第四章「自覚する二人のカンケイ」

第31話 バレちゃった その3

――――綺姫視点


「――――以上が話せる全てで警察も入ってる話だから綺姫の周囲は依然危険だ。そこでセキュリティもしっかりしてる俺の部屋に彼女は居るし、さっき話した病気の治療をしやすいのも理由の一つだ」


「と、いうわけだから分かった二人とも?」


 星明の説明は分かりやすく丁寧で私も一緒になって説明する。二人とも頷いたり納得したように相槌を打ってるから大丈夫だと思っていたら咲夜がビスケットを齧りながら唐突に言った。


「いやさ、あんた普通に喋れんのね?」


「ほんとそれ教室じゃ喋らないから、葦原って」


 普段の星明は教室では症状のせいで基本的に喋らないし人との関わりを避けているんだった。だから二人は本当の星明を知らないんだ。


「ふふん、星明は本当は凄いんだよ!!」(特に夜がね……)


「俺は別に大した人間じゃない……あ、四門さんから連絡だ。少し外で電話してくるよ、何か有ったらスマホで呼んで」


「分かった、下のエントランスだね? いってらっしゃい!!」


 それに照れたように頷く星明は髪型を戻して部屋を出て行った。その様子を後ろから見ていた二人は星明が出て行くと同時に一気に私に詰め寄って来た。もう怒涛の勢いで一苦労だ。


「じゃあ、本当に大丈夫なん?」


「だから大丈夫、星明は凄い紳士だし」


 だから改めて二人に星明は良い人で安心出来ると話した。でも話を聞いてたタマが不意に言った。


「へ~、紳士って恋人でもない女も抱くんだ~?」


「えっ……そ、それは……」


 二人には嘘をつきたくないから恋人のフリの事も話した。もちろん星明にも了承済みだけど治療内容については話してない。何でいきなり私と星明がシてるのがバレたのかと私は焦った。


「何言ってんのタマ、こいつら病気の関係で恋人のフリしてるだけっしょ?」


「ソウダヨ……星明とエッチなんて……シテナイヨ~」


「ウチは抱くって言っただけなんだけど?」


 抱くっていうのは私が星明に抱き着いた時の話だと言われ更にニヤニヤされる。こ、これは勘付いている……で、でも上手くごまかさないとマズイ。


「いやいやタマあんな陰キャは一生童貞でセックスも下手クソ――――」


「上手だし!! 星明はすっごくアタシを気持ちよくしてくれたし!! あっ……」


 咲夜の言葉に反応して大声で叫んでいた。星明の言う事は正しかった私も後先考えないで口が先に出るタイプだったよ。


「ナイス咲夜~、ほんとアヤは素直で助かる~」


「タマ……な、なんでアタシと星明が毎晩シてるのが分かったの!?」


「ま、毎晩!? ちょ……マジ?」


 また余計なことを……こ、これが噂に聞く誘導尋問ってやつだ。警察で工藤さんに聞いたし間違いない。見事に引っかかってしまった。おまけに咲夜にもバレた。


「あ~、思った以上ね……まあ、あれよ匂いよ、ニ・オ・イ」


「に、匂い?」


「葦原って、たま~に女の匂いさせて学校来るから前から怪しかったんよ、で、週明けからアヤと同じ匂いさせて来たから絶対に何か関係あると思った」


 そんな私が気付く前からなのかと感心した。でも確かに星明がタマにからまれるようになったと言い出したのは最近だ。


「あ、それで学校で何度も葦原に話しかけたん?」


「そ、そうだ咲夜!! 星明のこと陰キャとかアッシーとか言うの止めてあげて、これはカノジョ……の、振りしてるアタシからのお願い!!」


「いや、カノジョの振りしてるだけのアヤに何で……ちっ、分かったよ」


 よし、これで星明のストレスが大幅に減る。やったよ私、星明の役に立てた。


「そんで、アヤ、本音は?」


「いつか本当の彼女になりたいから今の内から……あっ、また誘導尋問!?」


 またしてもタマに謀られて私は本音を言ってしまった。二人に私の計画がバレちゃった。



――――星明視点


「はぁ、四門さんのバイトを忘れてた……」


 テストが終わったのなら残りのレビューをしろと急かす電話だった。そういえば前回のバイトは綺姫がノリノリだったのを思い出す。


「あっ、星明おかえり!!」


「ただいま綺姫……二人とは話せた?」


「え~っと、うん、話せたよ……色々と」


 綺姫が言うと後ろの二人は変わらず俺を好奇な目で見て来るが浅間の表情が少しだけやわらいでいて怒りよりも諦め顔になっているように見える。


「ま、ウチらはアヤの無事が分かればいいんだよ」


「葦原んとこなのは気に食わないけど他に良い場所も無いしね」


 どうやら説得は成功したらしい。だが綺姫の顔色が少し悪い気がするから気になる。何か有ったのだろうか。


「そうか……それで夏休みの話は?」


「うん、したよ……それでアタシ二人に言われて気付いた事があってさ」


「気付いたこと?」


「うん……アタシ、連れ去られてからバイト勝手に休んでる扱いだった」


 どうやら俺がいない間に綺姫を探していた時の話をしたらしい。二人は綺姫がバイトをしていたコンビニに探しに行った時の話をして、そこで自分が無断欠勤していたのを思い出したそうだ。


「店長は怒ってなかったけど他のバイトがキレてたよ」


 浅間の話では思った以上に事態は深刻で二人は綺姫の家の場所を聞こうにも聞けない状況で怒っていたらしく退散したという話だった。


「あ~……どうしよ、明日謝りに行かなきゃ」


 数日後、綺姫はバイトをクビになった。店長は残っていいと言ってくれたらしいが同僚との関係改善が不可能で謝って辞めてきたそうだ。その晩、泣きそうな彼女を慰めるため自然と抱き締めていた。

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