第29話 バレちゃった その1
「綺姫……ありがとう君は……」
やっぱり優しいねと言おうとしたが素直に言えなかった。その優しさは金の対価だと冷静な俺が心の中で
「え? な~に」
「い、いや……そうだ!! 学校で聞いたんだ、俺への陰キャイジりを止めようとしてくれてたこと、ありがとう」
テスト期間中に海上と須佐井の言い合いを思い出し綺姫が須佐井に止めるように注意していたのを知って俺は驚きと申し訳なさを感じていた。
「あっ、タマが言ったの? アイツ……須佐井が星明のことターゲットにしようって何回も言ってて止めてって言っても聞いてくれなくて……」
「俺は綺姫も須佐井と一緒に俺をイジって楽しんでるんだと思ってた」
俺が綺姫と夜の店で出会った時にイラっとしてた理由の一つはこれで風俗落ちしたと思った時に冷たくした理由も、これが大部分を占めていた。
「仕方ないよ……だって一応は幼馴染だし一緒に見られるよ、学校とかで二人セットだったし、しかもアタシおまけ扱いでさ、小さい頃は違ったんだけどね」
「でも本当は綺姫が裏からサポートしてた、違う?」
綺姫と一緒に過ごす中で分かったのは彼女は尽くしてくれる女の子だということだ。世話焼きで周りに気を配り常に全体を見て困っている人に手を差し伸べていて俺とは真逆な生き方をしていた。
「サポートって、ただ困ってそうだな~って声をかけただけで」
「でもそれに須佐井は甘えてた……いやクラス全体も」
今ので俺の中での推論が確信に変わった。綺姫が居なくなったクラスは今や大混乱だ。特に須佐井と浅間は何度もぶつかってクラスの雰囲気は最悪と言っていい。だが綺姫がいたら違ったはずだ。
「じゃあアタシが居ないからクラスで揉め事が起きちゃった?」
「違う、綺姫に面倒な人間関係の調整を押し付けてたんだ……ちゃんとクラスを見るようになって分かった」
俺はこの一週間でクラスに目を向けるようになって今さら気付いたが恐らくクラスの中では暗黙の了解だった可能性が高い。そして仲の良いメンバー、特に幼馴染の須佐井は気付かずに綺姫に頼っていたのだろう。
「そうかな、アタシそんな難しいこと考えてなかった……ただ学校では楽しく過ごしたいって思ってたから」
家に帰るとバイトか家事で両親は二人とも共働きで毎日がギリギリだったそうだ。俺の中ではキラキラした陽キャそのもので輝いて見えていたけど実態は違った。
「それは、やっぱり須佐井が……いたから?」
「う~ん……昔はそうだったかも、でも、あいつ変わっちゃって」
須佐井も小さい頃は大人しく乱暴者ではなかったらしい。綺姫の覚えている限り自分が引っ越して来てから変わったそうだ。柔道を習い始めて自信を付けたからだろうと話していたが少し気になった。
「そういえば借金が原因で引っ越して来たんだよね」
「う、うん……父さんの一回目の借金が原因、それでお爺ちゃんに返してもらったんだけど、その後お爺ちゃんも死んじゃって……」
俺の実家の話を打ち明けてから自然と綺姫と互いの過去の話をすることが増えていた。俺も綺姫も引っ越してこの街に来たから共通の話題も多かった。
「そうだったんだ……ごめん無神経で」
「いいよ気にしないで、それより明日の話しよ?」
「そうか、明日は――――」
そして明日のために口裏を合わせる会議だ。これは頻繁にやっている。なんせ俺たち二人は周囲に嘘をつき続けている共犯者だ。夜の街に対する嘘、学校側に対する嘘、ウソウソウソと噓だらけだ。
(それと自分の思いに嘘を付いてるんだと思う……)
たまにチクりと俺の中に残った
「えっと星明?」
「ああ、それで問題無いよ卒業まで逃げ切れば俺たちの勝ちさ」
明日の話し合いで教師陣が色々としつこいようなら俺に考えが有るから大丈夫だと答える。今さら他人を
「大丈夫かな……アタシここにずっと居たいよ」
「ああ、もちろん!! いつまでも居て欲しい」(君が嫌になるまでは……)
「う、うん……分かった!!」
その日は警察からも学校からも連絡が無く俺達は明日に備えることが出来た。そして翌日、学校での話し合いも全て思い通りに終わった。
◆
「でも凄かったよ!! 先生に『同棲がダメなら先生の家で俺の綺姫を守ってくれ、それが出来ないなら大事な彼女は俺が守ります!!』って……えへへ」
綺姫は大変ご機嫌なのだがこれには理由が有る。俺は頑張ったんだ。
「少し臭すぎたような……綺姫の言う通りに例のマンガを参考にしたんだけど」
「最高だった!! 大満足の出来だったよ星明~!!」
俺と綺姫は学校での話し合いを終え駅前のファミレスで反省会をしていた。今の会話で分かるように昨日の成果は有った。強引だったが綺姫との同棲を含めた全ての問題は無事に解決した。
「だけど試験のことはごめん、八月の頭まで夏休みは無しになって」
「仕方ないよ……テスト全部休んじゃったし」
「でも大丈夫、試験以外の補習には俺も参加するから」
そう言うと綺姫は夏休み中は二人だけの授業で楽しみと言って笑顔を向けてくれて思わず俺も苦笑する。そんな風に油断して背後の気配に欠片も気付けなかった。
「へ~、その辺ウチらにも詳しく話してくんない、ア~ヤ?」
俺が慌てて振り返ると後ろにはニヤニヤした顔の海上と顔を真っ赤にした浅間が俺達を見ていた。
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