第30話 バレちゃった その2


「アヤ!! 今までどこ行ってたのよ~!! 連絡くらいしろし!!」


 浅間が大声を出して綺姫に抱き着いていた。店内に人は少ないが騒げば当然のように目立つ。だが俺が動く前に海上が周りに頭を下げ「サーセン」と言って場は収まっていた。


「さ、咲夜……久しぶり~」


「久しぶり~じゃないっ!! すっごい心配した!!」


「咲夜、静かにしな、またウチが頭下げることになんだよ」


 また騒いで注目されると今度は俺が頭を下げる。それをニヤニヤしながら海上が見ていて逆に浅間の方は面白くなさそうに俺を睨みつけてくるから非常に困る。


「まあ二人とも座ろ? ね?」


 綺姫の言葉に二人が納得すると彼女は素早く立ち上がり俺の隣に移動して来た。そのままテーブルで対面する形で俺の前には海上が綺姫の前に浅間が座った。


「さ~て色々と楽しそうな状況だし話してくんね、アヤ?」


「う、うん……そのぉ、星明どうしよ?」


 困惑したままの綺姫と顔を見合わせると俺に任せると目が言っている。だから俺が説明をすることにした。不安だが仕方ない。


「じゃあ――――「お~っと葦原は黙ってくれない?」


 だが俺の機先を制したのは海上だった。ニヤリと笑って面白そうに笑っている。敵意は無さそうだが完全にこちらで遊んでいる感じだ。


「そうよ陰キャは黙ってな!!」


「咲夜!! 星明に酷いこと言わないで!!」


 反対に浅間の方は俺の方に完全に敵対心剥き出しだった。だけど今の言葉に真っ先に反応したのは綺姫で浅間に噛み付いた。


「なっ、アヤ何で……」


「アタシの大事な人に酷いこと言わないでよ、友達でしょアタシ達」


「ほほぉ~、これは思った以上に……アヤの方もなんだ」


 だが俺たちが次の言葉を発する前にテーブル前に来た男性がにこやかな笑みを浮かべながら額をピクピクさせ俺たちに向けて口を開く。


「お客様……大っ変、申し訳ございませんが!! 他のお客様にご迷惑ですので」


 結局その後も浅間が俺に二度も噛み付いて騒いだせいで全員で半強制的に退店させられ場所を移す事になってしまった。




「二人は座ってて、星明、昨日買ったビスケット出していい?」


「綺姫に任せるよ、えっと何か飲み物を……」


「大丈夫、アタシが用意するから座ってて」


 大声を多少出しても迷惑がかからず他人の目も気にしない場所、そうなると俺のマンションくらいしか候補がなかった。


「てかタワマン住みとかアッシー凄くね?」


「ウチも驚いた二人ともラブラブじゃ~ん」


 驚いてるポイントがそれぞれ違うが店にいた時より落ち着いたようだ。今なら理性的に話が出来そうだと口を開こうとするが先に綺姫が喋り出す。


「え~、そう見える~? まだ一緒に住んでから三日なんだけどね~」


「なんつ~か、アヤがそんな顔してんの初めて見たかも」


「ああ、なんか……新婚生活? みたいな感じ」


 浅間は俺と綺姫を交互に見ながら混乱した様子だが先ほどの敵対的な態度は鳴りを潜め本当に困惑しているようだ。反対に海上は呆れていた。


「そ、そんな、まだ早いよ~高校は卒業したいし~」


「あ、綺姫それくらいで……な?」


「あっ、うん……さっき話した感じで二人には大体の事情を話したいんだ」


「それは……いや、分かった綺姫の判断を尊重する」


 彼女が話したいのなら止める資格は俺には無い。だから了承したら彼女はまだ何か有るらしく俺の方を見てニヤリと笑って言った。


「でも、その前にさ、星明の本当の姿を見せてあげてよ!! 夜モード!!」


「夜モード……ああ、髪型か分かった、整えて来る」



――――綺姫視点


「ど~よ二人とも!!」


「いや何でアヤがドヤ顔してんのよ、驚いたけどさ」


「こりゃ随分と化けたね……」


 星明は顔を隠さなければ普通にカッコいいし眼も優しくてエッチも上手な私の運命の人だ。咲夜とタマの驚いた顔を見れて私も思わず星明に抱き着くと軽く肩を抱き返してくれて大変満足です。


「あ、綺姫もういいかな?」


「うん、夜しか見れないからレアなんだよね~、じゃ二人に話すね」


 星明から離れると私は家に戻るまでの間に二人で話した内容を思い出す。それは咲夜とタマに秘密にする内容で私達の出会いと星明の病気の具体的な中身、あと夜の街の細かい話については隠して、それ以外は話すことになった。


「はぁ!? それってマジなのアヤ!?」


「まあ、タカならやりかねないね……学校で挙動不審だったから怪しいとは思ってたけどさ」


 だから私の両親の借金のこと、無理やり連れて行かれた先で星明に助けられたこと、どうして二人で暮らしているかの経緯も話した。その際に須佐井に見捨てられた話もしていた。


「で? 助けたから二人は付き合ってるって話なん?」


「あっ、えっと……ち、違うんだ、アタシは星明に助けてもらったんだけどタダって訳じゃなくて」


「はぁっ!? 陰キャ、テメーまさかアヤの弱味に付け込んで!!」


「違う、違うから咲夜!! 星明の病気の治療を手伝ってるの!!」


 立ち上がって星明に掴みかかろうとした咲夜を頑張って止める。どうしてだろうか咲夜はタマと違って星明に凄いキツく当たってる。普段は悪い子じゃないのに。


「その病気ってのは教えてもらえない感じ?」


「うん、ごめんタマ……ちょっと特殊だから、ね?」


「そこは詮索しないでくれると助かる」


 ここで星明に大丈夫か目で合図する。なんか余計なことを喋ってないか不安だったけど大丈夫そうだ。いざとなったら助け船を出してくれるし、これなら安心して説明ができる。


「いやさアヤは大丈夫なん? 葦原でさ」


「そうだよ……アッシー、じゃなくて葦原と同居なんて」


「うん!! 大丈夫だよ!!」


 やっぱり咲夜は不満が有るみたい。どうしようと私はまた星明を見る。そこで頷くと星明は交代しようと言って強引に話を始めた。

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