第32話 協力者たち その1


「と、いうわけで新しいバイト探しだよ!!」


「それはいいんだけど……なんで二人も?」


 今日は夏休み二日目、あれから数日が経ち既に学校は夏休みだが俺と綺姫は補習を受け終わり図書室に来ると先に海上と浅間の二人が待っていた。


「ウチらが一緒じゃダメなわけ~?」


「アヤとはカレカノの振りでしょ? じゃあ、い~じゃん」


 こんな感じで俺たちの関係がバレた日から二人とスマホで連絡を取り合っているらしく今日のことも話していたみたいだ。ちなみに補習を受けていたのは俺たち二人だけだ。


「それもそうか……」


「星明、油断しちゃダメ!! 二人以外には恋人的な雰囲気を出さなきゃ!!」


「なるほど……たしかに外部の協力者がいた方が助かるか、綺姫のお陰だ」


 俺は友達が居ないから助かると自嘲気味に笑うと綺姫は少しだけ憤慨したように俺の腕を取る。


「これからだよ!! そ、それにアタシは星明のカノ……パートナーだし!!」


「そっか……ありがとう」


 俺達がこんな感じで話していると溜息が二つ聞こえてくる。もちろん海上と浅間だ。見た限りで呆れた様子だが何か問題が有ったのだろうか?


「あ~、こりゃガチじゃん焦れってぇ~」


「ありえね~、有るんだこういうのって……はぁ」


 そして浅間に限っては二度目の溜息だ。綺姫は慌てて「やめて~」と照れながら騒いでいる。幸い今日は図書室には司書すらいないから騒いでも大丈夫だが職員室には教師はいるのでバレかねないと冷や冷やする。


「そうだバイトといえば綺姫、例のレビューの依頼が残ってるんだ」


「えっ!? ちなみに何件?」


「あと二つ、期限は来週までで支払いは月末に綺姫の口座に振り込むように四門さんには言っておいたから」


 月末まであと一週間弱だから頑張ろうと気合を入れた綺姫だったが、それを聞いていた海上が口を開いた。


「レビューのバイトなんて安いんじゃね? 大丈夫なん?」


「えっと……星明?」


「大丈夫、紹介があの人だから、それなりの報酬だから安心さ」


 金額を伝えるとそんなもんかと海上は言ったが綺姫はコンビニバイト四日分以上だと驚いていた。実はこの金額は俺の分も入れている。だから実際は一人分の日給は半分だが俺は黙って綺姫に全て渡す予定だ。


「てかレビューって何の?」


「ラブホの実体験レビューだよ~」


 何の気なしに言った綺姫の一言は学校の図書室では滅多に出ない単語だった。さすがの海上も目が点になり浅間は固まった。そして当然キレた……もちろん俺にだ。


「ぶっ~!? あんたアヤに何てことやらせてんのよ!!」


「っ!? 離れろ!?」


 文句を言おうと近付いた浅間が俺の一喝で止まる。少しキツく言ったからか彼女は「悪い」とだけ言って離れた。今までで一番聞き分けが良くて正直助かった。最近は比較的抑えられているが暴走する可能性はゼロじゃない。


「つまり、バイトしつつヤッたの、ア~ヤ?」


「う、うん……だって三時間も有ったし」


 俺達の一色触発の状況も綺姫と海上の二人はマイペースに流していた。いや、あえてのスルーなのかもしれない。これが陽キャかと思わず感心してしまう。


「どこのホテル? 今度カレシ誘うから、教えな~」


 その後は海上が綺姫をからかって浅間がツッコミを入れるという教室で見たことのある光景を見せられ三人の仲の良さを改めて実感させられる。だが俺は今一瞬だけ違和感を感じたのだが最後まで何か分からなかった。




 それからも綺姫の提案で何日か二人を家に招く事になった。綺姫たっての願いを俺が断ることなど出来ない。


「う~ん、塩パスタ以外の物を食べる日が多くて幸せだよ~」


「アヤの話……半分以上は盛ってるって思ったのにガチだったなんて」


 そして二人に夕食を作りたいそうで俺は外で時間でも潰そうとしたら四人でと強く言われてしまった。特に断る理由も無いし綺姫の手作りは美味しいから同席することにして今に至る。


「ウチは何となく分かってたけどね、てかアヤは嘘付かないし基本」


 海上と浅間が綺姫の話を聞いている間に俺は綺姫特製のミートソーススパゲティを食べていた。旨い。本人は材料をケチらずに料理できて楽しいと話していたから任せていたけど本当に上手だ。


「星明……ど~お?」


「おいしい、この間の親子丼とか昨日の野菜炒めも手作りなんて久しぶりだったから凄く感動した」


 お金がもったいないと最近は綺姫が朝晩と節約メニューを作ってくれて昼も弁当という俺の食生活は数週間前とは劇的に変化していた。


「良かったぁ……あんま感想とか言ってくれないから不安でさ」


「あんさ葦原、彼女なら言ってあげなきゃダメなの分かんね?」


 そういうものかと俺が疑問に思ってると浅間がイラっとした顔で俺を見ていた。やはり俺とコイツは相性が悪いみたいだ。


「綺姫は彼女のフリ……いや、確かにバレないように普段から、なるほど理解した」


「いや、そうじゃなくて……う~ん、こんのめ……」


 なぜかブスッとしたまま浅間はミートソースを男らしくガツガツ食い出す。何か怒らせるような事を言っただろうかと綺姫と海上を見るが二人は苦笑するだけだった。


「こりゃ前途多難だ、アヤも……」


「ううっ、言わないでよタマ~」


 海上の言葉に反応した綺姫が何を言わないで欲しいのか謎だ。あと今さら気付いたが綺姫といると他の女子のことが気にならなくなって発作が抑えられている気がする。浅間に欲情せず拒絶できたのも綺姫のお陰だと思う。


「綺姫は俺にとっては幸運の女神なのか?」

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