第34話 協力者たち その3


「あ、あの……工藤警視のお義姉さん? 自分は大丈夫ですので」


「そう? 優人くんって意外と強引だから何か言われたら帰りに言ってね、この子のお兄さんと私からお説教しておくから」


 そう言ってウインクすると警視のお義姉さんは伝票を置いて戻って行った。


「悪いね……梨香さんと兄さんには弱くてね」


「いえ……それより事件の守秘義務の件は分かりました」


 苦笑しながら俺を見る工藤警視から圧が少なくなった感じがした。だから俺も言葉遊びをしている場合ではないと思い先をうながす。


「ああ助かるよ、じゃあ……これを見て欲しい」


 スマホで幾つかの画像を見せてもらうがピンと来ず次に資料の書類を渡される。全て捜査資料だと聞かされて驚いた。


「綺姫の家なのは分かりますけど……事件当時のですか?」


「そうだよ、君は家には?」


 事件後に一度だけ入ったと言うと工藤警視は一瞬だけ不思議そうな顔をした後、すぐにスマホをスワイプして別な画像を見せた。


「これは……何ですか? 壁に大きな傷、一体なにが?」


「ああ、僕が捜査に来たのはこれが見つかったからなんだ」


 そこに写っていたのは大きな傷跡としか言えない何かだった。いかにも野生動物が襲いましたと言わんばかりで熊でも来たと言われても違和感は無いもので俺が入った時には、こんな傷は存在してなかった。


「こんな傷、野生動物でも……もっと別な、人為的なものですか?」


「その通り、まあ目下捜査中さ、それと今日の本題はこれだけじゃない」


 そう言って今度は捜査資料と思しき書類を出してきた。工藤警視の話では下着泥棒事件の資料らしい。それの解説をしながら色々と話をしてくれた。


「え? 犯人の指紋や痕跡が見つからない?」


「ああ、荒らされた部屋から怪しい人間の指紋や痕跡は見つかってないんだ」


 これも関係者に聞いただけだと前置きして、犯人は痕跡を消すのが上手い相手のようだから捜査は難航するかもと警視は語った。


「実は工藤警視、綺姫の家には八岐金融の二人も入ってるんです」


「へえ、それは知らない話だ詳しく聞かせてくれるかな?」


 そこで俺は綺姫の両親の借金の件で二人は最近、家に入ったことが有ると曖昧に説明する。それ以上は知らないと話すと情報の提供に感謝するとだけ言われた。


「ただ、その話は天原さんはしなかったみたいだけど?」


「借金取りが怖かったみたいで話せなかったのかと……」


「ああ、なるほど確かに普通の高校生ならそうか」


 その後も上手く話をごまかしていると最後に工藤警視は助言だと俺を見て言った。


「僕の推測では犯人は二人、いや二組いると思ってる。だから君には気を付けて天原さんを見ていて欲しい、君の家の周囲の監視は明日から完全に離れるらしい」


「そうなんですか……分かりました助言、感謝します」


「こう見えても警察だからね、じゃあ家の近くまで送るよ」


 その後の車内でも事件についての考察や簡単な雑談をしていると帰りは行きの半分くらいの時間で帰って来れた。工藤警視に改めて礼を言うと俺は綺姫の待っている家に帰宅した。




「おかえり星明!!」


「うん、ただいま……二人は?」


「何か用事が有るからって今日は少し話したら帰っちゃった」


 だから今日は俺が帰って来るまでバイト探しと追試の勉強をしていたと言う。ちなみに四門さんからのバイトは二件とも既に終わらせて先日バイト代が入ったはずだ。


「そんなに急がなくても……」


「そうはいかないよ、星明に頼ってばっかじゃダメだし!!」


 そんな話をしている間にも鍋で何かを作っているようで覗き込むと中身はホワイトシチューでいい匂いがする。


「ん? そうだ、味見する?」


「え? まだ作ってる段階で――――「いいから口開けて、はいア~ン」


 綺姫はシチューをスプーンですくうと俺の口元まで持ってきてニコっと笑う。卑怯だ……こんなの可愛すぎる。


「あ~ん……あふっ、うまい……」


「そっか、じゃあ味付けはこんなんでいいかな、もう少し待っててね~」


 そのまま手際よく夕飯の用意をしていくと何事も無かったかのような後ろ姿を見ると俺だけがドギマギしたようで少し悔しい気がする。やはり陽キャはこんなこと当たり前にするんだろうか。



――――綺姫視点


 パソコンでバイトを始めた星明の後姿を見ながら私は自分の顔が真っ赤になっているのを自覚する。急いで後ろを向いたからバレてないと思うけど好きな男の子にあんな事をしたのは初だ。そもそも私の手作り料理を美味しいって食べてくれた男子は星明が初めてだった。


「……今日はあんまり動きが無いか……ふむ」


 何個もモニターを見ながら頷いたり、たまにキーボードを叩いたりする姿は様になっているし見てて落ち着く。


「アタシの料理喜んで食べてくれたのなんて家族以外では……初めてだし」


 星明と違って尊男は私の作る料理を採点したり文句も多かった。だけどそれも半分は諦めていた。なぜなら尊男のお母さんは料理研究家で本を出しているレベルだからで尊男も舌が肥えていたから。


「星明は無理してないのかな……」


 それに料理には少しトラウマが有った。前に尊男にお弁当を作った時に帰って来た返事はママの方が美味いという言葉で更に、その母親からは今後は尊男に弁当なんて作らないようにと言われた事だ。言われたその日は悔しくて泣いた。


「無理って、どうしたの綺姫?」


「あ、ううん……そのシチューの味付け変じゃなかったかなって、さ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る