出来るが校内では下手な事は出来ないし何より今の俺はクラス中に注目されていて迂闊に動けない。
「綺姫、まさか妬いてる?」
「まさかじゃなくても妬いてますぅ~!! 私が居ない隙にさ」
綺姫が頬を膨らましてプイっとソッポを向くから俺は苦笑して抱き寄せると膝の上に強引に座らせた。学校では自粛していたが家では割としている事だ。
「きゃっ!? 星明これ禁止――――「今日はイヴだし、皆の参考にもなるだろ?」
「そ、それは、そうかも♪ 星明とアタシのラブラブな姿で皆に希望を!!」
何とかごまかせた。何人かは綺姫と俺が密着しただけで驚いて目線を少しズラしたりして席に逃げ帰った。だが男子諸君これくらい強引じゃなきゃダメだ。軽く頬にキスくらいは良いかも知れない。なにせ今日はイヴだ。
「そもそも草食系とは昨今の男の言い訳で――――「言い訳が何だって葦原?」
「「せ、先生……」」
いつの間にか後ろにいた工藤先生を前に俺と綺姫の声が綺麗にハモって最後は説教された。だから皆は急に逃げたのかと少し反省すると先生の号令でクラス全員が席に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます