第28話 変えて行く日常 その2


「では、そういうことで……お話は以上です」


 俺は、それだけだけ言うと荷物をまとめ退室の準備を始める。俺の本当の姿を見た担任と学年主任そして生徒指導担当の教師の男女三名は頷いて了承の意を示した。


「ああ、だが驚いたよ葦原、お前がこんな性格だなんて」


「そうだな君がまさかね……」


 二日前までは路肩の石程度の存在だと思っていた生徒が豹変したら驚くのも当然だろう。俺はそう思っていたが教師陣は違ったようだ。


「恋は人を変えるからね~、天原を助けるためにご実家に頼むとは」


「そうですね先輩、俺はてっきり天原は須佐井と付き合ってるとばかり……」


 担任と生徒指導の二人が今話した通り俺は嘘を付いて現在の状況を説明した。そもそも学校側には警察から綺姫のことは既に報告済みで事件について大体の内容が伝えられていたから俺はそれに合わせ話をねつ造した。


「お二人とも、生徒とはいえ詮索せんさくは程々に、しかも今の天原さんは事件の被害者でご両親も海外で連絡が取れない状況なんですから、それより葦原くん、明日は天原さんは来れるの?」


 今この場で唯一の女性で学年主任の大月先生が語った内容が俺がかたった内容だ。綺姫の話は俺が全てでっち上げた。時間稼ぎにしかならないから明日までに綺姫と話し合わなくてはならない。


「はい、彼女の試験のことも含め他にも先生方に相談が有るそうです」


「分かりました、テスト休みを選んだのも理由が有るのね?」


「はい、おっしゃる通りです」


 今日、綺姫を休ませたのは取り調べで疲れている彼女を休ませたかっただけだ。しかし目の前の教師陣に話す必要は無い。その辺りも綺姫と二人で学校側の対応を見て決めようと話し合い済みだ。


「分かりました……警察からも言われてますからね、では二学期まで天原さんのことは関係者以外にはオフレコで、この件を漏らした場合は分かってますね?」


 学年主任の彼女が強く念を押すように二人の男性教諭に言うと頷いていた。良くも悪くも大月先生は信用出来そうだと思い進路指導室を後にする。しかし部屋を出たタイミングで俺の行動を読んでいるかのように待っている人間がいた。




「よっす~!! お疲れ葦原~」


「……海上、さん?」


 またこの女かと内心イラっとしたが顔には出さないように気を付ける。まさかとは思うが海上は俺を疑っているのだろうか。そんな気がしてならない動きだ。


「いやさ呼び出しとか珍しくない? だって葦原って、ふつ~じゃん?」


「少し進路の話で……」


「へ~、進路相談に学年主任まで付いて来るなんて大物じゃ~ん」


 教室のドアのガラスの部分から中を見てニヤニヤする海上を見て目の前の女の目的を探ろうと思考を働かせる。この女は本物のギャルだから厄介だ。それに近い。


「たまたま用が有ったみたいで……じゃあ急いでるから」


「ま~待ちな、あのさSIGNのID教えたのに連絡無いじゃ~ん、寂しいよ」


 急に近寄って来て顔が至近距離で形の良い唇が動くのにドキドキする。最近は綺姫と四六時中ずっと一緒にいるから忘れていたが女がそばに近寄ると危険だ。俺は咄嗟に距離を取った。


「っ!? はぁ、はぁ……ごめん、急いでるんだ!!」


 そう言って全力で駆け出す。急接近されて焦ったのも有るが彼女は危険だと直感で本能が叫んでいた。だから俺は全力で逃げ出した。


「へえ、そっか……まさかとは思ったけど当たりかも」


 そんな呟きにも俺は止まらず途中で誰かに声をかけられた気もしたが完全無視して昇降口まで駆け下りた。体力は有る方じゃないからゲホゲホむせながら早足に高校を後にする。


(何なんだ……あの女!?)


 今までは遠巻きに見ていた時は小麦色の肌でどちらかといえば黒ギャルに分類される陽キャという印象しか無かった。だから接点も特に無かった俺に急に関わって来るようになったのが不気味過ぎた。




「ふ~ん、タマが……何でだろ?」


「そうなんだ……海上の目的が分からない、無駄に接近して来て」


 家に帰ると綺姫がテストお疲れ様と言って出迎えてくれて昼食まで用意してくれていた。彼女の作ってくれた親子丼は俺の腹を完璧に満たしてくれた。


「ま、まさかっ!? 星明のこと狙ってるんじゃ……」


「ふぅ、ごちそうさま綺姫」


「お粗末様でした……って、それよりタマだよ!?」


 確かに何で俺なんかに急接近して来たんだろうかSIGNのIDまで教えて来るし綺姫が学校に出なくなってからの動きが怪しい。狙いは一体なんだ。


「まさか綺姫と俺の関係がバレた?」


「それは無いんじゃないかな……それよりもアタシは星明の魅力に気付いて急接近したって可能性が有ると思う!!」


「綺姫も冗談言うんだね、俺なんて学校で一度もモテたこと無いしそれに――――」


 それに陰キャでボッチと言おうとしたら綺姫に人差し指で口を押えられて止められてしまった。


「星明は良いとこ沢山あるんだから自分を悪く言うの止めなよ……」


 そう言うと泣きそうな笑顔を向けられ俺は困惑すると同時に自然と心が温かくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る