第35話 新たな問題 その1
「いや、変じゃないけど……強いて言うなら駅前で買うのより出来立てで温かくて美味しかったかな」
「そ、そっか……星明は何でも美味しいって言ってくれるから無理してないかって思ってさ」
見ると星明は顔を少し赤くして頬をポリポリして照れている。それを見ていると何となく昔の尊男と似ている気がした。今と違って昔は優しくて今みたいに乱暴者じゃない大人しかった私が好きだった頃にソックリだった。
「ど、どうした? やっぱり何か変なことを……」
「ううん、少し気になっただけ!!」
一瞬、昔の尊男のように見えてドキドキした。最低だ私……今好きなのは星明なのに私を見捨てたような奴と似てるなんて目の前の星明に失礼だ。
「そうだ、実はネットで幾つかバイト情報も見てみたんだ」
「えっ!? わざわざ探してくれたの!?」
そしてパソコンの画面を見ると高校生でも安全なバイトばかりをピックアップしてくれていて二人でどれが良いかを確認したりしてる内に時間は過ぎて行く。
「コンビニバイトは意外とダメなのが多いからね、オーナー次第だから当たり外れが多い、特に若い男のオーナーはダメなのが多いんだ」
「そうなんだ、アタシの前のとこはお爺ちゃんとお婆ちゃんの二人だったから優しかったんだ……」
そんな風に話してその夜は別々の部屋で寝て寂しかった。それから数日後ついに追試の日が来た私は試験に臨んだ。朝から一気にやってもらい二日の日程にしてもらって何とか乗り越えたけど問題は追試を返された時に判明した。
◆
――――星明視点
「え? 学費が納入されてない?」
「ええ、正確には前期分は入ってるんだけど後期分が未払いなのよ、その……ご両親と連絡はまだ取れないのかしら?」
目の前の学年主任の話では綺姫の学費が支払われて無いらしい。そりゃそうだと俺は思いながら逆に不思議だった。そもそも私立の学費を払えていたのが不思議で綺姫の話では奨学金をもらっていた訳でも無いから謎だった。
「え~っと……その海外が、えっとぉ……」
「すいません先生、綺姫の両親は海外なのは相変わらずで夏休みの間で連絡を付けますので今回は……」
綺姫がボロを出しそうだから咄嗟に俺が答える。こういう場合は嘘を付けない彼女よりも俺の方が適任だ。
「そう、その言い辛いけど学費が支払われてないと……その、ね」
「ううっ……またお金かぁ……」
綺姫には悲しいくらい金銭問題が後を絶たない。決して本人がお金にルーズな訳でも無いし、むしろ節制しているのを数週間も一緒にいる俺はよく知っている。だがそれでも運命というか星の巡りが悪過ぎる。
「とにかく連絡が取れるように動きますので、その件は後日改めて連絡します。今日の所は支払いの用紙だけで、いかがですか先生?」
「ええ、分かったわ。でも君……葦原くん……よね?」
目の前の学年主任は曖昧に頷きながら俺の顔をまじまじと見て来る。幸いこの年齢層まで来ると俺でも反応しないから女教師といえど範囲外だから問題無い。だから俺は堂々と答えた。
「はい、そうですが何か問題が有りましたか先生?」
「私は一昨年、学年主任になるまでは英語の授業を受け持ってたのは覚えてる?」
「はい、自分の英語の授業も受け持ってらしたと記憶してますが……それが?」
この壮年の女性、おおよそ俺の勘では見た目が四十代後半の学年主任は俺が一年の時に英語の授業を受け持っていたのを記憶している。特に目立った事はしなかったはずだが何か有るのだろうか。
「え、ええ……その、この間も面談というか相談した時にも思ったのだけど、随分としっかりしたのね……君は物静かだったから」
「はぁ……」
「いいえ、とにかく同居の話も天原さんの親御さんが来てからキチンとお話しましょう、学費の件は夏休み明けまでに連絡をお願いね」
それだけ言うと学年主任は出て行った。ちなみに綺姫の追試は普通に合格で問題無く突破した。だが追試よりも今後のお金の問題だ。
◆
「そんでウチらに相談ってわけ?」
「うん……タマ、咲夜……何か良い方法ないかな」
「いやさアヤ、良い方法って言ったってさ~」
追試後にいつものように校門前で合流した俺たち四人は当たり前のように俺の部屋に戻って来た。そして先ほどの話をした二人の反応がこれだった。
「まあ当然だろうな」
「てか葦原ぁ、カレシなら金出せよタワマン住みっしょ?」
「ああ、それだが……俺が出すと言ったんだが……」
痛い出費だが出せない事も無い額だし最悪の場合、四門さんに頭を下げて融資を頼むという最終手段も取れる。他にも
「それはダメなの咲夜!! 絶対にダメ!!」
「へ? 何でよアヤ?」
俺も同じリアクションをしたから気持ちは分かるぞ浅間。だが綺姫は俺に迷惑をかけたくないと言い、自分で解決すると言い張ったから二人を呼んだのだ。
「あ~、だからウチら呼んだん? 葦原?」
「そういう事だ説得を頼めないか?」
人に貸しを作るなど本来なら俺はあまりしたくないが綺姫を説得すのが不可能だと思い知らされたから二人を頼る事にした。
「星明はアタシに甘過ぎるから、だから星明断ちだよ!!」
綺姫はドヤ顔でこっちを見て宣言した。だが、その顔すら俺は……いや、止めておこう俺のこの感情は一時のものなはずだから……。
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