第33話 協力者たち その2
俺がポツリと呟くと綺姫が慌てて水を取って来ると言って席を立った。どうしたのかと思っていると残った二人の視線が痛い。
「今のガチなん葦原?」
「どういう意味だ?」
「いやだからアヤが女神だって話」
それを言われると照れてフッと口元が緩んでしまう。不思議なもので綺姫がいるだけで俺の心は安らいでいる気がする。ずっと昔、両親の離婚も何も無い時に感じた安らぎに似た懐かしい感覚だ。
「もちろんだ、俺はとある理由であまり人を近付けないようにしてるけど綺姫が居てくれると落ち着いて安心する……ぜんぶ彼女のお陰だ」
「あ~、無自覚じゃん、タチ悪いわこれ」
海上が呆れた感じの表情を浮かべる横で浅間が俺を見て言った。その目に敵意は無いが海上と同じような表情をしていて最近は会う度にこの顔をしている気がする。
「あ~メンドイ!! だからアヤはっ――――「咲夜ストップ!! わるい葦原、ウチらにも秘密が有る、これでイーブンな?」
「分かった、俺も全部話せない以上は当然か……」
何か隠している。それが分かっただけでも収穫だ。心に微かに痛みが走るが気にしている場合じゃない。
「あんさ葦原さ、この際ウチらの事はどうでも良いけどアヤは好きであんたに隠し事してるわけじゃないから、そこんとこ分かれよ?」
「ああ、綺姫のことは分かっているつもりだ、そして彼女を守れるのが今は俺だけだというのもな」
そうだ今は俺しか彼女の傍に居られない。ならば俺のする事は一つだ……たとえ情けなくて精神病持ちでも、それを言い訳にして逃げるわけにはいかない。
「ふ~ん、度胸あんだ……ただの陰キャってわけじゃないか」
「ただの陰キャだ、恩と金に少しうるさいだけのな」
俺が言うと海上がニヤリと笑って頷くと今俺に陰キャと言ったのは黙っておいてくれと頼まれると構わないと言って貸し一つだと笑った。
「ああ、じゃあツケといて」
「まあ信用しといてあげる、タカよりはマシだしアンタ」
俺と海上のやり取りが気に入ったようで浅間も途中から俺を下に見るような発言をしなくなり自然と話が出来た。戻った綺姫が驚いた後に少しムッとした表情に見えたが俺の気のせいだろう。なお、その夜は綺姫から強引に誘われ朝まで致した結果、翌日の補習に遅刻しそうになってしまった。
◆
「あっと言う間に八月だね星明!!」
あれから一週間、すっかり俺は綺姫との日々が当たり前になっていた。例の二人も高確率で俺の部屋に入り浸って大変と言えば大変だ。
「そうだ綺姫、悪いんだけど今日ジローさんに呼ばれてて帰りは二人と行ってくれるかな?」
「それはいいけど……ま、まさか夜のバイト再開とかじゃないよね?」
「違うよ、株とかの方の話だから、大丈夫」
何が大丈夫なのか自分で言ってて分からないけど当の綺姫が大丈夫だねと言うと浅間たちと合流していた。その帰りを見守ったタイミングで後ろから声がかけられる。
「待たせたね葦原くん」
「いえ……お気になさらず工藤警視」
実は綺姫に嘘を付いた。ジローさんからの呼び出しなんて無い。有ったのはSIGNでの工藤警視からの通知だった。綺姫の事件で新しい事実が分かったから話をしたいと言って来たのだ。
「じゃあ行きましょう」
「ああ、どこか指定の場所は有る?」
「その、特に詳しくないので」
「分かった、じゃあ彼女が来ない場所がいいよね? となると……」
一時間後、俺は工藤警視の車で県をまたいで別の街に来た。そこの駅前の喫茶店に入る。名前は『しゃいにんぐ』と平仮名で
「工藤警視、随分と遠くまで来ましたが、ここは?」
「知り合いのやっている喫茶店さ、あれ? 今日は梨香
カランとベルを鳴らして店内に入ると三十代くらいの美女が出迎えてくれた。夜の街の女性に勝るとも劣らない美貌で俺の悪い病気が出ないか不安になる。
「あら優人くん? しばらく出張で戻れないって聞いてたけど……うちの子達も叔父さんに会いたいって言ってたから今度は顔出してね」
「はい、少し仕事で戻りました、奥の席をマスターに使うと言ってもらえますか? ああ葦原くん、この人は僕の兄の奥さんの工藤梨香さん」
なるほど、だから姉さんと言っていたのか……義理の姉つまり兄嫁ってやつか。今の話だと工藤警視には甥っ子や姪っ子がいるみたいだな。
「ど、どうも……」
「ええ、いらっしゃいませ……では、ご案内しますね」
その後にマスターにも簡単に挨拶したが何というか気迫が凄い人だった。素人でも分かるほど危険な感じのする人だったが、今はそれよりも綺姫の事件の話だ。
◆
「まず今から話す事は捜査関係者しか知らないから漏らさないでね」
「じゃあ話さないで欲しいんですけど」
「手厳しいね……でも天原さんが関わるなら、どう?」
そう言われると弱い。綺姫を守れるのは今は俺だけなのだからと覚悟決めて頷いた時だった。注文のコーヒーと紅茶が来た。
「こら優人くん、子供をイジメないの」
「梨香さん、今のは軽いジョークで」
笑顔で僕や綺姫を追い詰めていた工藤警視だったけど今は笑顔が引き攣っている。やはり義理とはいえ姉は強いようだ。
「高校生相手にこんなことやってるなら……あの人に言うわよ?」
「えっ、兄さんには止めて下さい、バレたら僕が逆に説教されるから!!」
しかも実のお兄さんは更に怖い存在みたいで思わず苦笑してしまった。
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